【マンガ紹介 #12】スカベンジャーズアナザースカイ【小ネタバレ】
停留所(バスストップ)を拠点に異界にて武装少女収集隊(スカベンジャーズ)が探索・戦闘・調査する本格ガンアクション。
公式サイト(ヤングチャンピオン)
Amazonの1巻Kindle
作品データ
巻数:3巻(連載中)
作者:古部亮 (著)
爆速1話あらすじ
自由を掛けたゴミ収集(スカベンジ)状況開始。銃を含めたゴツい装備一式。片方はヘルメット無し、片方は以前のバトロワ系ゲームで流行った有名な防弾用超安全ヘルメット。それに並ぶ謎の制服とバケツのようなヘルメットを来た補助委員。ヘルメット無しの子を1010番と呼び、二人がバスに乗り込む様子に対して「ご安全に」。
「さっさと100万ドル稼いでこんな仕事やめてやっから」そう言いながらバスに乗り込む二人。扉絵の二人はコンビらしい。
と思いきやバスに乗り込んだ瞬間、雰囲気の温度が途端に代わり、相方をハナちゃんと呼ぶ1010番と、そのハナちゃんは自身の重装備をトトちゃんを守るための装備と宣言する。互いを番号以外の手段で呼んでいるらしい。
「搭乗完了輸送機前進」ヘンテコなミニバンのような見た目だが、立派な性能らしい。「転送20秒前」の転送に対してシュレディングの当て字。その果てにまったく異なる場所へ。
「さて…まずここは何処の何時のゴーストタウンだろうね?」バスが時間軸さえも超越させるような伏線と、如実に警戒心を露わにするトト。
良いゴミ拾い日和と言いつつもマガジンを込めセーフティを解除する二人。どうやら再転送及び帰還まで20分も切っているらしい。
そこらへんのストアらしき場所を適当に漁るが、ゴミのような古い硬貨しか見当たらない。トトちゃんの観察曰く工業地帯らしいがゴミしかない模様。
突如スッと現れた頭がカメラのような男、手には小型拳銃。
「浮遊霊(フローター)?!」咄嗟に守りの姿勢に入るハナちゃん。無事に件のヘルメットで難を逃れ、残りはほぼ完璧な二人の対応で無力化される浮遊霊、そして浄化されるかの如く消えていく。頭のカメラは残る模様。
その後は無事に撤退し、再転送1分前にバス到着。
「ヘルメットが無ければ即死だったねー」帰りのバスでヘルメット脱いだハナちゃんが言った台詞、中身は案の定髪が長い可憐な少女。
細かい雑談を挟みながら再転送を待つ最中、頭から半身の宇宙服の浮遊霊。明らかにさっきまでのとは異質な雰囲気と、宇宙服から天に伸びる触手と足から伸びる鳥のような足。
「ふへへっ宇宙服って100万ドルするらしいよ。アレ剥ぎ取りゃあっちゅう間に目的達成だ」
そう言っている間に再転送が完了した。
「絶対また行こう」
補足としてヤングチャンプ側では3話まで読めるので、読むことを推奨。特にこの世界観がきっちりと展開される。また本稿では「惹かれた点」も同じく3話まで読むことを前提とする。
惹かれた点
圧倒的プロ意識と世界観共有の迅速さが見え隠れしている。上記のあらすじで言っていた「転送(シュレディング)」は恐らくシュレディンガーの猫から拝借した「シュレディンガー」つまり量子力学的に不安定な状態にさせるという高度そうな次元転送装置なのだが、もうバスに乗っちまってる以上解説の間を入れさせる気は毛頭ない。実は上記に記載していなかったが「再転送」がオブザーベーションで観測の意味を持っていたり、無力化された浮遊霊が「粒子化」と書いてアセンション、つまり昇天と書いていたりする。
この異質なオペレーションを何の憂いも無く何の心配も無くやってのける様子をプロ意識と呼んでおり、時間計測や銃器や防具を含んだ咄嗟の判断の諸々の所作も実際に彼女らがそれで生計を立てていることを彷彿させる。
特に2話と3話ではスカベンジャーズである彼女らが過ごしている施設の全貌が意外とホワイトのように見えるし、本当に少女集団なのだとも判る。
また楽園に見せかけて牢屋である点に関しては、描写に一切窓が無いのと、その他出現する大人らしき補助委員は全員彼女らサポートし、異界を観測することとスカベンジされた物の鑑定以外の仕事していないのも伺える。
だが3話までの時点では、誰も異を唱えていないだけでなく、むしろかなり積極的に生き残ったりスカベンジするための情報共有をしており、観測できないレベルで外部からの強い抑止力があることが伺える。
