【2024年ベストアルバム】 #4 『Dance, No Ones Watching』 エズラ・コレクティヴ
今年聴いたアナログレコードの中から、2024年の私的ベストアルバムを数枚選ぶ【2024年ベストアルバム】。
4枚目は2024年9月にリリースされたEzra Collective(エズラ・コレクティヴ)の『Dance, No Ones Watching』です。
イギリス最高峰のマーキュリー・プライズを受賞し、快進撃を続ける彼らの最新作。これを聴かずして2024年は語れません。
『Dance, No Ones Watching 』Ezra Collective
アナログレコード2枚組、全19曲、2024年9月発売
genre ; UK Jazz、Hip Hop、Neo Soul、Reggae、Afro Beat
UK7位の快進撃
Ezra Collective(エズラ・コレクティヴ)はイギリスのジャズ・クインテットですが、ジャズとして聴くと「これがジャズ?」と思うほど、ノリの良い親しみやすいサウンドです。
彗星のように現れた彼らは、2023年にはイギリスの最高峰音楽アワードのマーキュリー・プライズ(Mercury Prize)を獲得。31年の歴史で、初めてジャズ・アーティストとして同賞を受賞したのです。
そしてリーダーのフェミ・コレオソは「UKジャズはダンス・ミュージック」と語る通りジャズをダンスミュージックとして昇華させたのが、この『Dance, No Ones Watching 』。タイトルを和訳すれば「踊れ、誰も見てはいない」となります。
そして「アフロビート、レゲエ、サルサ、ジャズ……そのすべてがダンスミュージック」と自らについて語るのです。(Rolling stone japanより)
そして2020年のデビュー以来、マイナーな存在から彼らを追い続けた自分は、つい最近ネット上で驚きの事実を知るのです。
それはこの11月15日に彼らが、あのWembley Arenaにてライブを開催したというものでした。
Wembleyと言えば、1980年代にはクイーンやU2が使用したことでも知られる大会場。
彼らはジャズ・アーティストとして初めてここでライブを開催したのです。
そして9月にリリースされた3作目『Dance, No Ones Watching』はUK チャート7位と、ジャズミュージシャンとして異例のヒットアルバムとなったのです。ここ10年世界で吹き荒れる新世代ジャズムーブメントの中では、Jon Batisteに次いで異例の商業的な成功を収めたと言えるかもしれません。
God Gave Me Feet For Dancing (ft. Yazmin Lacey)
本作より、ヤスミン・レイシー(Yazmin Lacey)をゲストボーカルで起用したシングルGod Gave Me Feet For Dancing(A4)。ビデオはBeyoncé、Janelle Monaeでも知られるタヤナ・トーキョー(Tajana Tokyo)が監督をしています。
ヤスミン・レイシーはジャイルズ・ピーターソンのプッシュするUKソウルのシーンで注目を集めているシンガーソングライターで、エズラも公言するアシッドジャズ、そしてSadeやインコグニートにも通じる80's/90's要素も感じられる曲です。
ライブ映像
レイシーはまだ人気が出る前のエズラと、2020年のBlue Note Re:imaginedでもコラボレーションしています。
コレオソ兄弟
エズラ・コレクティヴのメンバーはドラム、ベース、キーボード、トランペット、サックスの5人編成。
バンドの核になるのは、ドラムとベースのコレオソ兄弟です。
兄でドラムのFemi Koleoso (フェミ・コレオソ)がリーダー。弟がベースのTJ Koleoso。両親はナイジェリアからの移民と言います。
またサックスのジェームス・モリソンはジャマイカ出身で、多民族バンドであるが故のサウンドが持ち味となっています。
フェミはGorillazのツアーメンバーに抜擢されたことで知られています。GorillazはBlurのデーモン・アルバーンによるバーチャル覆面音楽プロジェクトです。
フェミ・コレオソはトニー・アレンの指導を受けており、アルバーンもトニー・アレンと関係が深く、その流れでGorillazに参加したのでしょう。
トニー・アレンはナイジェリアのドラマーでアフロビートの創始者として知られ、フェラ・クティの右腕として活動しました。
