エッセイ301.おうちでロスト・イン・トランスレーション(21)ふとんでロスト
リビングとの境の引き戸を開けると6畳の部屋です。箪笥と、開けていない段ボールが部屋の3分の1ほどを占めていますので、実質3畳に布団を敷いて、ぎっちぎちで二人の者が寝ています。
ある朝、夫が言いにきました。
「アイム・ソーリー、
今は私はこのマットレスを、
押し入れに入れることは できません」
「あっ、やっぱり腰?」
「そうなんです。
もうちょっとだとは思うんですがね」
私は100%在宅仕事であるので、家事は平日は担当しています。
夫は、夜、布団を敷くのと、朝、布団を畳んで押し入れに入れるのは、ずっとやってくれています。それができないというのです。
腰痛で。
きっかけはわかっていまして、先日 実家の姉に頼まれて、私と二人で二階から一階の空き部屋に、いろいろ家具を移動しに行きました。
二階からおろしたのは、六人座れる座卓が2、ベッド1、朝鮮棚と呼ばれる飾り棚などでした。
名古屋を去る直前、ジモティーで引き取ってもらったもののうち、結構立派な箪笥やベッドなども、二人で下ろすことが出来ましたので、今度も二人ならできると思っていました。
なんなら、少し自信があったぐらいです。
でも、いざとなったら階段の上でこわごわと、
「階段の下になった方が苦しいの?
上になった方が重くて辛いの?」
といちいち訊く私に対して、力持ちの夫が、
「まあいいからどいてなさい」
ということで、ほとんどを一人で下ろしてくれました。
しかし、鳴呼、その二日後に夫はきちんと腰痛になり、今に至ります。
ぎっくり背中と膝関節炎が持病の私は知っていますが、朝起きた時と、ずっと姿勢を変えないで立ち上がる時が、こういう関節関係は特に痛いです。
ですので今は、
「じゃ、夫、そろそろ行きましょうか。あ、あたたた・・」
「うん、行きましょう。あ、てててて・・・」
とまあ、高砂のじじばばのように よろよろ暮らしているところです。
顔もちょうど、このようになってしまいます。
さて、実家に何度も同行して、いろいろやってくれる夫に対して、そんなに腰が痛いのに布団を上げろなんて言いませんが、そもそも、敷布団の選択については、ちょっと間違ったかもしれません。
「ねえこの、主に布団を収納する広いクローゼットは、
「押し入れ」というその名の通り、
よっこらしょと布団を持ち上げて、押して布団を入れるわけだよね?」
「そうですね」
「それなのに、あなたの大好きな『テンピュ〜ル』の敷布団は、
重さも嵩もすごいです。
《ぜってぇ、下の段しか入ってやらないよ!》
と言っているかのようですよね」
「本当にそうですね」
「下の段に入れようとしても、私などは足で押しています」
「ほうほう・・・」
「これはね、断言してもいいけれども、テンピュールって、海外の会社ですよね?」
「うん」
「海外でよく、Fu-to~n! と言って売っているのは、木の枠の中に、敷布団様のものを、載せていて、一旦セッティングしたが最後、死んでもどこかに しまい込んだりは、しないよね?」
「しまう人は聞いたことがありません」
「一方日本人で布団育ちの古い人は、生まれてからずっと、毎朝布団を畳んで押し入れに押し入れて、夜は毎晩引っ張り出して、敷いています。
これが日本人の長寿の秘訣だ、という人さえいます」
「えっ、ほんと?」
「嘘です。
嘘なんですけど、だから、布団ていうのは、ある程度ポータブルちゅうか、女子供でもまあまあ、畳んで押し入れにしまえる範囲の重さでしょ」
「そうですね」
「この、枕で大成功したかもしれないけど、このテンピュールは、そこの視点が欠けているよね」
「なるほど!」
今は夫は、すんごいお利口な猿を見るぐらいの、尊敬の眼差しで私を見ています。
この会社の敷布団は、今は普通の「和のマットレス」のように、切れ目がはいって三つに分かれていて、マットレスのようには畳めるものもできています。しかしこれは私にはあくまでマットレスであって、そこにシーツを直接敷いて寝てみたい「敷布団」には思えません。
夫の使っているのは、「切れ目」もなく、売りである、というかテンピュールの存在理由である「低反発もの」ですから、素直にたたまれようとはしません。
朝、腰の痛い夫のために私が布団を押し入れにしまうときは、このマットレスだけはどうしようもありません。
ですので、ロールケーキのように、端から巻いて行くしかありません。
その「たたまれかた」からして、日本の布団の末席に置いてあげるに、抵抗があります。
ちなみに夫は、日本の敷布団でも、ロールケーキの様に、巻く感じで畳んでくれます。
私は、こっちの辺を、一旦あっちの辺まで運んでから、戻ってきます。何か名前のある畳みかただとは思うのですが、私の畳み方の方が、敷くときにはただ、端を引っ張って行けばよいので、効率が良いような気がするのですが、どうでしょうか。
そこはどうでも良すぎるので、夫に話したことはありませんが、夫のような畳みかたは、どんなに寝ぼけていても、私はしないです。
微妙すぎてよくわからないと思いますが、夫はロールケーキを巻く感じ、私は、前に進んだ後、後ろに下がって、畳む感じなんですよね。
どうでも良すぎる話が、また続きます。
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