日本語教師日記139.宿題についてー①受け身形をマスターしたい人の例
日本在住経験があり、いつかは日本に戻りたいという生徒は多いです。
せっかくマスターした日本語が錆び付いてきて、これではいけないと、レッスンを始めてくれる人ですので、やる気満々、そして宿題を求めます。
忙しかったり、お金が厳しくて、レッスンを月1とか、月2で受ける人たちももいますが、こういう人たちには、さらに多くの宿題を出しています。
質問も常時受け付けています。
レッスンの終わりに、「次はどんな宿題を出してほしいですか?」と訊いています。大抵は、そのレッスンでやったことをもっと練習したい、と言いますね。
一例です。
生徒:関西の大学に留学し、それ以外でも数年日本在住の経験のある人。
言葉はだいぶ忘れていますが、「最初の一文字(ひらがな)」をあげると思い出します。中国系で広東語は母語、第二外国語は英語ですが、幼児の頃から英語圏に住んでいるので、これも母語と同レベルです。
受身形がなかなか使いこなせず、苦労しているそうです。
短い文は上手に言えますが、言いたいことを受け身でさっと言えないので、英文和訳をたくさん練習したいそうです。
こんな宿題をやってもらっています。
日本語の受け身形には「被害の受け身」と言いましょうか、話し手が受けた精神的ダメージや実際的な被害があったときに使われることがあります。
受け身を使うことが、他の言語に比べてとても多いと感じます。
普通の受け身、例えば
「この小説は世界中の人に読まれている」
は外国の方に理解してもらいやすい受け身形ですが、
以下となるとどうでしょう。
・赤ん坊に一晩中泣かれて全く眠れなかった。
・雨に降られて楽しみにしていたキャンプに行けなかった。
・賊は彼女に顔を見られたので、後で戻ってきて彼女の口を塞ごうとするかもしれない。
最初の二つなど特に、訳そうとしないほうがいい文章です。
また、
・弟に蹴られた。
・母に叱られた。
などは間違えませんが、もう一つ「何を」ファクターが入ると、
最初はすんなりとはできません。
できなくて当たり前です。
・きれいな女の人が電車で私の足を踏んだ
↓
生徒:私の足は、電車できれいな女の人に踏まれた。
あるあるです。
間違いではないけれども、日本人ならこうは言わないでしょう
そこで、
踏まれて痛かったのは「私」ですね。被害者は私。
なので、「私は」で文を始めてください。
と言いますと、すぐ直ります。
正解:私は 電車の中できれいな女の人に足を踏まれた。
中上級者になりますと単に上手に動詞の活用ができるだけでは不十分です。
上に挙げたこの宿題を出した人は、「先生、もっと難しい宿題をください」 というタイプです。
上に載せた表の最初の文です。
When the door of the train opened and many passengers got off, I was too slow and the seat I was aiming for was taken(sat) by the other quick passenger.
生徒は素直に、きちんと訳してくれます。
🅰️電車のドアは開いてたくさんのお客さんは降りたとき、私は遅すぎて、
目的にしたシートは他の早いお客さんに座られた。
悪くないですね。
詳しく見ながら直して行って見ましょう。
電車のドアは、というと、この文章は電車のドアについてになりますので、「が」を使ってほしいところ。
「お客さんは」も、は、ではなくて「が」ですね。
ドアが開き、他のお客さんが降り、
そのとき「私は」どういう行動をとったのか。
ゆっくり考えながら訳してもらうと、間違いが少なくなっていきます。
英文和訳は、じっくり取り組めば、正確な助詞遣いの練習になりますし、
【直訳ならそれでいいけれども、実は日本人はこんなふうに言います】ということを伝えられますので、なかなかいいと思っています。
私の作った見本の文です。
「電車のドアが開いて、乗客がたくさん降りていったとき、もたもたしていたので、座ろうと思っていた席は他の乗客にさっと座られてしまった」
直訳では不自然になる部分は、新出表現として一緒に教えてしまいます。
I was slow ⇨もたもたしていた・さっとできなかった
ぐらいでいいかと思います。
a quick passenger: 速い乗客・・では伝わりにくいので、
「そういうことをするについては速い乗客」の行動、ということで、
意訳し、「他の乗客にさっと座られた」
ということにしました。
授業はほとんどの人は1時間ですが、
その後で宿題を作っている時間が結構長いです。
よく、
「宿題が終わったら、どんどん追加を送りますから、
終わったらすぐLINEしてください」
と言っていますが、
終わりました、もっと宿題をください。
と言っていいた人は、今のところはまだいないです。