『バッタの夕食会』ってなんだ?
TCアルプの下地です。
今月33歳になりました。……あ、ありがとうございます。
数字だけ見れば当たり前のことですが、松本市に移住した10年前は23歳だったんだなーと思います。
今年新しく入った劇団員のうち3人くらいが23、4歳くらいの人たちなのですが、彼らを見ていると「私は10年前、この人たちみたいに生き生きしていたかしら」と考えてしまいます。
もちろん今の松本や劇団の環境とは違うし、個々人の性格も全く違うので比較のしようはないけれど、それでも今関わっている若い人たちのエネルギーがすごいので、33歳、全然落ち着いている場合じゃないな……と思う今日この頃です。
そんなわけで、先月末、情報解禁したことが二つあります。
一つは『FESTA松本2022』開催決定のお知らせ。
(これについては来月詳しく。)
そして、もう一つは7月末に行われる公演のお知らせ。
その名も『バッタの夕食会』。
バッタの……夕食会……? なんだそりゃ?
決まった段階で、関係者全員も「どういうことだ?」と思ったこのタイトル。
そして、この、説明のしようのないフライヤー……。
今回、久しぶりにフライヤーのデザインをさせていただきました。
といっても、ヘンテコな生き物? のイラストは串田さんが描いた線画。打ち合わせでコンセプトを決めた時には、まだ作品の本格的な創作が始まっていなかったこともあり、なかなか苦戦したデザイン仕事でした。
……そもそもフライヤーを作成することを聞かされたのが入稿予定日の10日前だったことも大きな苦戦の理由ですが……(笑)
狙い通りのものが作れたかはわかりませんが、フライヤーを手に取った方の反応は様々で面白いです。
今こうやって書いていて、ふと、演劇って劇場に来て始まるものじゃなくて、タイトルやイメージに触れた瞬間から始まるものなんだよなあ、なんて改めて思います。
TCアルプのフルメンバーで創る『バッタの夕食会』には、まだ台本がない。
稽古初日は「何か作品になりそうな物を3つ、15分で発表する」という、わかりやすく言えばプレゼンからスタートしました。
二日目以降も役者のアイデアや芝居から、少しずつ作品を立ち上げています。
毎日毎日、稽古場に足を運びながら「今日は何ができるのか」とか「どうしていこうか」とかいろいろ考えます。
公演の情報解禁も稽古開始も、本番の一ヶ月前。短い期間の創作はスリリングです。
TCアルプは役者しかいない集団なので、何かオリジナル作品をやろうとすると、自分たちで考えるしかないわけです。即興芝居とか、誰かのアイデアから短時間の打ち合わせをして小作品を作ったり、というのが主な創作手段。そこから台本を書いてくる人が出てきたり、この音楽を使おうという提案が生まれたりします。
こういう作り方は、主宰の串田さんの言葉を借りると「俳優は本来、脚本に従うための表現者ではない!」ということが根幹にある。
今の演劇の創作現場は、脚本家がいて、演出家がいることが主流。もちろん「シェイクスピアをやりたい!」とか「あの演出のステージを経験したい!」という欲が無いわけでは無い。けれども、たとえば脚本という役割がなかった頃や、文字の読み書きが今のように当たり前ではなかった時代は、文字に頼らずとも表現をしたくて仕方がなかった人が始めたのが、芝居だったのでは無いか。
その初期衝動を取り戻してみよう、とか、俳優がもっとも主体の演劇を作ろうよ!というのが、わたしのいる俳優集団TCアルプの考え方なんだと思います。
立派な物語が書けなくても、上品な演奏ができなくても構わない。役者なんだもの。魅力的な俳優がそこにいればそれでいい! ということを求められている。
正直言って、結構しんどい作業。わたしはこういう創作現場で、真っ先につまづきすっ転びまくる。頭でっかちな思考がいかに創作の邪魔になるかということを痛感します。
悩んでばかりだとどんどん身体も考え方も重たくなっていく。でも、短い期間で幕を開ける作品でウジウジ悩んでいても仕方がない。むしろ、時間がない中で「えいやっ!」と発揮できる瞬発力があればこそ、エネルギーが生まれたり、その人らしい魅力が演技に表れるのかもしれない。
というか、演じ手が誰でも良いのであれば、そもそもこの劇団のメンバーになっていないし、きっと「あなただからここに居るんだ!」とお互いに対して思っているはず。
わたしが他のメンバーに思っているように、自分自身に対してもそうなんだぞ! と気づかせてやりたいな……、というのが今の心境です。
ちなみに。
『バッタの夕食会』は7月30日・31日の二日間全3回公演なのですが、それぞれの日付の後ろに《Jam》《Zam》《Bam》というのが付いてくるんです。
これ、どういうことかというと、3回とも何かが微妙に変わるらしいんです。
何が変わるのかは言えませんけど、その回で目撃できるのはその場限りのもの、ということ。観にきたお客さん同士でも別の回だと全然違う感想が出てきたりもするんだろうな。
演劇の醍醐味って感じがして良いですよね。
同じ作品を毎日やっててもいろんな条件で少しずつ変化もするし、会場や天気や座席の位置、その日の体調なんかでも全然違うものになるのに、それをさらに濃いものにしようとしている。演じる側にとっても刺激を感じられる公演になる気がします。
そんなわけで『バッタの夕食会』は目下創作中です。
「『バッタの夕食会』ってなんだろう?」と考えて身体を動かすことが、『バッタの夕食会』を実現させる唯一の手段。今日も稽古に励みます。
新体制TCアルプ、どうぞご都合のつく方は目撃しに来てください。
あ。
一応書いておくと、少なくとも見出しのイラストのようなバッタは出てきません。
それでは、また8月に。
2022年7月17日 下地尚子
下地尚子の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/m1cb913220d43