死者たち

海辺からあふれだす夜に拐かされ
密度を高めながら、しかし声を失いながらも
昇りつづけ、やがて天頂を掠める星々の微かな光となる彼らは

うす暗い獣道を光の銀砂で縁取り、そして
古代湖の底の地層の境目を縫いとじながら、
錆びたパイプ椅子の上に不在を生みだしている。

死者たち。夕立に降り籠められたコンクリート造りの家の、
果物が供えられた部屋の空気とともに
腐乱してゆく。そこから間も無くよみがえる、
それは記憶、澄みきった青空とサトウキビの揺れる葉先の記憶。

雨上がりの月が照らす家々から湧きたつ霊魂が
ひとつ、ふたつと集まり、しだいに大きな河となって
黒々と光る海にそそぎ込む。
ウチカビの煙に目をしばたたかせながら、 
そのさまを蝋燭が燃えつきるまで見届ける。
海と空を糊付けする水平線よりも
はるか遠くで明滅する稲妻が、わたしに気づかせる、
足元に散らばる珊瑚の骨々を踏みしめる音は
すなわち死者たちの声なのだと。

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