【書評】紫式部はなぜ主人公を源氏にしたのか(2024・井沢 元彦)
技術・金融とは全く関係ない歴史本に関する書評です。
歴史学者ではない著者が、藤原氏の政敵排除とその鎮魂を目的として執筆されたという大胆な仮説を提起している本です。文体も軽妙で、歴史に詳しくない読者にも読みやすい構成です。
歴史に関する本は考証に耐えた事実だけが語られるべきで、大河ドラマ然り、根拠となる書物があってこそという側面は十分理解できるのですが、個人的には大胆な仮説を提示する本も非常に好きなので備忘録代わりにメモを残す。
源氏物語が生まれた理由は鎮魂
藤原氏は朝廷内のあらゆる政敵を排除し、独裁に近い状況を作り出すことに成功したが、本気で呪いなどのリスクを恐れていた。
著者は、藤原氏の最大のライバルである源氏が政治の場で活躍するフィクションを必要とした理由を「鎮魂」に求めていた。
『源氏物語』において、藤原氏が登場し、藤原氏が排斥されて主人公が政治の頂点に登るストーリーが展開されるのはこのためだとしています。
推測根拠
権力者のバックアップの必要性
当時の権力者(=藤原氏)が政治抗争に破れ、その政敵の源氏のサクセスストーリーを書くなど、世界の常識では考えられない。(権力者に抹殺される)
逆に、そのようなストーリを書くためには藤原氏にメリットがありバックアップも存在した、と考えるのが自然であること。スポンサーの必要性
当時超高級な紙媒体を個人で賄うことは不可能であり、スポンサーの存在が不可欠である。
紫式部は一条天皇の中宮(最高位の妻)である彰子に仕えていた女官であり、彰子は藤原の道長の娘。藤原氏から何らかの支援があったと考えられる。怨霊信仰の存在
当時の日本には怨霊信仰が存在し、特に藤原氏は呪いなどの概念を恐れていた。強力な政敵の一人である菅原道真を政治的に陥れ、太宰府に流したが、その後、藤原一族や関係者に病死が連続したり会議中の宮殿に雷が落ちりした祟りが 藤原氏のトラウマになっている)。
そのため、死後の世界を極端に恐れており、、晩年は寺院の建立に精を出し、最期も確実に浄土へいけるよう、大勢の僧の読経の中で息を引き取った執念もあり。
後日談(藤原氏の亡き後)
藤原一族の行く末
藤原道長の時代に政治力が頂点に達した藤原氏は、その後弱体化していきます。道長が一族の中心に自分の血筋を据えるルールを変更したことで、一族の中で最も能力の高いものをトップにしていたことによって、政治抗争に打ち勝ってきたがその前提が崩れてしまったため。
源氏のその後
中央政権から外れた源氏は地方行政に注力するようになり、武士の起源となる。中央政権が地方の治安維持に何もしてくれなかったため、自らが武装して力をつけることになりました。これが武士の起こり。
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