フリーアドレスは貴族の遊び

10年前、代理店の営業だった頃の話。
部長が数日間もかけて座席表を作っていたことがあった。
その時に部長が語っていたのは、
「座席表は、チームに流れるエネルギー、血脈をコントロールする」ということ。
当時、固定席は当たり前だったので、その言葉に特別な意味を感じていなかった。
けれどいま、多様化と呼ばれる表面的な言葉遊びが振り翳され、フリーアドレスが主流となったこの時代において、その言葉の重さを改めて感じる。

座席の配置は、ただの机と椅子の並びではなく、チーム全体のエネルギーや情報の流れを形作る生命線である。
隣の席で同僚が話している内容が自然と耳に入る。
その何気ない会話が、自分の仕事に新しい視点を与えることがある。
視線が交わるだけで、お互いの進捗や熱量が伝わる瞬間がある。
それらは、Slackやメールには残らない、オフィスの空気中に漂う「ナレッジ」や「エネルギー」だ。

当時私たち営業チームは外出が多く、オフィスにいる時間は限られていた。
それでも、戻ったときにはその空気感を感じ取り、短い時間で状況を把握したり、必要な会話が生まれたりした。
固定席があったからこそ、その限られた時間に「血流」や「エネルギー」を感じ、自然とチームに馴染むことができたのだと思う。
隣や前に座る人から受ける影響、席の配置が生む情報の流れ。
チーム全体の血脈をコントロールする戦略だ。
新人とベテランを隣に配置すれば、自然と学びの流れが生まれる。
意見がぶつかりがちなメンバーはあえて距離を取ることで摩擦を減らす――
そんな小さな工夫が、チームの活力を大きく左右する。

ここで思い返すのは数々の戦で歴史に名を残した将軍たち。
彼らが味方の軍の配置を軽んじることは決してない。
歩兵をどこに置くか、
弓兵をどの位置に配置するか。
味方同士の連携をどう強化するか――
それらの配置が、戦の勝敗を分ける。

資本主義社会における事業もまた、戦だ。
戦場で勝利を掴むためには、オフィスという戦場の「配置」をどうデザインするかが生産性を上げる大きな生命線になる。
フリーアドレスは安全な場所で興じる貴族遊びにすぎない。

勿論今の時代では省スペース経営は当たり前の中で、リモートやハイブリットワークにより全員に固定席を用意するのは難しいかもしれない。それでも出社するメンバーだけでもその配置を考えることは大きな意味がある。

フリーアドレスが主流となり、席の固定や配置を考えることが挑戦と見なされる時代だからこそ、
改めて「配置の力」に目を向けるべきだと思う。

配置を制する者が戦を制する。
その配置は、チームの血流を形作り、未来の勝利を引き寄せる挑戦だ。
歴史に証明されたこの事実を、今の時代にどう活かすか。

やるか、やるか、やるか

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