名盤と人 第13回 ベースの達人を観た。 『Pino Palladino& Blake Mills/Notes With Attachments』
達人ベーシスト、ピノ・パラディーノ(Pino Palladino)。ロックのThe Who、ジェフベック、クラプトンからソウルのD'Angelo、最近ではアデルにエド・シーラン。さらにはジャズとその幅の広さは驚異的である。そのピノ・パラディーノが来日し、LIVEを観ることが出来た。この機会に多彩なそのベース人生を辿る。
ジャンルを超えたベーシスト Pino Palladino
ベーシストのピノ・パラディーノ(Pino Palladino)が来日し、11月8日にそのLiveを観た。
まさに、至高のベーシストと言ってもいいピノ・パラディーノは1957年10月17日イギリスのウェールズ生まれの65歳。
伝説の域とも言える彼だが、未だに現在進行形の最先端の音楽にチャレンジしている。
2021年の初リーダーアルバム『Notes With Attachments』をコラボしたブレイク・ミルズ(Blake Mills)と来日。
36歳という親子ほどの年齢差のブレイク・ミルズとの共同名義で、新しさを前面に出したLIVEだった。
Pino Palladino(ピノ・パラディーノ)は、ロックからジャズ、R&B、HipHop、ネオソウルまで、様々なジャンルを股にかけてベースを弾いている、まさに職人肌ながら達人の域のベーシストだ。その幅の広さとセッションの数は全盛期のChuck Raineyと比べても遜色はない。
80年代はイギリスロック界で売れっ子ベーシストに
ピノ・パラディーノと言うとフレットレスだが、無名時代に参加したゲイリー・ニューマンの『I, Assassin』(1982年)はピノのフレットレス・ベースをフューチャーしている。
一躍彼の名を有名にしたのは1983年のPaul Young の「 Everytime You Go Away」である。この曲のキーにもなったメロディアスなフレットレスベースの演奏で世界的に知られるようになった。
自分的にはこのLive Aidでの演奏は忘れ難いが、若き日のピノの姿も。
この頃はヤングのバックバンドの一員だったようだ。
Paul Young 「Everytime You Go Away」 (Live Aid 1985)
Go West (1985年)、エルトン・ジョンのIce on Fire (1985年)、ティアーズ・フォー・フィアーズのThe Seeds of Love (1989年)、フィル・コリンズの...But Seriously (1989年)、クラプトンのJourneyman (1989年)と80年代はイギリスのアーティストとの仕事が続く。
アメリカ人との仕事は1989年、ドン・ヘンリーのNew York Minuteのフレットレスが印象強い。
ドラムはジェフ・ポーカロ。
The Whoへの参加
2002年The WhoのJohn Entwistleがツアー開始前に亡くなり、ピノ・パラディーノは代役としてベースを務めることになる。
2006年には残されたバンド・メンバーによる24年ぶりのアルバム『エンドレス・ワイヤー』にも参加。
2015年Hyde ParkでのLIVE。
転機となるD'Angeloとの共演
そして、大きな転機となるのが、2000年のD'Angelo(ディアンジェロ)のVoodooへの参加。
ドラムのQuestlove(クエスト・ラヴ)と作り出した革新的なリズムは、今も様々に応用されている。
ドラムとベースの音を意図的に正確なタイミングからズラして、酩酊しているのかと思ってしまうほど。
ベースと言えば黒人、ましてや黒人ミュージシャンに混じって白人がベースをやること自体が稀でエポックメイキングなことだった。
この作品でのピノについては以下の記事に詳しい。
この作品への参加を皮切りにピノは、エリカ・バドゥの「Mama’s Gun」、ロイ・ハーグローブによるユニット「RH Factor」の「Hard Groove」など、いわゆるネオ・ソウルと呼ばれるジャンルの作品に多数参加して行く。
同時にこれらのバッキングをするメンバーで結成されたソウルクエリアンズ(Soulquarians)にも参加。
この時点でピノ、既に40代となっており、年齢を超えた柔軟性の高さにも驚愕する。
さらには、John Mayer TrioでのSteve Jordan(Drums)とのリズムセクションも忘れ難い。
最近ではAdele、ハリー・スタイルズにエド・シーランと、活躍の範囲は止まることを知らない。
2022年にはYebbaのElectric Lady StudioのLiveで、久々にQuestloveとコンビを組んでいる。
Yebba - Louie Bag (Live at Electric Lady)
Piano: James Francies
Guitar: Charles Myers
Bass: Pino Palladino
Drums: Questlove
Pino Palladino and Blake MillsのLIVE
そして、LIVEは六本木のビルボードライブで開催された。
ピノ以外のメンバーはBlake Mills(guitar)、Sam Gendel(sax)、Abe Rounds(drums)。
2021年のBlake Millsとのコラボレーション作『Notes With Attachments』をベースにしたステージである。Blake Millsはギタリストとしてフィオナ・アップル、ルシンダ・ウイリアムス、ノラ・ジョーンズのツアーでギターを担当し、またアラバマ・シェイクス『Sound &Color』(2015)のプロデューサーとしてはグラミーにノミネートされている。
ここで展開される音楽は今までPino Palladinoが参加してきたどの作品とも異なるオリジナリティ溢れるもの。
ロックでもソウルでもなく、どのジャンルにも属さないまだ誰も見たことのない予定調和を壊す音楽。
不協和音スレスレでも快適な浮遊感、雑音のようで気持ちの良いリズム。
『Notes With Attachments』は2021年の各誌のベストアルバムにも選ばれているが、自分的にはベスト1と思える程、何回も噛み締めるように聴いた。
LIVEのドラムはAbe Roundsだが、レコードではChris Dave(クリス・デイブ)が叩く。
Chris DaveとPino PalladinoはD'Angeloのツアーを共にしてからの盟友で、Adeleの「21」でもリズムセクションを組んでいる。
さらには、Robert GlasperのBlack Radio III にもコンビで参加している。
Chris Daveなんてとぼけた言うタイトルの曲もやっている。
Just Wrongと言う曲にはChrisに加えてジェームス・テイラーのバンドでも知られるLarry Goldingsも参加。
アルバム参加メンバー
Pino Palladino Bass
Blake Mills Guitar,Sitar [Electric], Percussion
Chris Dave Drums
Sam Gendel Saxophone
Larry Goldings Mellotron [Flutes], Electric Organ,Hammond B3
Marcus Strickland Bass Clarinet, Saxophone
Ted Poor Piano
Rob Moose Violin, Viola
Andrew Bird Violin
LIVEでのAbe Roundsは打楽器も駆使し、民族音楽の要素を持ち込んでレコードとは全く違う展開となる。
ステージ上のピノは常に和やかで、笑みを絶やさないベース仙人と言った風情。フレットレスに持ち替えたり、珍しくスラップを一瞬見せたりしつつ、アップテンポの曲では確実に踊りたくなるノリを提供する。
サックスのSam Gendel は演奏時以外は目をつむり寝ているのか瞑想しているのか。
のリの良い曲で盛り上げて、最後は静かな曲で落として終える、という構成も含めて予定調和を脱した展開だった。
ビルボードライブの前には「FESTIVAL de FRUE 2022」と言うフェスにヘッドライナーとして参加していた。
203㎝の長身を折り曲げて遥々日本まで来てくれて感謝しかない。
最後に、Pino Palladinoのプレイリストを。
参考になる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?