フェラ・クティ
フェラ・クティと言うと、トーキング・ヘッズの『Remain In Light』に多大なる影響を与え、また、ポール・マッカートニーが「Band on the run」でラゴスを訪れた際に一悶着あった逸話でもロックファンに知られています。
そして2020年4月に亡くなったトニー・アレンを追悼するデーモン・アルバーンによるプロジェクトに、アレンの直系としてフェミ・コレオソは抜擢されたのです。
何れにしても、フェミは世界に影響を与えたアフロビートの継承者として、エズラでもアフロビートを全開させるのです。
本作でもExpensive(C4)はフェラ・クティのカバーです。
弟のTJは「両親がナイジェリア出身だったこともあって、車に乗るときはフェラ・クティのアルバムがいつも流れていた。あと、カール・フランクリンのゴスペルやキング・サニー・アデのようなハイライフを母親が料理を作りながらかけてくれていたね。」と語り、「ロックからレゲエ、ファンク、グライム、ヒップホップ。いろいろなジャンルを聴くたびに、べースでそれを弾いてみて、別のジャンルに興味が行ったらまたそれを弾いてみたり。その蓄積が今の自分のプレイに繋がっていると思う。」とも語ります。
フェミは「アフロビートの核となっているのはドラムだと思っている。その一方でコードやハーモニーに関してはかなりジャズ寄りにしているし、ホーンのラインはサンバやサルサに通じるものがあると思うよ。」とも語り、アフロサウンド一辺倒ではなくカリブ的なものなど様々なリズムとのミックスが個性となっています。
Joe Armon-Jones
そしてもう1人のキーマンが、キーボードで唯一の白人のJoe Armon-Jones(ジョー・アーモン・ジョーンズ)。ソロアーティストとしても実績のある彼については#2ヌバイア・ガルシアの記事で詳しくは記載しましたが、エズラの中に見られるレゲエやダブの影響は彼が持ち込んだものでしょう。
フェミは「ジョー・アーモン・ジョーンズが僕をロンドンのダブ・サウンドシステムに導いてくれた。僕はそれまでレゲエは詳しくなかったんだけど、サウンドシステムのダンスに関心を持つようになった。特にシンセベースやサウンドプロダクションに注目するようになってからはレゲエにハマっていって」と語ります。
またさる11月20日にはソロでの日本公演も行っています。
そしてエズラ・コレクティヴのメンバー全員がUKの音楽教育機関Tommorow Warriors(トゥモローズ・ウォリアーズ)出身です。
その辺りも#2ヌバイア・ガルシアの記事で詳しくは記載しました。
本作のHave Patience(D3)ではジョーンズの美しいピアノソロが聴けます。
トゥモローズ・ウォリアーズ
トゥモローズ・ウォリアーズはコトニー・パインとも演奏していたゲイリー・クロスビーが設立者です。
ゲイリー・クロスビーはベーシストで、コレオソ兄弟の弟のTJコレオソもベーシスト。TJはクロスビーの愛弟子としてベーシストとして成長します。
兄のフェミはアレンからアフロビートを学び、TJにはUKジャズ伝統のレゲエ的な感覚が生き継いでいて、そのミックスがエズラをワールドワイドな存在にならしめているのです。
エズラの軌跡
エズラ・コレクティヴは2012年にロンドンで結成。旧約聖書に出てくるエズラという人物と集団を表すコレクティブから命名され、アフロビート、ジャズ、レゲエ、ヒップホップなどを混合したサウンドが特徴。2019年2月にファーストアルバム『You Can’t Steal My Joy』でデビューしました。
翌2020年に来日、大阪公演を行うがコロナ禍で東京公演はキャンセルとなり、東京公演を予約した自分は涙を飲んだのです。
そして2023年3月にビルボード東京で待望の再来日、自分も初めて彼らのライブを体験し、3年間の怨念を晴らしたのでした。
着席のビルボードを総立ちにした光景を初めて目撃して、衝撃の爪痕を日本に残したのです。
そして2023年のマーキュリー・プライズでは、2ndアルバム『Where I'mMeant To Be』がジャズ・アルバムとして初受賞し、シーンのメインストリームに躍り出たのです。
マーキュリー・プライズの授賞式のライブ映像よりVictory Danceです。
このアルバムでは、チャーリー・チャップリンの曲で、ポップスでも何回もカヴァーされているアメリカン・スタンダードのSmileをネオソウル的なアレンジでやっていて、底の深さを見せつけたのです。
