【愛子天皇待望論 副島隆彦著】 Amazonブックレビュー

とても酷い本だと思った。

最初に言っておくが、わたしは右翼でも左翼でもない。天皇家に特別な思い入れも恨みもない。

わたしは精神医学問題の専門家である。本も出版し実務にも携わっている。その点から書きたい。まず、「雅子さまの頭のご病気問題を考える」という章があり、強烈な違和感を感じた。副島氏は、精神疾患は心の病気、メンタル疾患という考え方を嫌い、唯物論的リベラリストが好むような、「精神疾患は脳の病気」という説に立ち、あえて「頭の病気」という表現を繰り返している。しかし、昨今、今までの精神医学の考え方が多方面から疑問視されるようになり、「精神疾患は脳の異常機能というが証拠が見つかっていない」「脳の機能異常という前提に立ち、薬が造られたが治すどころが薬害のほうが広がっている」という声が多くみられるようになった。中でも有名なのは、うつ病モノアミン仮説というもので、「うつ病はセロトニンやノルアドレナリンと言ったモノアミン神経伝達物質の低下によって起こる」という仮説に基づき、パキシルなど多くの抗うつ薬が作られたが、患者数は減るどころか倍増し、製薬会社の売り上げは爆増する結果となった。結局モノアミン仮説は証明されず、誰もそれを検証した者はいない。だから、うつ病など精神疾患を脳の病気、頭の病気と捉えるのが時代の最先端という風潮は終わっている。それなのに副島氏は意気揚々と、不自然なまでにそれを強調している。作家やジャーナリストいうのは時代の流れに敏感で人権感覚にも優れていなければいけないと思うのだが、どうやらその認識がないようだ。皇族でなくても一般人を指して「頭の病気」と表現するのは失礼であるし、文学的にも違和感しか感じない。

もう一点、先ほどの雅子さまについて、副島氏は「帰国子女」と「合いの子さん」が抱えるクレオール問題という自説にかなりのページを割いている。要するに雅子さまのような外国で育ち日本文化に入っていく人間は、脳に外傷(トラウマ)があり精神疾患を呈すると断言している。それを得意げに「クレオール問題」「ダングリング・マン(脳が振り子運動をする人)問題」「脳が割れている問題」と様々な言い方をしているが、わたしから見れば珍説であると同時に、氏の人権感覚を疑ってしまった。クレオールというのはフランス植民地主義の下生まれた黒人白人の混血児で、それを無理矢理、帰国子女に当てはめるのは、人種差別的意図を感じる。

雅子皇后のご病気は、はっきり言って薬害である。
これは薬害の専門家からわたしが直接聴いた。雅子皇后の主治医である大野裕という精神科医は、前述した、うつ病モノアミン仮説を日本中に広めた人物で、それに基づいたSSRIと呼ばれる第二世代の抗うつ薬の普及を勧め製薬会社の売り上げに寄与した人物である。YEN FOR DOCSという製薬マネーデータベースで調べれば彼が製薬会社からいくらもらっていて相関関係にあるかが一発でわかる。そして雅子皇后の病気とされる「適応障害」だが、これは診察の現場で、あらゆる質問をして診断名がつかなかった症状に対して付く病名である。症状の元原因はわたしは皇室から遠いのでわからないが、彼女の顔をみていると精神薬を長年飲んでいる患者さんと同じであり、薬害であることがわかる。わたしも雅子皇后と同じ境遇で20年間精神薬を飲んだ体験をしているので、そのお気持ちや所作、仕事ができないことなど痛いくらいによくわかる。副島氏の発言はそう言った思いを踏みにじるものである。彼は薬害の可能性について一切言及していない。

あとは、天皇家の皇位継承問題に戻るが
この本は、それが論じられるべき本であるにもかかわらず、以下のことが一切言及されていない。
・女性天皇ではなく女系天皇の問題点
・女性天皇は過去独身であるという言及
これについては詳しい方が多いので、わたしからは本書の内容ということで提起しておく。

そして極めつけは、万世一系は嘘であるとして、昭和天皇など4兄弟はみな山縣有朋が皇女をはべらかして産ませた子どもだという見たことも聴いたこともないような記述が繰り返されている。わたしは表現の自由を重んじるし、天皇に対して不謹慎という考えはないが、こういう新説を述べるのであれば、それがどこからきたかという文献やソースを載せるべきであるのにそれが一切ない。また大正天皇が心身が不自由であるからそうだというのも理解できる部分もあるが、あくまで推測であって、様々な準備が足りないと思った。
わたしも明治以降の天皇制はイギリスによって懐柔されたものだと考えているが、こう言った根拠なき独論は、北朝鮮の金正恩が拉致被害者の横田めぐみさんの子どもであると同じくらい空論である。頭のおかしな陰謀論と片付けられて終わりだ。

万世一系についてはわたしもあり得ないと思っているが、副島氏の問題は、独自の理論を強調するあまりに信頼されないという結果に陥っているように思う。
万世一系の嘘について言及するならば、もっとも有名なのが古事記に明記されている欠史八代の件や、遠い親戚から迎え入れられたという継体天皇の件を持ち出すのが多くの理解を得られると思うし、近いところでは、いわゆる「明治天皇すり替え説」(欧米勢力が尊王攘夷の的であった孝明天皇と幼いその子明治天皇を暗殺し、南朝の子孫と言われている大村寅之助という人物と入れ替えた説)を持ち出すほうが、説得力がある。この説は状況証拠も多数あり、何より明治天皇直系の中丸薫氏が公言し、太田龍、船瀬俊介、朝堂院大覚といった信頼できるジャーナリストが支持していることからもほぼ真実だと思われる。
副島氏は一切これらには言及せず、独自の理論で展開している。

そして副島隆彦氏は、山縣有朋の政敵、伊藤博文をやたら持ち上げているが、伊藤博文こそ孝明天皇、明治天皇を弑逆した実行犯であり、伊藤博文を暗殺した安重根が、その理由の一番が「天皇を殺した人物だから」とはっきり述べている(ソウルの安重根博物館に展示してあります)。勘ぐるようだが、伊藤博文のその側面を否定したいから、独自の理論のみ展開しているのではないかと思ってしまう。

副島氏のいわゆる、英国による日本乗っ取りも理解できる部分もあるが、全体的に文献・引用等が一切なく、また靖国問題も戦勝国の方針を80年経った今でも堅持すべきだという考えを絶対視しているので、議論も広がりようがない。

全体と通して、「これが真実だ」「わたしは日本人を代表して言う」などの表現が多く、とても痛い本だと思った。

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