暴力的な姉妹

ゆたかな筋肉の手と足で
俺を殴る蹴るする姉妹。それ(その概念)が
怒れる手品師の渇きを癒します。
姉妹の圧倒的な暴力が俺の思い出を拭い去ります。
俺を殴り続け、蹴り続ける姉妹の上空を
銀色のジェット機が飛んでいます。
俺にはそれがとびきり偉大に思えます。
姉は美少女です。
彼女の飛び蹴りのフォームは美しく、俺の顔面をアザだらけにします。
妹は風邪を引いています。
彼女がアラサーの太った事務員になったのはたぶん俺のせいです、たぶん。
姉が馬乗りになって、すべすべの白い拳で俺を殴ります。
妹がTWICEのTTダンスを踊ります。たった一人で。
野次馬が集まってきました。磁石にくっつく砂場の砂鉄のように。彼らの目には俺がゴム人形として映っているようです。群衆の野次が飛び交う公園は暮れなずむ住宅街の中にありました。妹は乃木坂46の曲を歌い、姉は関節技を極めました。俺は戦意を喪失しました。
というか、はなから闘う気などありませんでした。
外灯が点き始めたころ、俺は解放されました。
ひびの入った腕時計によると俺は30分近く
あの姉妹に殴る蹴るをされ続けていたわけで
それに対しての報酬も代償もあるわけもなく
二人はタクシーで帰りました。妹の着けていたサージカルマスクが
ジャングルジムの腐食して切れたところに引っかかり、はためいています。
俺はベンチに腰かけて空を見ます。
そりゃ体も顔もズキズキ痛みますよ、でも
どこか懐かしい気がするんです、この痛みが
水飲み場で喉を潤すと血の味がします、その味も
どこか懐かしい味なんです、悔恨と追憶の味なんです。
汗や涙と共に私は悟ります。私が暴行された理由なんぞ
いかほども見当たらないということを。

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