日本語教師だよりその20. 時効かな?(2)個人レッスンと相性
個人レッスンのメリットはたくさんありますが、
なかなかうまくいかない場合も、もちろんあります。
教師の不得のいたすところです。
しかし、それでもそこには、相性というものがあります。
こちらのパーソナリティーと 生徒のそれとが、
どうしようもなくぶつかり合うこともあります。
ところが、生徒は生徒であって、交際相手ではないので、
「ごめんなさい、あなたとは合わないようですね。
お別れしましょう」
というわけにはいきません。
言いたいことが喉元まで出かかっても、
普通は言えるものではありません。
学校から派遣されている場合はなおさらです。
例外的に私がタブーを破って、言うべきことを言ったのは、
多分今までで2回ぐらいです。
それでも「自分を落として相手を立てる」という、最低ラインは守りました。
以前にも書きましたが、私に対して礼節を欠く発言をした生徒さんに対し、
🔥 くぉるら〜! 今何つった貴◯ァ!😡
と言う代わりに
「残念ですが、わたくしたちはどうも波長が合わないように思いますので、
ベターな先生をお探しになったらいかがでしょう」
というようなことを言いました。
お時間のある方は、こちらをご参照ください。
あともう1回は、目黒の とてもお金持ちの駐在員の子弟で、
小学校のお兄ちゃんと、その妹さんでした。
お兄ちゃんの方が、手遊びが大好きで、
輪ゴムでも、消しゴムでも、
何か一つあれば、遊びを創造して取り組んでしまいます。
なので、机の上に何一つ出せませんでした。
しかし、遊ぶものを私がしまってしまうと、
自分の部屋に行っていろいろ持ってきて、
「先生これ知ってる?」
と始めます。
お母様は、お一人90分×2人=3時間
を、有効活用されて、ショッピングやお茶会に出てしまうため、
お母さま、坊ちゃんが・・・ (猫村さんか😅)
みたいな感じのことはできません。
なんか、告げ口小僧みたいであれだし、
教師生命を賭けて、やる気のない子を引っ張っていく、
ということも、しなければならぬと思っていました。
(今はそういう漢気(おとこぎ)は、ないです)
大体、訴えていこうにもお母様はいないし、
困ったことに、お母さんがいるときはとても良い子。
さて、お母様の日本語レッスンに対する期待はなかなかに高く、
せっかく2年も日本にいるので、
日本を出るときには日本語が流暢になっていて、
将来ビジネスなどで、日本と米国の架け橋的な役割を担ってほしい。
ということが一つありました。
それより大きそうだったのは、
大人と安全に過ごしながら、私がいない間に、日本語も上手に。
ということだと、だんだん分かってきました。
この兄妹は、東京校外の市部にあるインターに、バスで通っていました。
そこでは、日本語レベルが一番「これからの人」のクラスに入れられて、
そのレッスンが確か、週に1回とか2回と言っていました。
駐在員子弟ですので、日本には2年の滞在予定。
ご本人のモティベーションも、
限りなく低いというか、まあ率直に言って「皆無」です。
週に数時間、インターで日本語レッスンを受けても、
そこにどれだけの意味があるのでしょうか。
「手の形の作り方ソング」みたいのを習っていて、歌ってくれましたが、
日本語を楽しんでいるようではありませんでした。
けれど生憎(あいにく)なことに、
「日本に来たばかり・日本語はこれからクラス」
のその先・・・というか「その下」はありません。
それで、ご両親が心配されてレッスンを始めたわけでした。
妹さんは大変明るくておしゃべり好き。
レッスン途中で、「先生、話したいことがある、英語でもいいですか」
と言います。
何もかもダメダメ、では意欲が削がれると思い、
ちょっとだけ、いいですよと許可しますと、
この前家族でバリに行ったの!
目の前にプライベートのスパがあって、
泳げるぐらい広いの。
その向こうはプライベートビーチ。
ロビーではフルーツとスナックの取り放題。
髪の毛は、電話一本で部屋とかビーチまで美容師が来てくれて、
細かい三つ編み(コーンロウ?)をやってくれるけど、
あんまり遅いんでイライラしちゃった・・
みたいな世界でありまして、
「先生はバリ行ったことある? スペインは?」
と訊かれても、「ないですね!」😅 と答えるのみ。
仕事ですのでにこやかに、
そうなんですか。
なるほど。
などと言いながらも、私もちっちゃい人間です。
(なんだかねぇ)みたいに思わなくもない、長い90分なのでした。
しかし私にも限界というものがありました。
あるとき、お兄ちゃんから、これは聞き捨てならぬな🤔
と思うような発言がありました。
これを看過しては、この子のためにはなりませぬ。
そう思いまして、ヨイショと姿勢を正して お兄ちゃんに言いました。
日本語を教えるのは先生の仕事です。
君が日本語が上手くなってくれると、先生はもちろん嬉しいです。
けれども君の態度というものは、
お父さんがお支払いくださる授業料を、
ちゃんと有効に活用していないのではないかと思うんですね。
そのあたり、君はどう思いますか?
すると答えは、
知ってるよ、先生はお金のために来ているんだよね。
大丈夫、ダディは喜んで払うと思うよ。
僕には日本語は要らないけどね、使わないからね。
でも、先生は仕事なんだから、ここに来るのをやめるわけにはいかないでしょ?
だ〜〜〜〜!!
言った、よくぞ、言いました。
私も当時はまだまだ若気のイタリアン。
ゴゴゴゴゴ・・・・・と地響きを立てて、
何物かが角を曲がってやってきました。
私は言いました。
いやいや! ぜ〜んぜんそんなことありませんよ!
来るのやめるなんて、たやすいですよ。
そうしましょうかね。
私は、君の親御さんが一生懸命働いて稼いだお金を、
君が無駄にしているのを見るのは、到底忍びないです。
せっかくの大事なお金は、君の好きなことに使ってもらいたいですね。
君もその方がいいでしょう。
では、お母様がまもなく帰ってくるので、お話をしておきますね。
・・・なんて、言ってしまいました。
子供相手に脅かして・・・ほんと 大人気なかったです。
ちょっとだけ反省しています。
そして実際に、ザ・ガーデンだったか、Meidiyaだったかの、
大きな紙袋をぶら下げて帰ってきたお母さんとお話をして、
時々でいいので、レッスンを傍聴?していただくことにしました。
なんならお母さんもレッスンを受けませんか?
学校には言わないけど、授業料もそのままで。
ということにして、たまに入っていただきました。
当然ながら、お母さんも先生もちっとも怖くない少年。
結構、お母様が息子さんを叱りながらのレッスンになりました。
昔、「先生、叱ってください!」というのがありました。
親が言うことを聞かせられないので、オーソリティーに投げるわけです。
このご両親だって、叱るのも口が酸っぱくなってしまい、
それが嫌だからお金を払って日本語教師に来てもらってるのに・・・。
なんだこの先生は、と思っていたかもしれませんね。
しかしそのあとは、彼が学習態度を改め、
帰国するまでレッスンを受けてくれました。
・・・と言えればよいのですが、その辺は昔すぎて忘れてしまいました。
甲羅に苔の生えた亀になった現在の私は、
相手の発するものには、あまり左右されなくなりました。
大人の仕事とはいえ、あくまで仕事であり、
相手のニーズに見合ったものを 十分提供できればいいわけですから。
しかし、修行がまだまだ積めていませんので、
うっかり口が滑って本音が出たりすることも、また、
あまりに相手が良い人のため、前のめりになって妙に張り切ることもあります。
そんなあれこれも、またいずれ書かせていただきたいと思っています。
今日も読んでいただいてありがとうございました。