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ラーマーヤナ (一)盗賊、詩人となる

(一)盗賊、詩人となる

遠い遠い昔のこと、インドのあるジャングルで、通りがかりの旅人を襲って生計を立てていたラトナーカルというがいました。それはそれは大変恐ろしい盗賊だったので、人間はもちろん、猛獣でさえもが彼のことを恐れていました。
ラトナーカルは、商人だけではなく、王様さえも襲いました。誰であろうと道を通りかかれば必ず襲い、金品を奪い取るというのが、彼の大変な自慢でした。

ある日のこと、ナーラダという聖者が、そのジャングルを通りかかりました。ラトナーカルはいつものように、こう言いました。
「止まれ! ここを通るなら、お金か命か、どちらかを置いていけ!」

聖者ナーラダは、全く恐れることなく、答えました。
「おや、恐ろしい顔をしているね。黒いひげがまるでクマンバチの巣のようだ。罪とがのない旅人を苦しめて、何が面白いのかね?」

「俺は金が欲しいんだ! 俺はラトナーカルという名前だが、これは『宝の山』という意味なんだぞ。王様や商人からたんまりと金品を奪い取って、俺は大金持ちになりたいんだ。さあ、分かったら、お金か命か、どちらかをよこせ!」

「とんでもない。わしはお金などは持っていない。ただ神のことを説いて歩いているだけじゃ。」

「お金がないって? おまえはいったい、どういう人間なんだ?」

「欲深な眼をしているね。お前は聖者に会ったことがないのかい?
わしは至高者に何年も何年も祈りをささげたおかげで、至高者はわしを不死にしてくださり、お金がなくても生きていける勇気を与えてくださったのじゃ。わしのもっているのは命だけだが、取りたければ取っていくがよい。」

このときラトナーカルはハッとして、謙虚になってナーラダに言いました。
「至高者があなたを不死にしてくださったのなら、どうして私のような者があなたの命をとることができましょうか。」

ナーラダは、にっこり笑って言いました。
「泥棒さん、その通りじゃ。至高者は、わしの命さえもお前にあげられないほど、わしを貧乏人になさったのじゃ。本当にわしは、お前に呼び止められるような値打ちのある人間ではないのだよ。」

「それならなおさら、ここを通すことはできない。
至高者があなたを不死にし、何もなくても生きていける勇気をおあたえになったのなら、私もどうしたらそのような力を至高者から奪い取ることができるか、どうか教えてください。私も不死になりたいものだ。これこそ宝の中で最も貴いものだ。」

「不死を得たいといっても、かなり値が高いぞ。」

「どんなに高くたって、かまうものか! お望みだけのお金は、きっとお支払いします。」

「よろしい。では、よく聞きなさい。
実は、十の頭と二十の腕を持つ、恐ろしいラーヴァナという悪魔が、ランカー(セイロン島、スリランカ)にあらわれた。こいつはたいそう強いやつなので、大方の神々を引きとらえ、インドラ神さえも奴隷にしてしまったのじゃ。
何百年もの間、神々はランカーで悪魔の奴隷となった末に、苦しさに耐えかね、至高者ヴィシュヌ神に、この世に降臨してくださいと祈りを捧げ続けた。
善が破れ、悪がこの世にはびこるようなときには、至高者は人間の姿となって、この世を正しく変えるために降臨なさるのだ。神々は、
『至高者よ。時は来たれり。今こそ降臨のときです・・・』
と祈りをささげた。
この祈りは間もなく聞き届けられ、至高者はこの世に降臨なさるだろう。
ところでラトナーカルよ。お前はこれから一人で荒野に行くがよい。そこで祈りをささげ、瞑想しなさい。そのうちにお前は瞑想の中で、至高者の再来を見、至高者が悪魔を打ち倒すのを見るだろう。
そしてお前が見たことを、歌にするがよい。人々は幾時代にもわたって、その歌を詠み歌うことだろう。
この使命を果たすならば、お前も不死を得ることだろう。」

「しかし私は無知です。読むことも書くこともできないのです。そんな私が、どうして歌などを作ることができましょうか。」

「祈りをあげ、瞑想を続けるがよい。そうしているうちに、知りたいと思うことは何でも自然にわかるようになるだろう。」

そう言うと、ナーラダは幻のように姿を消しました。それを見てラトナーカルは、ナーラダが本当の聖者だったと知りました。ラトナーカルはそこで盗賊の生き方をきっぱりと捨てて、祈りと瞑想の日々を送りました。
猛獣がそばを通っても恐れることなく、ラトナーカルは祈りと瞑想を続けました。こうして十年、二十年という年月が瞬く間に過ぎていきました。微動だにせず瞑想を続けるラトナーカルの周りに、アリがアリ塚を作り出し、いつの間にか、ラトナーカルもすっかりアリ塚のひとかたまりの土のようになってしまいました。

そしてついにある日のこと、ラトナーカルは偉大な霊感を得、至高者の降臨と、悪魔を倒して正しい世界を取り戻す、その一部始終を見たのです。
そのとき、ラトナーカルは長い瞑想から立ち上がりました。するとラトナーカルを覆っていたアリ塚はボロボロと崩れ落ちました。それを見てラトナーカルは言いました。
「俺はヴァールミーキ(アリ塚に隠れていた男)だ!」
こうして盗賊ラトナーカルは、このときからヴァールミーキと呼ばれるようになったのでした。

その後ヴァールミーキは、ナーラダが言っていたように、自然に歌を作る力を身につけ、自分が見た、至高者がラーマとして降臨して悪魔を倒す物語を、歌物語にして人々に説きました。それは「ラーマーヤナ」と呼ばれ、その後、吟唱詩人たちの口を通して、インドのすべての人々に行き渡り、何世代にもわたって受け継がれてきたのです。

さあ、それではその「ラーマーヤナ」の世界を、ここに要約して説きましょう。至高者がラーマとして降臨され、悪魔を倒し、世を正されたときの物語を・・・



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