シングルとダブルのあいだ。
今週は、うでパスタが書く。
私の母はやや西洋かぶれであり、かの時代にありながらオーストラリアへホームステイしたり、結婚後もしばらく米・アリゾナへ住んでいたから私は幼いころから「アメリカでは」ということをずいぶん聞かされた。
なかでも “Rules are rules.” (「決まりは決まりで、ございますので」)というフレーズはアメリカ社会を貫く重要な原則だと教えられたが、これが誤謬であることは前回述べた。
では日本はどうかといえば、かつて取引先へ大量の契約書を持ち込んだ際、不動産屋あがりという先方の社長さんは我々を愛想よくもてなしながらできたての契約書にノールックでバンバンと捺印をされており、いちおうお目通しを…という私に「大丈夫だよ、こんなもの裁判すればどうにでもなるんだから!」と陽気に仰っていたのを思い出す。
コンプライアンスだとか内部統制だとか言っても、実際のところこういう逆説的な信頼がなければ物事は進まない。あるいはひとも会社もリーガルコストで破産する羽目になる。だから社会システムは、信頼に足る社会システムというのは維持しなければならない。なぜならそれはコストに見あう、ペイするからだ。
もう十年近くも前のことになるが、結婚披露宴を前にして当時アメリカンエキスプレスが出したばかりだったANAとの提携カードを作った。新規ご入会後三ヶ月は利用料金に対して通常の五倍のポイント、すなわちショッピングマイルをつけるというキャンペーンをやっていたからだ。
しかるに、いざ巨額の挙式費用を決済しようとした刹那、その場へ電話をかけてきたアメリカンエキスプレスはこう言った。
「挙式費用のお支払いにご利用をいただけないことは約款に明記してございますので、このたびはお支払いをいただけません」
みなさんは果たしてこんなことをご存じだろうか?
「カードを作るのに約款なんか読んでいませんよ。あなたは読むんですか?」
と尋ねたところ、向こうは数瞬沈黙したあと、「今回は決済をいただいて結構です。ポイントは五倍つきます」と言って電話を切った。
その後も問題の約款は確認していない。というか約款などは受け取った瞬間にゴミ箱へ捨ててしまっているので手元にもない。
私は社会システムに信頼してこの人生をやっているのだ。
これが先週のキノコさんのノートに対する私のアンサーソングである。
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