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えばとん情報2024.12.16「やっぱり悔しい」
Victory belongs to the most persevering.
"勝利は、最も忍耐強い人にもたらされる"
Napoleone Buonaparte
ナポレオン・ボナパルト
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私は、過去に一度エバトニアンではなくグーナーになろうかと浮き足立ったことがある。鞍替えしかけたのは、アルテタがアーセナルに移籍した時だ。当時、PS3のFIFAで遊んでいた際によくアーセナルを使用していたことを思い出した。でも、結局、今の今までエバトンファンだ。強くなる未来を想像したからだろう。そう思えるチームを手放すわけにはいかなかった。
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ダービーの延期が決定し、想定以上の休息をトレーニングに費やすことができた。
エミレーツで最後まで守り切ったエバトンは、この時間を有意義に利用した対策が実ったものだったはずだ。
ここ5試合で4度目となるクリーンシートでミッションをコンプリートさせた。再三に渡るピックフォードのセーブ、ターコウスキのブロックなど、各選手の奮闘により辛うじてゴールマウスを守り続けた。
最後まで走り続けた中盤の選手たち、低い位置でも冷静に相手のプレッシングに対処したゲイェも、ボールサイドまで果敢にカバーリングを続けたドゥクレも、トランジションで攻守にシークエンスを繋いだマンガラも見事な働きだった。途中から出場したリンストロムもハリソン同様の守備貢献を見せ、出場選手全員で掴み取った大きなドローだったと思う。
「試合に勝てなかったのはとても残念だ。 アーセナルが勝利にふさわしいチームだったのは明らかだ。我々は何も与えず、シュートも打たせなかった。 プレーを支配した。 相手に走らせなかったし、チャンスも作ったが、最後の20メートルでゴールを逃してしまった」
アルテタにこう言わせただけでも、ダイチ・エバトンとしては、「してやったり」な結果なのだと思う。今季の出来栄えからすれば喜ぶべきものと捉えられる。
一方、このゲームで目標だった勝ち点1をもぎ取ったダイチの言葉は強気だった。
「私は満足している。 このような場所に来てボールを支配することはまずあり得ない。 選手たちの戦術的な理解、その遂行、集中力、細部へのこだわり、パフォーマンスの一貫性が今日も発揮されていた」
「オールド・トラフォードでの試合では、我々が何マイルも離れていたとは思わない。 みんなは私がそんなことを言うのはおかしいと言ったけれど、3つの完全なミスを法で裁くことはできない。 オープンプレーの守備面では、それほど大きなミスはなかったと思う。 今日に話を戻すと、選手たちのコミットメント、チーム・ヒップは確かに発揮されていたと思う」
「イリはミコの前でとてもハードだった、ヤンギーはジャックと一緒にハードワークしていた。 ジャックにはクオリティーがあることは分かっているし、なかなかその瞬間を見つけられなかったが、彼はとても熱心に働いてくれた。 これらは、このチームと選手たちの良い習慣だ。 私たちは選手たちのコンディションを取り戻しつつあり、キャンプで培ったフィーリングは再び強くなっている。 もちろん、それを続けなければならないが、これで6度目のクリーンシートだ」
ダイチの言う通り、ボールを持たない(持てない)展開の中、追い続け、相手を倒し、シュートを弾き続けたチームとしての集中力、タフネスな戦いぶりは就任当初から植え続けたメソッドが実った証でもあると思う。ダイチはダイチのやるべきことを実践し、選手たちは見事に応えた。アーセナル戦はそんなゲームだったと思う。事実上、攻撃を捨て、何がなんでも守り切る。だからこそルウィンは孤立し、前にボールを出せない歯痒い時間が続いた。
ボールを持てないフットボールは本当に辛い。私にも経験があるが、自身の背後にボールを蹴られ、自分よりも足の速い、ドリブルの上手い相手を延々と対応するのは体力的にも、精神的にも苦痛でしかない。やっとのことボールを奪えても、クリアするのが精一杯だったり、出しどころがなく苦し紛れのロングボールを蹴った後は、相手に拾われて守備がリスタート。もう、自分のサイドにボールを回さないでくれ、FWはもっと前線から追いかけろよ、何分経った?ハーフタイムはまだか?試合終了のホイッスルは?そんな焦燥感に押しつぶされそうになりながら、一刻も早く時が経つことだけを考える。
