新米わさび農家の嫁が語る【畳石式わさび田とは】
皆さま、こんにちは。
滝尻わさび園の浅田恵子です。
前回の投稿の最後に「次回は畳石式わさび田について話します」なんて安易に書いてしまい、書いてからの後悔、、
noteで語れるほどの知識がない。。
どうしようかと悩み、あっという間に一週間が経ってしまいました、、
しかしながら、ここ数日、わさび田を案内する機会が続き、わさび田を案内するなかで、大事なことで知ってもらいたいけれど、どうしても私の話術だけでは丁寧に話しができず。。
そんなジレンマを持ったので、今回は丁寧に掘り下げてみたいと思います。
①畳石式わさび田とは?
中伊豆筏場のわさび田
写真引用:http://kanko.city.izu.shizuoka.jp/form1.html?pid=4942
「畳石式わさび田」とは、1892年(明治25年)頃、伊豆市中伊豆地区で平井熊太郎氏(上大見村・現中伊豆原保地区)によって考案されたわさび栽培方法です。
わさびの栽培方法は、わさび栽培の普及とともに地域に適した栽培方法が確立され、現在、主に5つの栽培方法があります。
①有東木・多摩地域で用いられている
「地沢式」
②島根県・鳥取県など中国山系で用いられている「渓流式」
③長野県穂高・安曇野地域で用いられている「平地式」
④御殿場・小山町で用いられている「北駿式」
⑤伊豆地域で用いられている「畳石式」
畳石式わさび田の構造は、下層の大きな岩から上層へ徐々に石を小さくし、わさび田の表面と内部に水を通すことで、水温の安定と栄養分や酸素の供給を実現し、質の高いわさびを安定して出荷できるようになり、畳石式わさび田栽培方法が開発されたおかげで、伊豆産のわさびは生産量、栽培面積、産出額ともに日本トップクラスを支える技術であります。
畳石式わさび田農法をお話しする前にわさびを栽培するにあたり大事なポイントを3つ挙げておきます。
◇常にきれいな水が流れていること。
◇水温が常に15℃前後であること。
◇夏場も暑くならないところ、標高が高い地域。
わさびはとても土地を選ぶ作物でもあります。
《畳石式わさび田農法に着目すべくポイント》
ポイント1
わさび田を階段状に作ることで、上段から湧き水を掛け流し、最下段田から河川へ排水します。
湧き水を一旦わさび田を流れ、最後は川に戻します。
そのため、わさび栽培においては、肥料や農薬の使用を厳しく制限されています。
(農薬や肥料を使っても、結局常に掛け流しの状態なので、流されてしまう部分も多いのだそう。)
ポイント2
わさび田に流れる湧き水をより内部まで染み込みやすくするために、大きな石の上に小石、砂利、砂と4層の濾過する仕組みを考案。
表面だけ湧き水が流れているだけでなく、わさび田の中まで染み込ませることによって、わさびは水に含まれるたくさんの栄養を蓄えることができ、大きく育つようになりました。
ポイント3
染み込んだ水は、わさび田の底を流れ、下の段に流れる際に「田尻水路(たじりすいろ)」に流れついた表面にながれた水と一緒になります。
表面を流れた水は下段に落ちる際に空気が含まれ新鮮な水に、染み込んだ水は、しみこんだ水が濾過されてきれいになり、下の段にも新鮮で綺麗な水がながれ、広い面積での栽培も可能となりました。
※静岡水わさびの伝承栽培|世界農業遺産・日本農業遺産 静岡水わさびの伝承栽培HPより引用
②平井熊太郎さんとはどういう人?
