エッセイ365.お施餓鬼の功徳で(下)
続きです。
撒かれる紙の蓮の華を拾っておしいただいたりしているうちに、法要はクライマックスに至りました。
お経の大合唱の中、御住職が供養をする人の名前をお経に誦み込み始め、自分のそれを聞いたら立っていってお焼香をし、立てかけてある自分の家の卒塔婆を受け取り、お墓にお供えし、お墓参りをして帰るという段取りなのでした。
お経の一部なので名前が聞き取りにくく、姉妹揃って、聞き逃すまいとどうしても体が前傾します。やっと自分たちの名前が読まれたのでお焼香を済ませ、外に出て、持った卒塔婆をお墓の後ろの卒塔婆立てに入れて、お参りをしました。
前日が台風だったし、参加者は少ないかなと思っていましたが、そんなことはありませんでした。
この頃は墓仕舞いの話題も多くて、お寺さんは大変だと思っていたので、たくさんの人が参加して、お線香の匂いが立ち込め、花立てに花がたくさん入れられていくのを見るのは、なかなか良いものでした。
渡されたお弁当は、神田志乃田寿司の、いなり寿司とかんぴょうの海苔巻きで、今までに食べた中で最高でした。私の法事の時にも絶対これにします。遺言に書いておこうっと。
ちなみに、なぜお稲荷さんが 「志乃田寿司」かと思うと、ちょっと私考えてみました。
これって、「信太の森の狐妻」からじゃないの?
字は違うけど。
狐と人間が結婚するタイプの説話があり、私でいうと歌舞伎の「蘆屋道満大内鏡という狂言で親しんでいます。
どういうお話かというと、安倍晴明のお父さんの、安倍保名と言う人がいまして、殺されそうな信太の森の狐を助けるんですね。その狐が恩返しに来て安倍保名と結婚して、晴明が生まれるのですが、正体がばれて、
「恋しくばたずね来て見よ 和泉なる信太の森のうらみ葛の葉」
という一種を障子にすらすらと書き(その不思議な書き方を見せるのが役者のすごいところ)、去っていくのですね。
狐は、稲荷明神のお使いで、好きなのは油揚げなので、その油揚げを使ったお寿司が「おいなりさん」。だから、いなり寿司のお店が 、狐妻出身地の信太にかけて「志乃田寿司」。
という感じがするけれども、違うかなぁ。
さて、家に帰って冷酒を飲みながらこのおいしいおいなりさんと海苔巻きを食べて、よい調子になって、夕方遅く私は帰途につきました。
今日の往路は、千代田線を新御茶ノ水で降りて、新宿線の小川町まで歩いて乗りました。帰りは京王線のある駅で用事があったので、小川町で降りる必要はなかったのです。わかっていたのですが、ずっと本を読んでいたためか、小川町でドアが開いて、閉まりそうになっていたとき、私は急に「あ、降りなくちゃ」と思ってしまいました。バカでしょう。よくあります。
それで、手に持った本を紙袋に突っ込み、ドアに挟まるかもと思いながら電車を駆けて出て、 ホームに飛び降りた瞬間、
かちゃ
と言う、微妙な音が背後でしました。
んん?
と思ったら、ブラウスの襟に引っ掛けてあったメガネがありません。
視野もボケています。
電車の車内にメガネを落としたらしいことに気づきました。
その電車が、18:32pmに小川町を出ていく、各駅停車笹塚行きであることだけは確認しました。
降り立ったホームの上も、メガネが落ちていないかと見回しました。
エスカレーターまで、徒歩20歩ぐらいであることを確認しながらエスカレーターに乗りました。
そして有人改札に下がったビニールカーテン越しに、駅員さんに
すみません・・・今降りた電車に、メガネを落としたかもしれません。
と弱々しく訴えました。
駅員さんはさっそく、車両番号や、車両のどのドアから降りたか、など訊いてくださいましたが、わかりません。
駅員さん:そのドアは、エスカレーターからは? 近かったですか?
私:降りたドアは、エスカレーターまで20歩ぐらいでした、多分。
それで十分です。ありがとうございます。
今からすぐ、車両を確認させますので、10分ぐらいお待ちください。
そうおっしゃったあとは、電話をかけたり切ったりを繰り返し、
どんなメガネでしたか?
茶色です。
ツルは?
半分金属で、耳にかけるところは樹脂です。
・・・結果ですが、私のめがねは新宿3丁目で車両内の床で見つかり、無事電車を下ろされて、駅長事務室へ運ばれたそうです。
たくさん電話をかけていたのは、小川町から笹塚駅までの各駅の駅員さんに連絡して、乗り込んでいただいて、見ていただいたんでしょうね。
神保町! どうだ!
ない!
では、九段下!
ない!
では市谷は!
ない!
曙町! ない!
新宿三丁目は!
あったぞ!
よし、降ろせ!
と言うようなことがあったと思うんですよね。
すごくかっこいいですよね。想像だけど。
よく車内アナウンスで、
「ただいま、お忘れ物の確認をしております。
ご迷惑をおかけいたしますが、少々お待ちください」
と言うようなのがあると思うのですが、私のメガネも、駅員様たちの見事な連携プレイで、無事、踏み潰されることもなく、見つかったわけですね。
考えると、もう閉まりそうなドアにダッシュして降りたおばさんの背後に、
メガネがかちゃんと落ちて、
「あ〜あ」
と思っていた人たちは、もしかすると、駅ごとに駅員さんが乗ってくるのを見ていたのですよね。
きっとね。
ここまで私の面倒を見てくださった駅員さんは、
新宿三丁目で見つかりました。
良かったですね。
では・・
と、駅長事務室への行き方を懇切丁寧におしえてくださり、それでも頼りなさそうに見えたのか、電話番号もつけてくれて、そのメガネが私のものではなかった場合に次に行く駅を教えてくれました。
私は恐縮してヘコヘコしながら、新宿線小川町の有人改札(エスカレーター上)を後にしました。
新宿三丁目の駅長事務室では、
「あの〜、メガネの」
と言った途端に、
「あ、メガネのtamadocaさんですね」
と温かく迎えてくださり、無事に私のメガネは手元に戻ってきました。
落としてから見つかるまで、だいたい約15分だったと思います。
実家に行くたびに、何かあります。
家の中で部屋の中に閉じ込められたのが一回、
玄関の鍵が壊れて鍵の110番を呼んだのが二回。
それで今回はメガネを振り落としました。
私思うに、実家で姉と「一家の歴史の答え合わせ」をしていると、毎回
「なんだそれ!💢」
という親の、よろしくない行動がばれ、
親とは言いながら、許せないわね
などと悪口を言うために、バチが当たるのかな、と思います。
でも私の親しい占い師の友人は、
「お墓参りをしなさいよ。もう仏様なんだから、悪いことはしないし、
あなたのことを悪く思ったりしないから大丈夫よ」
と言ってくれています。
それに加えて今日は、
「一回やったら地獄の餓鬼が全員飢えと渇きから救われて、浄土へ行けるという大施餓鬼会」
に参加してきたばかり。
お施餓鬼の功徳に私も(ついでに)救われて、
メガネぐらいで済んだということではないでしょうか。
そういうことにしておいて、死んだ人の悪口は(あまり)言わないようにしようっと、と思ったのでした。
サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。