売れたのに、嬉しくない。
私は布で制作をする。
これまで仕事をしてきた中で、いくつかの布屋さんが営業にやってきた。この布を使って作品を作ってくださいと。店を運営しているときには作り方を教える教室も店の片隅でやっていたので、この布を使って教室をしませんかと。
そうやって営業さんに勧められた布の多くは、ハンドメイド好きならだれもが知るような人気のブランドの布だった。そういった布で許可なく制作して販売することは、著作権法か何かで違法に当たるけれど、布の横に作品例としてサンプル作品を置いて布を販売することや、裁縫を教えることをメインとする教室でその布を使い、講習代をいただくことは違法ではないという話だった。
集客できますよ、売上が延びますよ、という営業さんの言葉に目がくらむ私がいる。
私はその儲け話に乗ることにした。
そして営業さんの言う通り、その布のブランドを掲げてみると、その名に引かれて集客数は延び売り上げも上がった。そして、ノーブランドの布を横に置いておくと、その布も紛れてどんどん売れていった。
売れている。私は売り上げを作りたかったはず。あれ?でも嬉しくない。なんでだろう?
その時私はなぜ嬉しくないのか分からなかった。その流れに身を任せておくと、布目当ての集客と売り上げがどんどん伸びていく。
だけど何かが違う。何が違うんだろう。言葉にできない違和感がある。
よく分からないけど、このままではダメだ。
私はブランドの布を利用した仕事を全部やめてしまった。
言葉にできなかった違和感を、今ここで言葉にしてみる。私は「創りたかった」のだと思う。誰かの作った人気ブランドの布を利用して、そこに上乗せされた利益をサラッと自分のものにする。そこに私の「創りたかった」気持ちは昇華されていない。
もちろんブランドの布の素晴らしさや、仕入れて利益を乗せて売るという行為や、そこに関わる人のことを否定しているわけではない。
ただそれが、私の本当の気持ちと一致していなかったのだ。
これは、私の生まれ持っての使命というか、そんなレベルの話だと思う。
「売りたい」のではなく「創りたい」。
資本主義社会の中で、本当の自分の欲するところが見えなくなっていた。