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D2C企業の時価総額はどう決めるか? | D2Cスタートアップの教科書

※「D2Cスタートアップの教科書の目次」に一連の記事をまとめています

前回の記事では、D2C事業の見通しを立てるためのざっくりとしたPLとキャッシュフローを算出する方法について記載しました。


事業プランが決まったらいよいよ資金調達に入りますが、そこで問題になるのは、「Exit時の時価総額はいくらになるのか?」という点です。

資金調達なり上場なりMAなりで会社の時価総額を定義する必要があるとき、未上場企業はどうやって算出するべきか難しい場面が多くあります。

この記事ではD2C企業が各フェーズでどの程度の時価総額になるかを考えてみました。

D2C事業のベンチマークになる企業は?

未上場の会社の時価総額は、類似の上場企業をベンチマークとして計算します。

インターネットメディア系であればGunosyだったり、SaaSだったらSalesForceなりMoneyFowardだったりと参考にする企業は大体決まっています。

しかし、D2Cスタートアップには上場した企業がまだほとんどありません。

おそらくBULK HOMMEなりFABRIC TOKYOなりSpartyなりのD2Cとして括られる先行企業が上場する際につく株価を、追従するすべてのD2C企業がベンチマークすることになります。

(未上場企業の資金調達にも関わってくるので、ぜひ高値がついてほしいところ)


では現時点でどこの企業がベンチマークになるかというと、D2C関係者がチェックしているのが2000年代からある通販系企業です。

通販系企業の有名どころと言えば、
「やずや」だったり「再春館製薬」だったりしますが、
多くの通販企業は上場していません。
(通販企業の多くはオーナー企業であるため、上場するより誰にも邪魔されずに利益を独占できた方が旨味が大きいからだと予想されます)

そのため投資家とのディスカッションで出てくる社名は、通販系の企業の中でも珍しく上場しており、業績の明暗もわかりやすい、
・北の達人

・オイシックス
の2社くらいです。

「北の達人」と「オイシックス」から見るD2C企業の時価総額

まず両者のビジネスと2019年度の業績を軽く紹介します。

北の達人

健康食品や化粧品を中心とした通販事業が主な業務です。商品開発は自社で行なっていますが、製造はOEM、マーケはインハウス中心で行なっています。

直近の業績と株価は以下の通りです。

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オイシックス

オイシックスは高品質野菜の定期通販を主軸とする民間の生協のような企業です。農家から直接野菜を買い付けて、通常の流通経路を自社で確保するため比較的安価で美味しい野菜を届けられるという仕組み。

直近の業績と株価は以下の通りです。

スクリーンショット 2019-12-09 9.43.48

分野は違えど両者は広告獲得を成長エンジンとした通信販売が主要な売上なので、ビジネスモデルはかなり近いと言えます。

売上はオイシックスが4倍以上ですが、北の達人は20%以上の圧倒的な営業利益率です。

昨対比の成長率はどちらの50%程度と高い成長率を誇っているにも関わらず、売上・利益が低い北の達人が時価総額で見ると2倍以上も差をつけている。

PERで見ると、「オイシックス」は20倍程度と標準的な値だが、「北の達人」は50倍程度。
ちなみに新日本製薬などの他の上場通販企業も純利益率は10%を下回ってくるのでPERも20倍程度になっていますので、オイシックスが悪いというより、北の達人が圧倒的に収益性が高いと考えられます。

インターネット系企業は最近の赤字上場ブームもあり利益ではなく売上と成長率を指標に上場時の株価が決められがちですが、この現状を見る限りD2C企業の上場時には、「利益率の高さ」や「利益額」などの上場時点での収益性に目が向くということを念頭におくべきでしょう。

通販やD2Cの営業利益率は、うまく回れば15%~25%くらいの高い基準にできると言われているので、

数十億規模にスケールした際に、20%前後の高い利益水準でであればPER50倍、10%きってしまうようであればPER20倍、というのが妥当な時価総額の着地になるかと思います。

D2Cはどれだけプレミアムがつけられるか?

グノシーの上場時PERが5000倍とめちゃくちゃなバブリ方をしていましたが、D2C自体は通販事業という先行事例があるため、たとえイケてるスタートアップ感があってもそんなバブリは見込めず、20~50倍程度に着地するかと思います。

ただこれは、広告獲得を成長エンジンにした通販主体の事業であればということで、将来性を見込めるような別の成長エンジンを持っていれば話は異なります。


GoogleやAmazon、Facebookをはじめとしたインターネット系企業が持っているネットワーク効果やバイラル性のように、CACとLTVの引き算で終わらず、複利的に広がっていくような事業プランができれば話は別です。

その一つの成功事例がAppleだと思います。

Appleは「高品質でクールなスマートフォン」という製品を直販した上で、ソフトウエアの販売やサブスクリプションサービスを展開し、複利的な売上を上げています。

今の所、国内外のD2C企業はブランド作りや直線的な規模拡大に終始しており、複利的な成長を遂げるプラットフォームには成れていません。

D2C事業を行うならば、単にエコノミクスを合わせるのももちろん重要ですが、複利的な売上を上げていく仕組みまで視野に入れた戦略が練っていくべきかと思います。

そうなるとPERは20倍程度ではなく数百倍を視野にいれたり、赤字上場すら可能だと思います。


以上。

次回は、D2C事業の資金調達について書くと思います。

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