
昆虫のすごさって 何? 不完全変態でもすごい!
地球は昆虫の惑星
最近出版された子ども向けの昆虫図鑑『学研の図鑑LIVE昆虫新版』2022年発行には、
地球上にすむ生物種のほとんどが昆虫なのです。いわば、地球は昆虫の惑星といえます。
~ 研究が進めば、原生生物(ゾウリムシなど)や線形動物(センチュウ)の種数も多いといわれていますが、すがた形や生活の多様性を考えると、やはり昆虫がもっとも多様な生き物といえます。
とあります。同じページに全生物種を示す円グラフがあり、確かに昆虫が半分以上を占めています。
前回、「昆虫はすごさって 何?」と題して、昆虫の観察会での資料をもとに昆虫の「変態」について書きました。今回は不完全変態について書きます。
不完全変態 ~ 幼虫にも6本のあしがある
次の写真はみんな幼虫です(この記事では2種のみにしています)。ハラビロカマキリは、こちらをじっと見てファイティングポーズをとっています。親に負けていませんね。次の写真はヨコヅナサシガメ。ハサミムシをとらえて体液を吸っています。幼虫でありながら、ともに肉食で、成虫とあまり形や性質の変化がありません。最後の写真はルシボシヤンマの羽化のようすです。これは水中から大空へと住む場所を変えています。生活場所がちがうこともあって、姿は前の2種にくらべてちがうようです。ともに肉食で幼虫(やご)の方が怖い顔ですね。



幼虫にはハネも出てくる
これらは、さなぎの時期を持たない昆虫です。この変態を「不完全変態」といいます。幼虫に6本のあしがあるだけでなく、よく観察すると、小さなハネが見つかります。脱皮を重ねるうちに出てきます。これはハネのもとで、翅芽とよびます。不完全変態の昆虫を、外翅群とよぶこともあります。(昆虫のハネは、鳥のハネとはつくりがちがうので翅と書きます)

これに対してさなぎの時期のある変態を「完全変態」といいます。完全変態する仲間の方が多く、昆虫全体の8割近くを占めています。やはり繁栄しているのは完全変態する仲間です。ハネは幼虫の体内で準備されるので、外からは見えません。
完全変態 チョウ ガ カブトムシ ハチ アブなど
不完全変態 セミ カメムシ トンボ バッタ ナナフシなど
ナナフシは親もハネがないが、生きるのに不利なことはないのか?
不完全変態する昆虫でも、成虫になるとハネをもっているので遠くへ移動できるようになります。結婚相手を見つけたり、分布を広げたりできます。
雑木林の林縁などでみつかる昆虫にナナフシがいます。枝そっくりな形をしていて、すぐ近くにいても気づかないことが多い昆虫です。ナナフシは、成虫になっても空を飛べるハネが生えてきません。トビナナフシというハネのある仲間もいるので、必要がないのでなくなってしまった、とも考えられます。でも、もしそうなら、ハネがあることで結婚相手を探したり、分布を広げたりすることができなくなって、困る気がします。

ナナフシの卵は固く丈夫で、植物の種子に似ています。「鳥に食べられても、体内の卵は消化されずに排泄される場合があるのではないか」と考え実証した研究があります。これまで、鳥に食べられた昆虫は、子孫もろとも死んでしまうという考え方が常識となっていました。これに対して、神戸大学の研究者らが、「昆虫の親が食べられても、親の体内の卵は消化されずにふんと一緒に出されることもあるのではないか」と仮説を立てました。ナナフシの卵を鳥に食べさせると、一部の卵が無傷で出され、ふ化するという結果を得られました。
ナナフシのようにあまり移動できない昆虫では、鳥に食べられて分布を拡大するようです。植物では、果実を鳥に食べさせ、種子を遠くに運んでもらいます。ナナフシも似たやり方をしているのかもしれません。
昆虫繁栄の秘密は変態という成長の仕方にあります。しかし、ナナフシのように不完全な変態でも、なんとか工夫して地味に生きている昆虫もいるのです。
それぞれ工夫して、環境に適応しながら生きていることが、昆虫の繁栄につながっているのでしょう。観察会ではその様子のほんの一部でも見ることができれば思っています。さあ一緒に観察に行きましょう。
実際に、ナナフシにであった子どもたちは今まで以上に目が輝いていました。
最初に紹介した『学研の図鑑LIVE昆虫新版』は、電子書籍で購入して、iPhoneとiPadに入れています。いつでも取り出せ野外でよく使っています。とりあげたナナフシの話も載っていました。さすが 新版!