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2.2 すぐ倒産しないために「ざっくりPL」を引こう | D2Cスタートアップの教科書

※「D2Cスタートアップの教科書の目次」に一連の記事をまとめています

前回の記事では、D2C事業を始めるにあたってのアイデアの考え方についてまとめました。


D2Cで伸びそうなアイデアが見つかったら次はいよいよ資金調達やプロダクト開発に向けて「事業計画を引く」ことになります。

インターネットセクターのスタートアップの場合、PSFなりPMFなりとそもそもマネタイズする部分は後回しにされがちなので、立ち上げ段階に引く事業計画なんてほぼ無意味ですが、D2C事業においては創業初期からお金の出入りが大きいため、一歩間違えれば1500万も借りたのに3か月で倒産なんてことにもなりかねません。

とはいえ会計基準通りのPL/BSまで細かく準備する必要はありませんので、事業の見通しを立てて倒産せずに継続するためのざっくり事業計画の引き方をご説明します。

D2C事業は大きく、ネット経由の販売を中心とする通販型D2Cと、実店舗を構えて販売する実店舗型D2Cの2つに分けることができます。
昨今はほとんどが通販型D2Cかと思うので、こちらを中心に取り上げます。

通販型D2Cのキャッシュフローは?

通販に置けるキャッシュフローを整理してみます。

収入

・商品購入の代金
基本的にこれだけです。

支出

固定費で100万~がかかりつづけ、広告費以外の変動費で60%以下に抑えられるとOKといった感じです。

・仕入れ = 商品原価 + パッケージ + 同梱物
商品原価率は食品なら45%目標・食品以外なら35%を目指すべきというのが通販業界の定説で、だいたいこの数値に合わせてプライシング。
パッケージは作り込みによりますが、100円以上かかるケースもあります。
パンフレットなどの同梱物も実は継続率に大きな影響を与えるので重要。これも100円前後かかります。

・送料
宅急便だと数百円、クール便だと1000円オーバー、 ポストに投函可能なサイズだと200円と配送する物によって変動幅が大きいため、商品作りの段階で配送サイズを意識するのが超重要です。
とある通販会社では、「ネコポスで送れない物は売らない」と決めてるとカなんとか。

・決済手数料
見落としがちだけど、以外と手痛い決済手数料。クレカはまだ良心的で後払いや代引きなどを取り入れるとなんだかんだ8%程度まで行ってしまう…

・広告費
支出型の成長モデルをとる通販においてもっとも重要。
オウンドメディアなどを併用していると単純計算は難しいですが、PLの制度を高めるために初めからコストを見積もっておくべきです。

・人件費
社長自身の資金はもちろん、コールセンター等のサポート業務を内省するならフルタイム換算で2~3人分程度は見積もっておくべきです。

・システム費用
カートやらCRMや分析ツールなど、まともに運営するためにはそこそこいろんなシステムが必要になります。ケチっても毎月10万くらいは持ってかれます。高い…

・その他
これ以外にかかるのは家賃なり電気なり電話なりの、オフィス関連くらいでおよそ10~15万。

実店舗型D2Cのキャッシュフローは?

実店舗型のD2Cの場合、通販型ほど広告費はかかりませんが、店舗運営のための固定費が大きくかかります。

今回は基本取り上げませんが、弊社で実店舗の販売を始めたら?書いてみたいと思います。

通販型D2Cのユニットエコノミクス

単品を売り切って終わりというのもできますが、広告費が高騰し効果が低っている昨今においては、新規獲得の段階ではまだ赤字、リピートさせて黒字というのがお決まりのパターンです。

そのため、通販で商品を売る場合、昨今はほとんど全てがサブスクリプションモデルになっているかと思います。
(定期購入とまでは行かなくとも、リピーターの存在やクロスセルをどれだけ作れるかの勝負になってきています。)

定期通販におけるもっとも重要なKPIは、お分かりの通り「新規顧客獲得単価(CAC)」と「生涯利益(LTV)」です。

新規顧客獲得単価(CAC)

単純に定期購入用のLPを1枚つくって1種類の広告に載せるだけであれば単純ですが、複数の媒体で異なる価格体系のオファーを運用したり、お試し商品を作ってサンプリングしたりと、必ず複雑化してきます。