端的に歪な世界観を構成させておきながら、歪な物は全て転送先の異界にまとめ上げている点も、作品のコントラストとして判り易い。3話で直ぐに判ることだが、1話の最後に出てきた異質な浮遊霊の仕業で異界は幾らでも変貌する可能性があり、主人公たちは3話にて操られた重力に悪戦苦闘し、以降も大変歪なことが異界で発生する。
そしてこれを(後日判明することだが)全部女の子でやってのける。雑多な感想として女の子だけなのは「日本の漫画だから」が浮かびうるが、その推測を大いに超える理由を用意して強く納得させる部分もあるし、逆に「女の子の皮を被ったオッサン」ではない部分もかなり全面的に出している。
逆説的に言うと作者なりに、登場人物たちが咄嗟の判断で行う所作全てが女の子同士の絆を試す(というより利用?)形で災難を降り注がせる場面もたくさんあるので、不要に可愛いわけではない。
またここになるまで一切触れていなかったが、本作品は著名なスカベンジングFPSゲーム「S.T.A.L.K.E.R」の世界観を可能な限り漫画という媒体に落とし込んだ作品だ。ゲームそのものと表現しない理由としては、物凄く強い信頼関係をキャラ同士が結び、その細部を支える強い機関が存在し、積極的に死地に向かわせる点が、ゲームとプレイヤー間にあると思われた物語の主導権を作品内のキャラに移させている。よって世界観だけ継承させていると本稿では表現する。
超常現象・人ならざる敵・超大型エネミー・サバイブとスカベンジング・緊迫した空気と絶望・咄嗟の判断という凝り固まった要素の隙間に、可能な限り可愛い女の子で詰め合わせて出来上がった特級異物がこの作品だ。
異常なまでの緊迫感(ネタバレ付きコメント)
昨今のバトル漫画に十分通用する状況変化とそれに伴うキャラの反応と理解と物理現象。その物理現象の大部分が超常的に発動するので異能バトル漫画と勘違いされそうだが、読者の疑問を凄い勢いで払拭するかの如くキャラクター達が連携し対処する。
特にトトちゃんの異常なまでの戦闘結果予測能力は常軌を脱していて、まるでメタ認知的に作品を理解した上で仲間を説得するための言葉選びをしているのではないかと思う程。だがそう想わせない程に、トトちゃんは作戦の鍵を握ることも多いし皆も全信頼を寄せている節もある。なので作品内で描写されない場面でトトちゃんが実績を重ねてきた証左でもある。
だが無敵のヒーローが飛び出てきたような安心感も無く、トトちゃん自身も作戦の要所を理解しており責任を取るようにしている。ただ代償がデカかったり果てしなく面倒くさかったりと、表情に出すことを躊躇わないためか、超常現象だらけのこの作品内でも我々がある程度どういう状況なのかの理解する指針が出来る。
特にハナちゃんさえ知らない物理神秘を使う前に「ギリギリ圧勝できる」と説明した上で、何だかんだでその物凄い物理神秘の効果と代償を教えていなかったことに絶妙な信頼関係の駆け引きを持ってることこそが、トトちゃんなりに「管理している」証左だ。だがトトちゃんの心理描写なんぞ描写している暇は無いので、こういう管理の上でしか距離感を測れないことが、絶妙な緊迫感を与える。
なので作戦単位で考えさせると見せかけて、トトちゃんの視点と作品の視点を照らし合わせると、如何に施設の継続という観点が大事なのかが伺える。なのでこれを契機に何かが凄い勢いで破綻しうる要素も、この作品特有の緊迫感に貢献している。
そしてこれらの緊迫感を超常現象と物理神秘以外の不思議な要素をまったく出さないので、意外と煽られたようなサスペンスではない。なので物凄い場面だったと認識するには、細かい描写や文字遊びから逆算させることが結構な頻度であるので、ゆっくりとその絶大さを知ることになる。
最後に
何度も強調するが、異常なまでの緊迫感とこれを可愛い女の子で成し遂げることへの執着を作品からヒシヒシと感じる。
またアンニュイというか鬱屈とした雰囲気は少なく、アクション要素の描写もかなり多いので読みやすい部類の作品でもあるハズだが、作品以外の視点で物事を考えてみると如何に世界観が作り込まれているかが判る。
是非とも皆さんも手に取って読んでみて頂きたい。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
P.S.
Noteの表紙画像を選ぶ時に最初に「銃」で検索したがAI生成画像が多すぎて実物じゃないものも沢山移っていたので、アナザースカイとなり得る画像を選びました。