施し、のぞみ、自問する労働者(ワークフォース)。

今週は、うでパスタが書く。
このBibliothèque de KINOKO Weekly Magazineはいよいよ「法外に安い」という評判がたちはじめてしまった。
渋谷・クロスタワーあたりに入っている情報商材の元締めみたいな会社からタレ込まれたりはしないかと、最近は震えながら公取委の電話を待つ日々だ。
渋谷・クロスタワーというのは架空の建物です。

知識は、知性は分け与えても減るものではない。だが自ずと摩耗する。つまり知識とは悪貨にほかならない。ならば月額三百円でもシェアするのが経済合理性にかなうというものだ。
下ネタと動物(ネタ)、早死には誰がやってもウケる」と言っている先輩がいた。これらはまさに不朽の良貨であるとこそ言うべきだろう。だから軽々にやってはいけない、と言った先輩は偉い。
こうした良貨を駆逐するため、私は知性という悪貨を配って歩いている。
酒を飲むと二時間半のあいだ下ネタ以外の話題にまったく入ってこられない四十代、そういう人間が社会から孤立し、阻害され、自宅に退蔵されて朽ち果てるまで私の戦いはつづく。

ところで、普段から鋭いと思っていた後輩が最近、「いつから知性あふれる人物でやってるんでしたっけ?」と訊いてきた。当然そうでもしなければこんなテキストが売れるわけないだろう。今年の三月からやってる。

生活が、厳しくなってきた。どんどん悪くなっている。
あれほど不便を苦にしたボストンから帰国して三四半期、合理的な生活だけを追い求めて定めたはずの生活環境は諸条件の流動化にともない劣化して最終的にはママチャリなんかを購って移動するようなことになりそうだ。雨が降ったらいったいどうするのか。
その一方で引きも切らずに押し寄せる仕事はみな無報酬のものばかりだ。私はそんなにもこの世に借りを作って生きてきたのだろうか?
イエス、とキリストなら言うだろう。ひとはみな、生まれながらにして罪を背負い、その罪を十字架で贖ったアラサーの伝説的独身男性に借りがあるのだ。あまつさえ私はそれを受けいれて洗礼を受け、クリスチャンになった身だ。だからマザー・テレサが金をアレしていたというような話を最近耳にしたときには私は「勝った」と思った。
人類、私の労働は無償だ。スカイプを待つ。

プロテスタントの信者だということを芸風にしている著述家のひとりに佐藤優がいる。
私はこの佐藤優という人物の本を少し読んでいるが、対談になるといきなり相好を崩して相手を持ち上げるので信用できないという印象を抱いている。ネコ好きを標榜するのもおよそ怪しからぬポージングといえよう。
この佐藤による、中村うさぎとの対談が出版されている。その名も「聖書を語る」。
佐藤が「中村うさぎさんこそが、プロテスタンティズムの神髄を捉えた人です」と語るへつらい方には心底反吐が出るが、佐藤だけが記した「文庫版のためのあとがき」は少し感動的だ。

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