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『オブジェを持った無産者』を読んでいる。2 つづき
「トマソン黙示録」の展覧会
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●通り抜けた家 The house passing though
赤瀬川原平さんに会ったことがある。
銀座の佐谷画廊で、「トマソン黙示録」の展覧会が開かれている時だ。
ちょうど、赤瀬川作品を読み始めた時期だった。芸術新朝の「ひしゃげた親切」が出てくる文章が面白いと友人に力説すると、今、銀座で赤瀬川さんは個展中(らしい)だから会いに行ってみたら、などと言う。
「最終日に行けば絶対に会えるよ!」
と、新幹線代まで用意してくれた。
地下一階にある佐谷画廊の階段を降りると、案の定、赤瀬川さんは、ファンらしき男女と中央のテーブルで、談笑しておられた。
入り口の受付に置いてあった瀧口修造氏のパンフレット(のようなもの、何だったんだろう)を読んでいると、赤瀬川さんが
「瀧口修造さんはお好きですか?」
と声をかけて下さった。(こんな一ファンにも、丁寧なお言葉で!)
わたしはどきまぎしながら、
「いや~、ここにおいてあったものですから。。」
などど、とんちんかんな受け答えをしている。
わたしも中央テーブルに混ぜてもらって少し話をした。四角いメロンの話とか、装幀のはなしとか。。
そして、写真を一緒に撮ってもらっていいですかとお願いして最初の2作品(通り抜けた家とツタの絡まる無用の庇)の前で、ファンらしき男の人に撮って頂いた。わたしのカメラ(オリンパスOM10 )はストロボの調子が悪く、不機嫌だったので、念のため400のフィルムを装填しなおして、もう一度撮って頂いた。
「「不機嫌を治さないと質屋に売ってしまうからね」と言っているのですが」
などと言うと、
「質屋へ持って行っても、いくらにもならないので、持っておくといいですよ」と言ってくださった。
家に帰って現像に出すと、やっぱり、100のフィルムは間暗闇のままで何の痕跡もなかったのだけど、400の分は、2枚しっかり写っていた。
写真はいつも過去形で語られるというけれど、その過去は、いつも優しく現在に介入して、わたしを支えてくれる。
「オマージュ瀧口修造展」シリーズ
その時の、展覧会について書かれた新聞の切り抜きを見てみると、「オマージュ瀧口修造展」シリーズの8回目に企画された今展とある。何回かこの切り抜きを読んでいるはずなのに「オマージュ瀧口修造展」シリーズの8回目という意味を理解していなかった。あの展覧会は「オマージュ瀧口修造展」だったんだと驚いている。8回目ということは、今まで、オマージュ展が7回開催されていたんだということです。新聞の切り抜きのつづきはこうなっている。
「オマージュ瀧口修造展」シリーズの8回目に企画された今展について、作者は「瀧口修造氏の光の中に置くことで、トマソンはその光をより強く反射することになるだろうと思う」と述べ、まさに瀧口の「遺産」の一端を提示した試みと言える。
赤瀬川原平、25年ぶりの作品展
オマージュ展にふさわしい、光という言葉を配置したこの一行が、心にジーンと響きます。
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風の舌
この間、友人のSさんの詩を読んでいると、やたら〈舌〉がでて来るので、日本の詩の中に、〈舌〉という言葉はあまり登場してこないと思うし、〈舌〉には、あまりいい言葉の出会いがないと思うよ、などど言っていた。アメリカ人のSさんは、〈舌〉には言葉という意味もあるんだと言う。
ところが、ついこの間、『瀧口修造の詩的実験』の中に、なんと、〈舌〉を発見したのだ。これである。
ホアン ミロ
風の舌
いつも晴れているコバルトの空が
嚙みついた
あなたの絵
太古のポスターのなかで
言葉たちが小石のようにまどろむ
羽毛のギャロップ
荒縄と猛獣たちの会話を
誘拐する
天国と地獄の結婚を
あなたは瞬くほくろのなかにえがく
鏡のなかのリボンを結ぶよりも
速かに
子供たちの廣場
転がる球に紛れて飛ぶ
一つの透明な球
それをミロと呼ぶ
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赤瀬川作品を買うとしたらどれにするかと妄想するのが楽しい。
展覧会を見終わったときは、「同じ日のハレー彗星」を飾った室内を想像していた。
今は、断然、「風のレコード・大盤」だ。
そう思っていたところ、瀧口氏の「風の舌」の詩を見つけたので、「風のレコード」と重なってくる
「風のレコード」=「風の舌」
「風のレコード」は、瀧口修造語に翻訳すると「風の舌」になるのかな。
〈舌〉も、〈風〉と出会って、手術台で出会う言葉たちのように、こんなにも素敵になるんだから凄いなと思う。
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