えばとん情報1.16「キミの悩みはボクの悩み」
0-1でリードを許した後半、時間が刻々と過ぎる中、ちゃーんと現実を見た気がする。敗戦を告げるホイッスルが響き、悔しさを抱きながらテレビの前で突っ伏した。それでも前節とは別の姿を見た充実感を覚えたのも確かだ。ダイチの悩みはモイーズの悩みであり、彼らの悩みは選手の悩み、そして我々の悩みでもある。
緊張感は試合開始直後から漂っていた。選手たちには良くも悪くも重いプレッシャーがのしかかっていたはずだ。まずは再スタートの難しい状況で戦った選手を称えたい。もちろん、満足はしていない。
モイーズ特有のフォアチェックでボールホルダーを牽制し、ヴィラ後方からの中継先であるオナナとカマラを警戒。相手のビルドアップを阻害する動きは有効的で、またある場面ではピンチを迎える要因にもなった。ヴィラの逃げ場になったキャッシュのサイドをミコレンコが攻略。攻守に切れ味を見せたレフトバックは今シーズンの低調さに比べれば改善の兆しが見えた。
ゲイェとマンガラの背後はターコウスキとブランスウェイトが迎撃した。しかし、リスクとリターンのコイントスは自らのミスで裏を向いた。今季初めてのケースではない。残留争いに巻き込まれているクラブにありがちな勿体無いミスにより相手に好機を差し出した。ライトに照らされたグディソン・パークは静けさに包まれ、300試合出場を達成したピックフォードの記念日を祝うには至らず。
しかし、評価できる部分はあった。今の時点で必要以上に悲観的になることはない。
前回のヴィラとの対戦では実に73%ものボール保持を明け渡した。27%の支配率で逆転劇を浴びたゲームだ(⚫︎3-2)。今節、エバートンはボールを持つことを厭わなかった。オープンプレーからシュートまで持ち込むシーンを作り出し、ボール保持率は50/50の数値を残したのだ。
上記スタッツからもその差は明確に現れている。フィールド・ティルトでは前回対戦時の21%から51%へと上昇。相手陣内でのプレー機会を増やし、よりゴールに近い危険なエリアへ進む可能性を高めた。
ミコレンコのアーリークロスはヴィラ・ディフェンスのチャンネルを掻い潜り、抜け出したルウィンは胸で収めたあとテンポ良く左足を振り抜いたが、ボールが弾んだ状態で難しい角度からのショットだった。枠を大きく逸れる。
続くハリソンからのロブパスを受けたのもルウィン、相手のディフェンスラインの背後を取ったが、これまた弾んだボールを上手くコントロールできず、シュートは綺麗にミートできなかった。ヴィラの好守に阻まれる。
三度チャンスが訪れる。ピックフォードのロングフィードは逆サイドのリンストロムへ届く。ペナルティエリアの角を突くと、スピーディーに折り返しルウィンの足下へ。そしてこれまたハーフバウンドの処理が難しいパスだった。コンマ刻みのタイミングが合わず、ルウィンの足先から放たれたシュートはゴールマウスの遥か上を飛んでいった。
兎に角だ。ゴールを決めなければ勝利は一向に訪れない。16試合ノーゴールに終わったエースの苦悩は終わらない。しかしチャンスクリエイトの質を見れば、「あとは触るだけ」と言えるような優しいアシストでなかったこともリプレイを見ると感じてしまう。利き足は「頭」、相手ゴールから6ヤードの位置、ルウィンの得意とするエリアでのシュートへ結びつけるフィニッシュワークに頭を抱えるばかりだ。
強がる私は、このゲームが現実を突きつけるものだったと汲み取る一方で、モイーズがそれを1試合目にして身をもって体感できたのは今後に向けてポジティブなことだと捉えている。
「ショーンは、その姿勢と献身性で素晴らしい選手たちを獲得した。我々はそのレベルを上げる必要がある」と試合後に話したモイーズだが、1度や2度のトレーニングでは、全てを変えることは難しいことを説明した。冬に新たな戦力を確保すること、そしてチームを改善すること、その任務のハードさを実感したはずだ。
