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名伯楽の引退と、天皇賞・秋。〜「藤沢和雄・プロフェッショナル」を見直して。

藤沢和雄調教師がついに引退されました。
最後までニコニコ。
(笑顔、というか、ニコニコ、という表現がぴったりな、藤沢師の笑顔。)

藤沢厩舎の卒業生ペルーサの仔、ラペルーズに、最後にフェブラリーステークスに出てきて欲しかったけど、ペルーサにそっくりで、気性が・・。能力をフルに発揮できていないような最近のレースぶり。心配していたところ、引退の報が。残念、無念・・。でも、これも競馬。

藤沢さん引退の前日、サウジカップデーで、藤沢厩舎の看板馬だったシンボリクリスエスや、バブルガムフェローの血を受け継いだ馬たちが輝きました。
これからも、いろんな馬たちの血統に目をやれば、藤沢厩舎のことを思い出すのだと思います。
2022年2月28日追記


調教師という仕事

競馬ファン以外には、「調教師」という仕事はあまり詳しくは知られていないのかもしれない。「プロフェッショナル」に藤沢和雄が登場した際に、住吉アナがフリップを使って「調教師の仕事」をまとめていた。

プロフェッショナル・調教師の仕事

これで全部とは言えないが、馬主から競走馬を預かり、馬の世話をする厩務員や調教助手を率いて、レースを選択し、最終的なレース結果、ひいては運営する厩舎の最終的な成績について責任を負う仕事と自分は理解している。

調教師の仕事は会社の経営者とほぼ同じ、という人も多い。なるほど、株主から運営資金を預かり、事業を運営し、人員を管理し、最終損益の最終責任を負う、ということで、ほとんど同じと言っていいと思う。


名調教師・藤沢和雄が引退する。

藤沢和雄という一時代を築いた名調教師が来年2月に定年のため引退する。藤沢師が育てた名馬は枚挙にいとまがない。オールドファンならシンコウラブリイ、タイキブリザード、バブルガムフェロー、タイキシャトルを思い出すかもしれないし、2000年代の馬ならシンボリクリスエス、ゼンノロブロイ。2010年以降ならソウルスターリング、レイデオロ、そして現役のスターホースならグランアレグリア。

「プロフェッショナル」は2007年放映のものと少し古いが、内容は古びておらず、とても面白い。グランアレグリアが今週末に天皇賞に出走するのを前に、「ああ、藤沢さんが引退なんだよな〜。」と感慨に耽りながら、見直した。


「プロフェッショナル」を見直して印象的だったシーン。

改めて見直して特に印象的だったシーンをふたつだけ挙げる。

「何をしているんだ。」

藤沢厩舎がまだ名門厩舎と呼ばれる前、ヤマトダマシイという良血馬を預かることになった。皐月賞やダービーも狙える資質を持った馬として藤沢師も期待したが、二戦目のレース中に故障を発生し、手術をしても助かる見込みがないため安楽死の処置がとられた。

藤沢師は、「何をしているんだ。」と自分を責める。ダービー挑戦のために組んだローテーションや、日頃の調教に無理があったのではないか。ヤマトダマシイのポテンシャルを引き出すためには、もっと馬に合わせた調教や、もっとゆったりした出走ローテーションが必要だったのではないのか。

「みんなに認めてもらうために結果を出さなければいけない。でもそのために、こういう犠牲がでてもいいのか。」

藤沢師は苦悩した。

藤沢師は厩舎開業の前に、競馬発祥の地・イギリスで調教技術を学んだ。そこで、馬に決して無理をさせない調教に心酔し、当時ハードなトレーニングが当たり前だった日本競馬の社会の中でもイギリス仕込みの優しい調教を心がけていた。

にも関わらず、ヤマトダマシイというとてつもない可能性を秘めた馬に出会い、自分のポリシーにブレが生じたのかもしれない。

藤沢師は、ヤマトダマシイの事故を忘れまいと決心し、自分流の調教スタイルを追求していくことになる。

「プロフェッショナル」の中で、その成果としてシンコウラブリイのG1勝利(マイルチャンピオンシップ)が紹介された。「もっと強い調教を。」という外野の声には耳を貸さず、自分のスタイルを信じてレースに送り出した結果だった。