詳しくは、添付した資料に記載されていますが、明治時代中期、すでに伊豆ではわさびの栽培が盛んでした。しかし、小石と砂だけのわさび田では、「ヌク」と呼ばれるドロによってわさびが腐り困っていた。当時、村人のひとり、石屋(※1)をしていた平井熊太郎(以下「熊太郎」と記載)が、わさび農家が困る姿をみて、「私がなんとかしよう」と、1人で新しいわさび栽培方法を考えはじめました。
そうして、熊太郎は、遠くのわさび田まで足を運び学び、新しいわさび田づくりに試行錯誤する日々を重ね、課題を見つけます。
水の中まできれいな水が流れないため、ヌクがたまってしまうことを突き詰めたのです。
そこで熊太郎は、濾過させることを考えつき、石を組む方法を研究し、新たなわさび田の構想を完成させます。
そして、当時わさび田の持ち主の「だんなさん(※2)」に頼み込み、大反対を押し切り、わさび田を借りて一人で新しいわさび田づくりに取りかかりました。
工事車両も大掛かりな工事道具もない、使えない中、ほぼ手作業で行われた畳石式わさび田づくり。
熊太郎はたった一人で約半年で完成させました。
※1)昔はわさび田の修理や工事を専門に行う人を「石屋」さんと呼んでいました。
※2)昔はわさび田を所有するオーナーが「だんなさん」と呼ばれ、「だんなさん」が何人か人を頼みわさび栽培をしていたそうです。
熊太郎が完成させた「畳石式わさび田」が完成し、翌年、何倍もの太いわさびが育ちだんなさんも大喜び。
評判を呼び県内各地に広まっていきました。
特に伊豆地域では、昭和5年の伊豆震災や昭和33年の狩野川台風によるわさび田復旧工事によって、急速に広まっていきました。
平井熊太郎氏が考案した「畳石式わさび栽培」によって、今日まで、伊豆のわさびが高品質かつ安定してわさびを生産し続けられている礎となっております。
③畳石式わさび田の未来
「畳石式わさび田」は、長年使っていると砂の詰まりで溜まり水になるのを防ぐために、何十年に一度、「畳替え作業(たたみがえ)」という作業が必要となります。
「畳替え作業」とは、わさび田の砂や石をすべて掘り起こして洗浄しら改めて手作業で敷き詰めていく工事です。
石を敷き詰めていくにも、畳石式わさび田の仕組みを熟知した熟練の専門的知識が必要となります。
今まではその仕組みを熟知した石屋さんや、ベテランのわさび生産者に「畳替え工事」を主に請け負っていました。
しかし、近年では、伝統の畳石式わさび田の仕組みを若手生産者へ教えて伝える技術継承が必須となり、少しずつ継承する機会を設けているそうです。
ただし、現実的に維持していくことは容易ではありません。
畳替え工事にしても、10aで人件費だけで数千万円かかると言われています。
それだけをかけるほどわさびの値がつけばよいのですが、現実は難しい。。
そうなると、現状維持で使っていくしかありません。
また、できなくなれば手離すほかありません。
「畳石式わさび田」は、急峻な山間地にあり、自然災害に襲われることも多い地域でもあります。
しかし、過去の自然災害の復旧工事によって自然災害に強い構造を持っています。
また豊富な水を蓄えるとともに水の流れを緩めるため、多量の降雨による河川の氾濫を抑制し、下流域を災害から守る役割も有しています。
自然の力によって上段から下段へながす「畳石式」や「地沢式」は、クリーンエネルギーを利用し、豊富な湧水が絶え間なく流れ、肥料も農薬もほとんど使わないため、環境への負荷は極めて低い農法でもあります。
それゆえ、わさび田周辺には豊かな自然環境を保持し、高い生物多様性を生み出しています。
水深が浅く、溶存酸素が豊富なわさび田には、清流を好む水生動物が多数生息し、渓流域における食物連鎖が築かれています。
限りある資源を守り、山の環境を維持して行く役割も担っているとも言えます。
先人たちが並々ならぬ努力と共に築かれた「畳石式わさび田」。
後世にも伝えていきたい、農法でもあります。
後世に伝えていくためにも、山の環境を保っていくにも、わさびを栽培農家が担う役割は大きいと感じております。
この先は新米主婦では語れないため、今日はここまで。
ぜひ、職業や立場を超えたアプローチが未来につながっていくのではないかと私は密かに考えています。
ぜひ、皆さまのお力添えください。
※内容で言い間違いや訂正があるかと思います。ご了承ください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感謝✨