他愛のない会話こそ案外尊いのかもと思う話。〜坪松博之「Y先生と競馬」を読んだ。
今日は「Y先生と競馬」と言う本のご紹介と、「他愛のない会話って意外と尊い」と思うお話です。
「Y先生」とは小説家・山口瞳さんのこと。
著者の坪松さんはサントリーの広報部でPR誌制作に携わり、山口瞳さんの担当編集者だった方。
この本は、タイトルそのままに、坪松さんが親子ほど年の離れた山口瞳さんの競馬場通いに同行した日々を記録したもの。
山口瞳さんとの競馬場通い。
本に収められているのは1992年頃から1995年頃までの競馬場通いの日々で、著者が丹念に山口瞳さんの競馬スタイルや成績を記録している。
レース毎に章が構成されていて、読者としては、興味のあるレースの章から読んでも楽しめる。
それぞれ、そのレースに至るまでの前哨戦や、そこでどういう馬券を買ったか、一連の流れも描かれており、その流れを追うのが楽しい。
以下は、1992年の秋の天皇賞の日、午前中の山口瞳さんの馬券成績。
午前中は苦戦した模様。
しかしこのあと、メインの天皇賞を見事に当てた場面が出てくる。
(人気のトウカイテイオーが乱ペースに巻き込まれ先行し失速し、穴馬レッツゴーターキンが勝った。山口瞳さんの本命は2着に突っ込んだムービースター。)
競馬ファン同士の他愛のないやりとり。
以下、天皇賞検討時の山口瞳さんと著者の坪松さんの会話を引用する。
このやりとりが個人的にすごく好き。
こういう何気ない競馬談義が、競馬ファンにとっては至福の時なのだと思う。
馬名を挙げている方が、著者の坪松さん。
私自身、競馬友達との馬券検討の際は、似たような会話をしている。
昔、中野の居酒屋で、友達と二人でテーブルに競馬新聞を広げ、次の日の馬券について検討していた。
そこに若い店員さんがやってきて、「すみません!・・大変申し訳ないんですが、大切な新聞を少しずらしていただいて・・。」と、新聞をテーブルのはしにずらして、生ビールのジョッキやお通しの小皿を置いてくれたことがあった。
私と友達は、他愛のない話(馬券検討)をしていただけだが、店員さんはまるで重大な議題の討論中にすみませんが、、という恭しい態度。
丁重な態度にうれしかったのと、第三者から見たらそんなに真剣モードに見えていたんだなと思い多少恥ずかしくなったこともあり、記憶に残っている。
真剣だからといって馬券成績に結実するわけではないのだけど、真剣に打ち込んでいる姿が、店員さんから見たら神聖に映ったのかも。(それは言い過ぎか。笑。)
山口瞳、最後の馬券。
本の内容に戻ると、この本の終盤の章は以下のようなタイトルがつけられている。
山口瞳さんは1995年の8月30日に亡くなり、9月2日が告別式だった。
5月のオークスの時期には入院を余儀なくされており、競馬場通いができなくなってしまった。それでも、病院の許可を得て後楽園のWINSに出かけていたそうで、さすが筋金入りの競馬ファンであるが、、
山口瞳さんの最後の馬券は、著者が代理で購入した、亡くなる十日前の新潟競馬の最終12レースだったとのこと。
結構穴を狙っていて、十番人気のロフティフラワーの単複と馬連総流し。
結果は4着というから、惜しいところだった。
ただ、馬券を代理で購入してくれる友人・知人がそばにいると言うのは、幸せなことだと思う。
それに、この著者の記憶の克明なこと。如何にY先生を慕っていたかがわかる。
なお、本書には、毎年成人の日と四月一日の二度、山口瞳が若者に向けたメッセージを掲載したサントリーオールドの広告の文言が引用されている。
人生の先輩からのメッセージ、味わい深い。
★実は、こちらの記事は過去記事をリメイクしたものです。
リメイク版は、自分のエピソードも交えたものにして、少し視点を変えてみました。元記事はもう少し本の内容を紹介しております。
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