空腹は一番のスパイス
食卓になんとなく添えられているタクアン。少し甘辛く、ポリポリと気づいたら食べてしまう。
大根の漬物にターメリックを加え黄色くしているのだとか。実に見事にスパイスが食卓に馴染んでいるし、知らず知らずに良いものを取り入れているのである。さすが和尚!
その昔、江戸幕府の将軍、徳川家光という人がいた。食べるのが好きであったが、いつでも好きなだけ好きなものを食べられるので何を食べても美味しいと感じなくなってしまったそうである。そこで色々な人に「何か美味しいものを食べさせてくれ」と頼むようになった。我こそがという料理人も何人か出てきたのだが、やはりどんなに手の込んだ贅沢な料理でも美味しいと感じない。そんな時一人の僧侶がやってきて、「私があなたの望みを叶えてあげましょう」と申し出てきた。僧侶曰く、明日の10時に私の寺の茶室に来てください。但しその日は私が主人ですのでわがままは言わないでください。と。約束通り家光は僧侶の茶室に10時にやってきた。これから食べられるであろう美味しいものを楽しみに。しかし待てど暮らせど食事がやってこない。最初に僧侶が挨拶に来て、これから準備をするから待っていてくれと言われてかれこれ2時間も経っているではないか。怒った家光は茶室から離れようとするが、わがままを言わないと約束した手前もう少し待ってみることにした。1時間後ようやく茶室の襖が開き、そろりと僧侶が登場した。そしておもむろに家光の前にご飯と漬物を置いたのである。そして家光に「これこそ私が作った美味しい食事です。ぜひ召し上がってください」と言った。家光は驚き、怒りそうになったが空腹には勝てず一口そして二口とご飯と漬物を食べていった。瞬く間に食べきってしまった。そして食べ終わった家光は空になったお椀を見て「大変に美味しかった」と一言。そして僧侶は家光に「あなたは日に3度美味しいものを何不自由なく食べている。それでは空腹になる暇もない。美味しいものを食べたければ美食を探すのではなく腹を空かせれば良いのです」と言ったと言われている。家光は感動して料理の名前を僧侶に尋ねた。僧侶はそれはただの漬物です。と答えたので「ではこれからはこの漬物にあなたの名前をつけなさい」と言った。それからそのただの漬物は僧侶の名前をつけ「沢庵」と呼ばれるようになったのだとか。
沢庵和尚。寺を持たず、野僧として各地で教えを説いていたそうである。名言や逸話が数多く残されていることから彼の話が実に面白かったかが伺える。名言の一つに下記のようなものがある。
道を説く人はあるが
これを知る人は觧い、
説きえずとも知るは
説くに勝り、
知らずとも行うは
知るに勝る。
説くは知るため、
知るは行うため。
故に知らぬは説かざるごとく
知りて行わぬは
知らぬと同じである。
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