オランダの衝撃
2023年7月には彼らを追っかけて、オランダで開催されたNorth Sea Jazzまで行ってしまいました。
最前列で白人、黒人、アジア系、アラブ系と多民族のダンス好きとかぶりつきで彼らを拝んだのです。
その辺りのレポートは下記で。
コンセプトアルバム
そして満を持して本年9月にリリースされた『Dance, No Ones Watching 』は、Introで始まり各所にInterrudeが挟まれたり、曲間がなくシームレスに進んだり、コンセプトアルバムさながらの作りになっています。
音楽性は別ですが、イギリスが生んだ伝統芸のプログレッシブロックにも通ずるトータル美があります。
1分弱のIntro(A1)はまったりとしたレゲエやスカのリズムで始まり、これから始まるダンスフロア的な展開のプロローグとなっています。
そして2曲目のHerald(A2)はガーナにある伝統音楽と西洋からの音楽を混合させてできたハイライフと言うスタイルを取り入れていると言われます。
カリブ海的なまったり感から、いきなりのプリミティブなリズムの導入で、我々はエズラの世界に引き込まれるのです。
ナイジェリア・テイスト
本作も彼らのルーツと言えるナイジェリアなど、アフリカ西海岸のビートの影響がそこかしこに見られます。
西アフリカの定番ドリンクに由来したPalm Wine(A3)というタイトルを持つこの曲。自分なんかは、イントロからトーキング・ヘッズの「Remain in light」っぽくも感じたのだが、そもそもがRemain in lightがフェラ・クティの影響を受けており、時代を超えたリンクを感じます。
このアフロスタイルのギターはKokorokoのTobi Adenaike。
Ajala
ライブ録音された音源から始まるAjala(B1)は友人や家族、数百人が部屋に集まって演奏を観ている状況で録音されたらしいです。
そして、この連載の#2で紹介したNubya Garcia(ヌバイアガルシア)がSax、TromboneでKokorokoのRichie Seivwrightが参加して、ロンドンでの同世代の絆を感じます。
この曲は2023年10月のナイジェリアのラゴスでレコーディングされました。Ajalaについてフェミ・コレオソは「Ajalaはナイジェリア人のジャーナリストで、彼の物語は素敵なんだ。彼はスクーターで世界中を旅したいと決心して、最終的に彼の名前はヨルバ語のスラングにもなった」と語ります。
N29(B3)はコレオソ兄弟のドラムとベースの一体感を感じるファンク・リズムに乗っかるエレピが軽やかで、Fusionのような懐かしさも感じます。
オリヴィア・ディーンの参加
2024年のサマソニにも参加したオリヴィア・ディーンが参加したNo One's Watching Me(C1)。
Snaky PuppyがFamily Dinnerで演じたように、彼らも歌伴にも優れた演奏力を保持しています。アルバムタイトルの一部No One's Watchingを含むこの曲は、カリブ調のリズムに身を任せて心地良いです。
カリブテイスト
Hear Me Cry(C2)ではサンバのリズムを取り入れて、ドラムのロールが活躍します。
Shaking Body(C3)ではサンバやカリブのリズムを組み合わせたラテンジャズ風味。ジョーンズのラテンピアノが引き立てます。ライブ演奏を貼りましたが、ライブでの実力が窺い知れます。
教会ソングでエンディング
本作はナイジェリアのバプテスト教会の曲をアレンジした、大作と言えるEverybody(D4)で厳かに幕を閉じます。
フェミ・コレオソが「西洋の電子音楽だけがダンスミュージックじゃないから。アフロビート、レゲエ、サルサ、ジャズ……そのすべてがダンスミュージック。僕らにとって、ダンスと人生は同等の意味を持つ言葉だ。」と語るように、アルバム自体が世界のリズムの見本市のようであり、それらが心地良くシームレスに混じり合う感覚がたまりません。
彼らの年齢はやっと30代になったばかりで、まだ伸び代はありそうです。
イギリス発でヨーロッパを制覇した彼らが全米を制覇する日も近いのでは。
ブレイク前の彼らが2022年に出演したTiny Deskのライブ映像、再生90万回に達する人気映像を紹介して終わります。
エズラの軌跡をプレイリストにまとめました。
参考文献