スタジオの藤沢師の目にうっすらと涙が浮かんでいた。


「才能があるんですよ、みんな。」

住吉アナが、「才能のない馬でも調教次第で勝てる馬になるんですか?」と質問すると、藤沢師がほとんど即答で「才能があるんですよ、みんな。」と答えるシーンも印象的だった。

以下は、藤沢師の言葉。

あるんだけど、体が自由になんないっていうか。
体を持て余して、気持ちもまだ大人になれないで、結果出ないだけで。
才能はある。
それを急かしちゃうと、その能力を出さないで、終わっちゃうっていうか。
だめになっちゃうんですよね。

続けて、茂木健一郎氏がそれぞれの馬の「個性の活かし方」の工夫について尋ねると、

馬は嫌がるかもしれないけど、
どれだけそばにいてやれるか。
その子をよく知らなきゃ無理。
あ、この子はこんなとこがあったのか、
って性格の子、結構いますからね。


・・これは、ほとんど、子育てというか教育というか、親としても胸に響いたし、学校の先生などにも、参考になるのではないかな、と思った。


馬に語りかけるシーン。

本当に優しい。

タイキスピリッツ

しかし、馬はたしかに迷惑がっているようでもある。笑。

そこがまた愛らしいのだが。


天皇賞・秋マイスターが解説する「天皇賞・秋」の特徴。

以前買った藤沢師の著書を読み直したりもしている。

G1の勝ち方(藤沢和雄)
2008年発行


この本は、中央競馬の各G1について、レースの特徴を解説したもので、上述の「プロフェッショナル」に比べると、競馬ファン向けのものとなっている。

もちろん、今週末に行われる「天皇賞・秋」についても解説されている。

藤沢和雄と言えば数多くのG1実績の中でも一際目立つのが「天皇賞・秋」の実績。バブルガムフェロー、シンボリクリスエス(2年連続)、ゼンノロブロイ、スピルバーグ、レイデオロと、過去6回も優勝しており、ラストチャレンジとなる今年はG1六勝目を狙うグランアレグリアを送り出す。

そんな藤沢師が語る天皇賞・秋の特徴は・・

・マイル戦は人間の陸上競技に例えれば200メートル競争と似ているが、2000メートルはいうなれば400メートルのようなものかもしれない。
・マイル戦や東京の2000メートルというのは途中で一息入れられるほどペースが緩むことはない。それだけペースが緩めば、条件馬でも勝てるようなレースになってしまう。決してそうならないのが東京2000メートルのG1なのだ。
・もちろん、マイル戦よりはペースが緩むが、だからといって逃げ切れるほど甘くないし、のんびり後ろから行っては届かない
・スピードは絶対条件だが、タフなコースを押し切れるパワーも必要とされる。
・スタートからゴールまで常に能力が問われる、実に過酷なレースなのだ。だから血統的な裏づけが必要だし、半端な仕上げで勝てるレースではない。

今年挑戦するグランアレグリアは、G1をすでに五勝しているものの、すべてマイルの距離以下でのもの。200メートル以下では敵なしだが、400メートルとなってどうか、というところか。

距離の壁の克服、そこが焦点だろう。


今回、「三強」の争いと見られている中で、ライバルの三冠馬コントレイル、皐月賞馬エフフォーリアとも、2000メートルのG1勝ちの実績を持っている。

一方で、グランアレグリアは2000メートルでの勝ち星こそまだないが、近年最強馬と名高いアーモンドアイに対し、同じくタフな東京マイル・安田記念で完勝している。


本当に楽しみな対決であり、馬券どうこうを離れて、「スポーツ観戦」として観ても面白いと思う。(普段競馬を見ない人も、試しにテレビで観てみて欲しい。)


最後に、藤沢師の印象に残る言葉をもうひとつ。

G1ホースについては、調教師の腕の見せ所はない。残念ながら・・
(人間が)どんな失敗をしても馬が・・勝っちゃうから。

藤沢師の謙遜もあるだろうが、たしかに、一流馬ともなれば、自分自身で勝つための一工夫ができるのかもしれない。


今週末。グランアレグリアは距離を克服しちゃうのかどうか、さて?



(2022年2月23日追記)

調教師の引退が新聞に取り上げられることって、なかなかない気がする。さすが藤沢さん!

何気に今年もここまで9勝を挙げて全国2位というのがすごい。。

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