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パンデミックの夢|weekly vol.0097

今週は、うでパスタが書く。

また睡眠外来へ行くのを止めてしまった。もう行かないと思う。

思えばもう一〇年以上ものあいだ、私は不眠に苦しんでいるのだ。
「苦しんでいる」というのはまぁたしかに主観に過ぎないが、少なくともあの手この手を尽くしたうえで私は単に「不眠である」というのみならず、「ここがおかしい」「ふつうのひととはここがこう違う」というそれなりの所見をもって睡眠外来へかかったわけだが、担当医はそれを単に「布団に入るのが早すぎて眠りが浅いだけ」と、つまり運用の問題だと言って片付けてしまうので、二ヶ月ぐらい睡眠の記録を律儀につけたりはしたものの、結局は無理がたたってリバウンドで生活がぐちゃぐちゃになったりしてもこの医者は我関せず、ただ少し就寝時間が乱れた時期を指して「こういうのが直るとよくなる」とか「酒を控えろ」とかいうばかりであった。

いまさら治療の第一歩は医師と患者の信頼関係だなどと言うつもりはないが、健康を自認する人間というのは医者にはこないわけだから、医療者たるもの患者の主訴にはまず虚心坦懐に向き合っていただきたいと思う。
もっとも、ここだってカウンセラーの紹介でかかっていた心療内科がさらに紹介してきたことから通いはじめたクリニックなので、最初からその手の業界をたらい回しされていた感は否めず、やはりどこまでいっても医者と不動産は「出会い」である。

私にとって、憧れの「睡眠外来」だった。
少なからぬ期待をもってクリニックの門を叩いたのはまさにパンデミックが人類の前へその姿を露わにしようという直前のことで、二回目の予約はもういわゆる自粛期間に入っていたためキャンセルすることになってしまった。
しかしこのあと三ヶ月にわたって一日中家で幼い子の相手をしなければならなかった私の生活は睡眠どころではなくなってしまい、皮肉なものでそのあいだには特に薬も必要がなかった。自分が不眠であるか否かや、自分のQoLがいまどれぐらいかはどうでもいい問題だったからだ。資産残高がどん底で収入が目もくらむようなマイナスだったこともあって、本当に厳しい三ヶ月だった。
とはいえ、“普通”に生活しているひとというのが要するに毎日これぐらいのプレッシャーにさらされながら何とか朝起きて夜眠りについているわけなのだとしたら、「不眠」なんておまえの贅沢な悩みなんだよという、ひとつの“こたえ”がこのへんに潜んでいる可能性は認めなければならない。

一方、よく寝ているとまでは言わないが、少なくとも不眠が主訴のトップにくることのない“普通”のひとの精神世界も、右のような生活の結果として多くは売(買)春や窃盗、脱税、暴走行為、器物損壊、名誉毀損、薬物乱用、著作権侵害、賭博、株式上場、不正アクセス、無銭飲食、青少年保護条例違反等々、マイルドな犯罪へとはけ口を求め、社会を脅かしている。不眠を訴えて睡眠外来へ通うことをもって「甘え」と蔑むことにもさほどの理はないと思う。「仕事がうまくゆかず、イライラしてやった」とかいう方がよっぽど甘えであって、「医者行けよ」というのはむしろ誰もがいちどは思ったことであろう。最近では家族もいない土木作業員が住宅展示場へ訪ねていくのを趣味にしており、休みのたびに繰り返しすでに何百箇所ものモデルハウスで客として応対を受けているというアカウントにフォローされ、その反社会性に震えながらブロックするという出来事もあった。

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