ダイチが去るも、モイーズの初戦でもスタメンを勝ち取ったドゥクレは前線の一角として起用された。非保持ではフォアチェックの鋭い守備を披露し、攻撃ではサイドに流れてカウンター時の受け手としてルウィンの負担を和らげた。エリア内でフィニッシュの局面に顔を出したシーンも作っていた。
しかし、誰が見ても明らかなように保持からの展開力にアイデアと精度を欠くのがお馴染みになっている。時に推進力あるキャリーや突破力を見せる意外性を放つものの、マクニールの代役としては同じ役割を任せることに疑問符がつく。
ポジティブ・トランジションでの速攻において、受け手がサイドに流れるという点では他にも優れた選手はいると言えるだろう。左サイドで独力の違いを作るエンジャーイ、クロスやパス捌きの点でよりスムーズに円滑さを表現できるリンストロム。どちらも守備での献身性で計算ができるレベルにあり、初期配置の中央からレーンを跨ぎ、攻撃時に大外サイドへ動的にプレーするオプションも用意できる。カウンターでの選択肢に幅をもたらす効果も期待できるはずだ。ドゥクレをベンチに置け、とは思わないが、より良い起用法をモイーズが模索することを願っている。
マン・ユナイテッドで共に戦ったヤングも先発に起用された。彼のプレー判断にはスタジアムに訪れたファンも怒号を飛ばした。右サイド、ハリソンとの連携には課題を残し、選手交代では慎重な傾向にあるモイーズが後半早々の59分にハリソンをベンチに下げた。ヤングはピッチに残ったが、83分には退くこととなり、3-5-2のシステムへと移行。ベトとオブライエンが投入された。左サイド、ミコレンコのパフォーマンスとは明暗が分かれた形に。次節以降、パターソンが良いフィットネスを維持できるなら、早い段階で積極的にポジション争いをさせるべきだ。ローニーのハリソンに変わる、チャンスメイクに長けたアタッカーを獲得する必要性もあるだろう。
オブライエンの起用は前向きな選択だった。ブランスウェイトとターコウスキがハイラインで迎撃に勤しむ傍ら、それを冷静にカバーリングする場面も生まれ、今後のプレータイム増加に望みを繋げたい。
試合後にはFA杯で戦線離脱したブロヤの状態が明らかになった。当初は背中の怪我がそれほど深刻ではなかったことが伝えられたが、別の場面で痛めた靭帯に問題があったようだ。全治10週〜12週の長期離脱を余儀なくされる。
ブロヤは過去にも9ヶ月近くの重症を負った経緯があるが、エバートンに加入した際も怪我を抱えた状態での入団となった。怪我が癒えてデビューを果たした日からローン費用が発生する条項が付帯していた。12月にようやくピッチに立ったブロヤだが、キャリアの難しい岐路に立たされている。ローン契約を打ち切り、国内ローン枠のひとつを空けることで冬の補強に猶予を与える案も取り沙汰されている。
間違いなくモイーズにとっては痛手だ。得点力に悩み続けるエバートンにとって、ルウィンの復活を待つ一方で、異なるプレースタイルで奥行きをもたらすブロヤの選択肢が消えてしまった。ベトに与えられるアピールの時間が先か、噂されるイタリア方面への決断が先か……ヴィラ戦でのベンチにはアカデミーのシェリフが座ったように、今後の悩みの種として数えられる。
しかし、冒頭で述べたようにダイチが解決できなかった悩みはモイーズの悩みでもある。それを現場でリアルに察知できたほろ苦い経験として、次節からのパフォーマンスに改めて期待したい。
試合後、「大挑戦だ」と語ったモイーズ。ケアテイカーとしてのプライドに火がついたと思うことにする。悩みの種を火種にすれば、いつか爆発の時が来るはずだから。