雑草魂とは,何度でも立ち上がることではない。しなやかに乗り越えることだ。-『雑草という戦略』
中学生に国語(自然に関する評論文)を教えていたときのこと。
「雑草ってどこから来たんですかね?」
思わずハッとした。確かに,当たり前のように道端や公園に咲いている雑草について考える機会がなかった。
「いい問いを出してくれたね」とぼやかしてその場を乗り越えたものの,頭の片隅にこびりついてしまう。
数日後,週に1度は行く書店に行ったら偶然見つけてしまい,その生徒に説明したいと思い手に取った。
著者の稲垣英洋さんは静岡大学大学院農学研究科教授・農学博士であり,さまざまな本を出されている。『面白くて眠れなくなる植物学』や『生き物の死にざま』など,書店のメイン棚で何回か目にしたことがあった。
最近だと,植物の生存戦略をビジネスに応用している本が増えてきている印象。
植物が「雑草」に至るまで。
そもそも雑草はどこから来たのか。
①巨大化
その答えに至るまでに,恐竜が生きていた2億3000年前に遡る。草食恐竜に食べられないようにするために,植物は光合成を通じてより巨大化に勤しんだ。
他の植物よりも大きくなろうと植物同士で競争しあったり,草食恐竜も植物を食べようと益々サイズがデカくなる。
6600年前ごろになると,恐竜が絶滅し始める。地殻変動が起こって大陸同士がぶつかり合い,山ができて風と衝突して雨が降る。つまり,大気が不安定になる。
②「草」
(版権名©123RF.COM)
気候が安定し光合成が活発に行われていた環境から不安定な環境になったことで,植物は「草」という小さなサイズに転換した。
ゆっくりと時間をかけて大木になるより,短い期間に成長して花を咲かせ,種子を残していくためだ。
一方,恐竜たちも「草」の台頭によってトリケラトプスのような首の短いスタイルに変容した。「草」のイノベーションが恐竜にも影響を及ぼしている。
「草」も自分たちが食べられないように,毒性のある化学物質を発達させる植物も現れた。実際,恐竜の化石の中には中毒を思わせるような生理障害が見られている。
③「雑草」
「大木」から「草」の変容でも十分環境に適合している。やがて氷河期になると,さらに環境が変化し最悪の生物「人間」が登場する。森を開拓して村を作ったり,大地を耕して畑にしたりしている。
しかもそれまで起こっていた自然環境よりも頻繁に,かつ不規則に発生する。つまり,変化の大きさと頻度はそれまでの比ではない。
「変化する環境」に適合するために「雑草」に至った。
(最低ここまで伝えれば生徒も納得するはず。笑)
植物の戦略:CSR
雑草の生存戦略に入る前に,植物の戦略から考えていく。
そもそも戦略を立てるとき、何に考慮するだろうか。
他者よりも圧倒的に上回って真似できない自分だけの強みや得意なこと(=コア・コンピタンス)を活かせるか。
生物上ではニッチという言葉で表される。生物の世界ではナンバーワンしか生き残ることができず,2番以下は淘汰される。ものすごく厳しい世界である。
しかし,どこかの部分でナンバーワンであれば,生き残ることができる。
例えば、自分のコア・コンピタンスが「走るのが速い」としたとき、
世界>日本>都道府県>市町村と小さく限定していって、自分が1番になれる場所で1番になればいい。
実際、生物の世界でもニッチは小さくなりやすい傾向にある。
それを踏まえて植物の戦略として、CSRがある。企業の社会的責任ではなく、Competitive(競合型戦略) , Stress tolerance(ストレス耐性型戦略) , Ruderal(攪乱適応型戦略) と言う。
Competitive
Cにおいて大事なことは「サイズ」。サイズが大きければ大きいほど光合成に必要な光を浴びることができる。
しかし、競争力が大きい「木」が必ず成功するとは限らない。
Stress tolerance
Sにおいて求められることは「蓄積」。乾燥や日照不足、真冬の寒さなどに耐えられる能力があれば、競争力がなくても生存できる。
例えば,乾燥区域にいるサボテンは,水がないという悪条件さえ克服している。
Ruderal
Rにおいて必要なことは、「次々に襲いかかる変化に対応し、それをしなやかに乗り越えていく力」。予測不能な環境変化に対し,競争力は役に立たない。
全ての植物はこれら3つを駆使しながら生存している。なかでも、Rに特化して生存している植物が「雑草」になる。
Q.「雑草」の成功法則とは?
雑草の成功法則を因数分解すると、
逆境(①)×変化(②)×多様性(③)
①成長点を低くし、根っこを残す
例えば、オオバコという雑草は、踏まれることを前提としている。
実際,オオバコは道端や車が走る道路などに咲いていることが多い。
なぜなら,オオバコの種子は粘着する性質を持っていて、人や車が踏んだときに一緒に種子を運んでもらっているからだ。
踏まれることを前提としているし,踏まれなければ自分のコア・コンピタンスを発揮できない。
また,イネ科植物は狩られることを前提としている。
葉っぱが刈られたり草食動物に食べられたりしても、成長点が傷つかないようにしている。
②変化とはチャンス
雑草は自分自身を変化させる能力(可塑性)が高いから、環境に応じて自らをちょうど良いサイズにする。だから、人間と違って同じ種類でもサイズは全然違うことも少なくない。
環境が変わると,撹乱型適応戦略を持つ雑草は有利である。競争力を持っている植物は環境が変わることを嫌うのに対し,雑草はすぐに変化に対応できるからだ。
③多様性
オナモミ(別名:ひっつき虫)という雑草は,「せっかち屋」と「のんびり屋」2種類の種類を持っている。
オナモミをはじめ,多くの雑草の種子にはバラツキ(例えば大きな種子と小さな種子)がある。どちらが有利なのだろうか。
いや,そもそもどちらが有利かという問いそのものに誤りがある。予測不能な変化に対応するために両方用意している。
実際,全ての種子が発芽しているのではなく,来たるべき変化に備えて残している。
雑草魂とは,しなやかに乗り越えること
雑草魂と聞くと,「泥臭く何度でも立ち上がるようなイメージ」を持つ。
正直,自分から雑草魂と言って人に求めるようなスタイルは好きではなかった。
しかし,著書を通じて「雑草」の生存戦略(何度でも立ち上がるのではなく,変化に対応し,しなやかに乗り越えていくこと)を知ることができて,良いイメージとなった。
それに,雑草の生存戦略は昨今のVUCAやコロナ後の世界に応用することもできるのではないだろうか。
環境がガラッと変わりルールも見えないところで変わるだろう。競争力(=市場占有率)を持っていたとしても,ルールが変わったら撹乱適応型戦略の方が使える。
また,雑草は生まれる場所が枯れる場所であるから,人間よりも厳しい世界で戦っている。上手くいかないなぁ〜と思ったら,人間は自分のコア・コンピタンスを活かせる環境に移ることができる。それだけでずいぶん生存しやすい。
「フローからストック」「生存戦略」(もう1つは未定)を2020後半のテーマにしていて,そこに立ち帰るきっかけになった。
以上です。