広告も1回踏んですぐ購入にたどり着くこともあれば、複数の広告を何度も踏んでから購入なんてこともあります。

またオーガニック流入があったり、オウンドメディアを運営しているなんてことにもなれば、数値化は困難です。

月次で、流入チャネルごとのCPOを計算しておくと同時に、新規獲得の活動全体でコストを計算し、全体の獲得件数で割ったBlended CACも概算しておきましょう。

「やってみないと分からない」

というのは尤もですが、多くの商品は類似の他社事例があるはずです。(代理店にヒアリングするなり、勝手に広告流すなりして)何としても参考数値を割り出しておきましょう。

生涯利益(LTV)

1人の新規顧客が生涯どの程度会社に利益をもたらすかという数値。
売値から原価を引いた限界利益に、購入回数ごとのリピート率をかけていって算出できます。

売値は商品原価が35%程度になる金額を設定するのが一般ですが、通販の場合は割引オファー(今なら20%OFFみたいなやつ)を打ちまくります。
2回目以降もがんがん割引を出すケースや、継続が長いほど安くなるケースなど様々ありますが、初回割引設定するくらいは最低限見込んでおくべきです。

リピート率は購入回数ごとで大きく変動するので、初月・2ヶ月・3ヶ月と以降継続率が予測可能になるまで(10%を安定して切る程度)は類似企業をトレースしておくべきです。

CACとは違い代理店にも情報は漏れないので、基本は中の人に聞くしかありません。もちろん現役のプレーヤーは教えてくれるわけがないので、昔やっていたが辞めたor撤退した人を探してみましょう。
インサイドマンがいない場合は、ユーザー群へのアンケートで年間利用ブランド数を聞いておくと、ざっくり割り出せます。


以上のように、CACとLTVを算出するための数値を割り出したら、月ごとにプロットしてみましょう。

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ユニットエコノミクス

そしてこの月次のLTV推移からCACを引いた金額が黒字になるまでの期間を「回収期間」とよび、これがいつまでも到達しなかったり、1年以上かかるような場合はよっぽどお金に余裕がある場合を除き、やらないほうが無難です。
(上の事例だと8ヶ月回収なのでギリギリ)

もちろん商品のクオリティや広告運用の質で数値は変動しますが、類似企業の数値を参考に赤字になるような場合はそもそもビジネスモデルに問題がある(需要がない製品・ネット広告が適していないなど)ので、

通販型D2CのざっくりPL

ユニットエコノミクスまで見えてくれば、およその事業計画は完成です。

あとはPLに落とし込めるように、先ほどのユニットエコノミクスに時間軸の条件を取り入れてみます。
時間軸への意識は実は重要で、キャッシュフローが大きい分、時間軸を見落としたPLを引いていると、そこそこ伸びているのに倒産というパターンも全然起こり得ます。

チェックするべき時間軸

・定期購入の配送頻度
多くの場合は一月に1回ですが、物によっては2週間や2か月などもあるようです。

・顧客獲得の成長速度
だいたい初期は月+100人づつ成長させるイメージだと現実的です。それ以下だと伸び悩み、それ以上だと赤字をめちゃくちゃ掘ることになります。

・入金サイクル
忘れがちなのが入金サイクルです。後払いは週末締め翌週払いくらいの頻度で入れてくれる会社もありますが、クレカの場合は月末締め月末払いになることも多い。
これを見落としていると売上入金直前に倒産…!なんてことも、、、

・仕入れのリードタイム
インターネット系の会社にいるとほとんど意識しないので忘れがちですが、やってみると意外と長い…!
1か月前に入金なんて会社はほとんどなく、下手すると半年以上前に支払う必要があることも多いそうです。
入金サイクルまで考えると、最短で2ヶ月分は在庫を抱えるイメージです。

ということでこれらの数値をざっくり入れてPLを引いてみるとこうなります。

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事業計画

です。

極めて普通の通販事業のPLになりました。1億弱の資金を元手に始め、2年じ弱で単月黒字、3年で月商1億月利1500万の累積黒字です。

この計画数値は「成功した通販」と言われる最低ラインです。各KPIの数値によりかなり変わってくるので、獲得単価なり継続率なり原価なりでもう一工夫ないと、外部から出資を受けるのは厳しいかもしれません。


作成したスプレッドシートへのリンクはこちらです。必要があればコピーして使ってください。


以上です。

次回は立ち上げ時に必要な資金の集め方を紹介します。

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