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ゴッドファーザー : RAPM

はじめに

「バスケって得点・アシスト・リバウンドってたくさんのスタッツがあるけど、結局誰が一番上手いの?」というような質問ことを思ったことがあるかもしれません。そんな質問に答えようとしているのがオールインワンメトリクスと言われるカテゴリーの指標です。オールインワンメトリクスとは、あらゆるスタッツをかき集めて、選手が試合へ与えるインパクトを一つの数字で表現するスタッツのことを言います。今日は、オールインワンメトリクスと言われるものの中でも、最も重要な存在であるRAPM (Regularized Adjusted Plus-Minus) について少しばかり解説ができればと思います。

バスケットボールというスポーツは、自チームが相手チームよりも多くの得点を決めることで勝つことができるスポーツです。ただ、ある選手が2点をとっても、必ずしも1人の選手が2点分の貢献をしたわけではないというところが評価をするときに難しいポイントです。例えば、得点をした選手にパスをした選手だったり、その前にリバウンドをとった選手。この二つはボックススコア上で分かることがありますが、コーナーで待機していてディフェンスをヘルプに行かせなかった選手もチームの得点に貢献しています。最後の例のように、「数字に表れない貢献」というものも存在するのが事実です。

RAPMってなに?

RAPMとは、選手がコート上にいる間のチームの得失点差をベースに、各選手の貢献度を測るスタッツです。RAPMの計算をする際には、バスケの伝統的なスタッツである得点・リバウンド・アシストのようなものは一切使用せずあるポゼッションにどの10人がコートに立っていて、そのポゼッションに何点決まったか (もしくは決まらなかったか) といったポゼッションを並べたデータを使います。

単純に得失点差を見るだけであれば、怪物級の選手と一緒にプレーする時間が長い平均的な選手も得失点差上のパフォーマンスが良くなってしまうと予想できます。RAPMでは回帰分析を用いて、各選手と一緒にプレーした味方選手や対戦した相手選手の影響を調整します。これにより、チームメイトの影響を受けにくく、より正確に個人のインパクトを評価することができます。

ここで注意しておきたいのは、RAPMは選手の技術や才能、能力そのものを推定しているわけではありません。Seth Partnowは、彼の本Midrange TheoryでRAPMの値は次のように解釈できると書いていました。

“In the role in which they were used, this player added or subtracted an estimated X points per 100 possessions”

Seth Partnow, Midrange Theory, 2022 

日本語に言い換えると、「その起用法において、この選手は100ポゼッションあたりおよそX点分加算または減算したと推定される」というような文章になるかと思いますが、一言ではインパクトと表現するのが正しいのかなと考えています。そのため、移籍やチームメイトの入れ替わりによって起用法が変わった場合、RAPMの値も大きく変わることがあります。*これはRAPMだけでなく、RAPMをベースに作られているほとんどのオールインワンメトリクスに言えることです。

計算に使われるテクニック (概略)

RAPMの計算プロセスは非常に複雑なので、ここですべては説明しません。「難しい計算はいいよ!」という方はここは飛ばして頂いても結構です。

RAPMでは、各選手のオフェンス・ディフェンスそれぞれへのインパクトを変数とし、それを対象の試合のポゼッションのデータに当てはめていく、というような計算をします。そして最小二乗法を用いて、各選手が試合に与えたインパクトの推定値と実際の得失点差の差が最小になるような係数を算出します。この係数を最終的にRAPMの値として使います。

RAPMではリッジ回帰と呼ばれる手法を使い、係数 (RAPMの値) を求めます。単純な回帰分析ではなくリッジ回帰を使うことで、過学習を防ぎ、結果の予測精度を高めることができます。言い方を変えると、リッジ回帰を使うことで過去の結果にとらわれすぎることなく、より本質的な選手のインパクトを推定することができます。

ただ、RAPMの計算をするにあたり1点注意が必要なことがあります。RAPMで良いデータを計算するのには1シーズン分のポゼッションデータでは足りない場合がほとんどで、個人的には最低でも3シーズン分のデータが必要だと考えています。理由としては、1シーズンのみだとラインナップの組み合わせが限られたりと、サンプルサイズの確保が難しいからです。

BリーグでのRAPM上位

では、実際に誰がRAPMで優れているかを見ていきましょう。以下は、B1の2019-20から2023-24シーズンまでの5シーズンをサンプルとして計算したRAPMの上位10人です。右側のRankは全628人の選手の中での順位となります。

直近5年のデータを使用したRAPMのトップ10

今年チャンピオンになった広島のエバンスとブラックシアーであったり、レギュラーシーズン1位の宇都宮からは比江島とニュービルがランクインしています(エバンスとニュービルは前所属チームの期間のデータも含みます)。他にもクーリー・サイズ・齋藤拓実と何年もBリーグのトップで活躍し続けている選手です。ここに載った10人の選手たちは、誰もがBリーグトップクラスと認めるような選手ばかりだと思います。5年間のポゼッションデータがあれば、伝統的なボックススコアを一切見ずにこれだけの精度で選手が試合に与えるインパクトを推定できます。

RAPMの応用

RAPMはこれだけでは終わらず、様々な応用をすることができます。まず、RAPMは他のオールインワンメトリクスを作成する際の、回帰分析の対象として使われます。先程RAPMに必要なデータが最低3シーズンと述べましたが、1シーズンのデータで精度の高いインパクトを推定しようとするものが多くのオールインワンメトリクスのコンセプトです。BPMやPIPMのようなオールインワンメトリクスを作成する過程で、ほとんどの場合RAPMが使われます。タイトルでゴッドファーザーと書いたのは、RAPMがオールインワンメトリクス界においてゴッドファーザー的な存在であるからです。

また、RAPMが算出しているのは選手がチームの得点に与える影響となりますが、これはポゼッション毎のラインナップのデータと何点決まったかというデータをリッジ回帰モデルに与えているためこの単位となっています。リッジ回帰モデルに与えるデータを変えることによって、選手がチームのリバウンドに与える影響だったり、ターンオーバーに与える影響など、様々なデータが算出できます。このようなデータを見ても、「数字に残らないリバウンドへの影響」といったものがわかる興味深い指標になります。

最後に

記事を最後まで読んでくださった方、ありがとうございました!最初に挙げた「バスケって得点・アシスト・リバウンドってたくさんのスタッツがあるけど、結局誰が一番上手いの?」という質問に答えるということは、重要であると同時に難しいことでもあります。今日解説したRAPMという指標は、この難しい問題にアタックをした中でも特に重要な指標であり、今出回っているアドバンスドスタッツの中でも、一番回答に近いものではないかという風に思います。現に、アナリティクスが進んでいるNBAでも未だに使われていたり、ほかにもアイスホッケーでも同じような考え方が使われているようです。

今後、PIPMやBPMについても改めて同じような文章を書こうと思っています。引き続きよろしくお願いします!

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