食いしん坊の段取り
今夜は冷えるから、お鍋にしよう。
でも、その前に、お風呂であったまりたい。お風呂であったまってから、アツアツの鍋をつつき、冷たい日本酒を飲みたい。
それを叶えるには、どうするか。食いしん坊の私は、考える。
わが家の冷蔵庫にある材料は、スーパーの特売日に買った白菜と、家飲みのときにおつまみにしようと思っていたベーコンである。それ以外にもあるにはあるのだが、どれもお鍋の材料にはふさわしくない。
ベーコンだって、本来はお鍋の材料ではないかもしれない。しかし、その日の私は、いつぞやネットで見た「白菜とベーコンの鍋」というものをつくってみたかった。
よし。まずは、家に帰ったらすぐに、冷蔵庫を開けて、白菜とベーコンを取り出し、お鍋の準備をする。
お鍋の準備は簡単だ。白菜とベーコンを食べやすく切って、白菜は鍋の外側から内側へ向かってギュギュっと詰めて並べ、その上にベーコンをのせる。
その上から、顆粒の和風だしと料理酒をふり、白菜とベーコンがひたひたになる程度の水を加え、ふたをしておく。ここまでが、お鍋の準備である。
そして次に、コンロに火をつけ……ではなく、お風呂に入る。
お風呂……。ああ、浴槽にお湯がたまるまでに、時間がかかる。そうか。それなら今夜は、百歩ゆずって、シャワーだけにしよう。シャワーでも、十分に身体はあたたまるはずだ。
お風呂場へ行き、そそくさと洋服を脱ぎ、シャワーを浴びる。
ふぇ~。あったまった~。生き返った~。と思いながら、お風呂場から出ると、キッチンへ直行し、コンロに火をつける。キッチンタイマーをセットする。
お鍋ができるまで、約15分。この15分が勝負だ。
何よりもまず、下着をつけて部屋着を着る。せっかくシャワーを浴びてあったまったのに、ここで身体を冷やしては本末転倒である。
次に、お肌に化粧水やらクリームやらを塗りたくり、保湿する。冬の乾燥した空気は、年齢を重ねたお肌には大敵である。
そして、乾いたタオルで髪をわしゃわしゃ拭き、ザッとドライヤーをかけて乾かす。私はショートヘアなので、ザッと乾かすだけ。セットなどという時間のかかるものはやらないし、できない。ああ、そういえば、若いころは長い髪だったから、乾かすだけでも時間がかかっていたなぁ。なんてことを思い出したりする。
さて。そんなこんなで、キッチンに戻ってみると、タイマーの残り時間は、あと数分。
よし。間に合った。冷蔵庫で冷やしておいた日本酒を出す。小さな瓶に入った日本酒と、お酒用の小さなグラス、お鍋を食べるときに使う小皿と箸。それを食卓にセットする。
ピピピ、ピピピ、ピピピ……。
キッチンタイマーが鳴った。キッチンへ戻り、お鍋のふたを開ける。フワッと湯気が立ちのぼる。
おお、いい感じ。
仕上げに黒コショウを多めにふって、完成。鍋ごと食卓へ運ぶ。
「いただきま~す」
かくして、私はお風呂で(シャワーで)あったまってから、アツアツの鍋をつつき、冷たい日本酒を飲むことができたのであった。
この段取りのよさ、今年は仕事にも活かしたい。