素直に選手たちには称賛を送りたい。90分以上の間、攻め続けられ、満足に相手のエリアに迫る時間もなく、守ることを諦めなかった姿は感動に値するプレイぶりだったと思う。
それでも、試合から時間が経つとやっぱり悔しい思いが募ってくるのだ。きっと、当たって砕けろ!で戦えばちゃんと砕かれるだろうし、自滅したマン・ユナイテッド戦のような敗戦もあったかもしれない中で、晴れてクリーンシートを達成した。これがエバトンの最適解だったと認めざるを得ないのである。
次節は(H)チェルシー戦。ホームとは言えど、今季のアーセナルを上回る破壊力、攻撃性を持ったチームを相手にする。同じく、「ボールを支配することはあり得ない」のか、ホーム・アドバンテージがわずかでもあると判断し、3ptを獲りに行く仕草を見せるのか、どのようなゲームプランで挑むか注目したい。だが、現実を見ればオープンプレーに大きな期待は寄せられないだろう。自信を掴んだ守備を徹底し、いかに無失点の時間を続けるかが焦点になる。
◇
そんな想いが巡った後だったからか、先ほど目を通したThe Athletic/ボイランド記者の言葉が印象的に映った。
過去5年間を踏まえると、移籍金収支がプラスだったのはリーグでエバトンだけだった。 慢性的な投資不足がそれを物語っている。
しかしそれ以上に、クラブが今後どうありたいのかを確立する必要がある。
モイーズ時代のような、最小限の予算で戦う負けず嫌いな不屈のチームなのか? 後任のマルティネス時代初期のような若手の闘志あるチームなのか?
それとも、ブライトンのような持続可能な採用モデルに従うのか?
そして、TFGが所有するエバトンはどのようなプレーをするのだろうか?
モシリの時代の証拠は、近道やハリウッド的人事が、クラブの進むべき道ではないことを示唆している。 セルウェルの下で、エバトンはブライトンのようなセットアップに移行したが、それが成功するかどうかを判断するためのリソースはなかった。
この新時代、エバトンは現在の彼らにはないもの、すなわち活気にあふれ、エネルギッシュで、上昇志向が強く、前向きで、常に前面に出ようとし、グディソン・パークでの最後の数カ月は常に観客を利用しようとする、そんな存在にならなければならない。
アーセナル戦で改めて感じたことがもう一つある。エバトンはビッグ6の、中でもプレミアリーグでトップを争うチームに対して90分以上の間、劣勢でい続けることを選んだ。守備が第一、守ることに全てのエネルギーを費やした。だからこそ、攻撃におけるパフォーマンスには目を瞑ることができた。
だが、これで相手が中位になれば、下位であれば、攻撃パフォーマンスが優れたものであるという証拠はどこにもない。アルテタがオープンプレーの最終局面に悩み、「最後の20m」を悔やむのとは訳が違う。
今季ここまでの得点数(14)はリーグ19位。今日、解任が発表されたマーティンのサウサンプトンに次ぐ成績の悪さだ。これが、xGの話になればリーグ最下位(15.1)になる。今もモシリが元気に腕を振るっていれば、とっくにダイチのエバトンとはマーティンやオニールより先に袂を分つことになっただろう。
ダイチの築いた時間で積み上げたもの、表現される精一杯のパフォーマンスは「得点ができない、守ることで成果を感じられる」チームなのである。
少なくとも、新オーナー就任、そして新スタジアム以降へ伴う今季必達の目標はあくまでも"残留"だ。その現状を飲み込み、理解して、応援するほかない。それでもPPGはギリギリを推移する「1.0」。どうにも落ち着かない時間が続きそうだ。
ボイランド記者は文末にこう締めくくる。
TFGの最大の仕事のひとつは、エバトンのサポーターが再び信じられるチームを作ることだ。
ドロー決着のアーセナル戦、ピックフォードのガッツポーズは、試合視聴後の私の目には強く印象に残った。無論、私も「よく守ったよ!お疲れ様!」そう心の中で声をかけた。
でも、やっぱり悔しい。
ヴェンゲルのアーセナルに牙を剥いて立ち向かった頃が懐かしい。打ち負かした誇らしい記憶はちゃんと残っている。
今、選手たちは置かれた環境と状況の中で必死に戦い、日頃の厳しいトレーニングがあって大きな勝ち点を手にすることができた。
きっと彼らの中にも、心の奥で悔しい思いを抱いている選手たちも少なくない。それはサポーターである私たちも同じだ。
この気持ちは、ちゃんと忘れないようにしまっておこうと思う。12月、まだまだいろんな想いが込み上げそうだ。
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