戸山為夫「鍛えて最強馬をつくる」を読んだ。
平成初期の名馬・ミホノブルボンを育てた名調教師、戸山為夫が書いた名著。
こないだ実家に帰ったとき、物置き部屋につっこまれホコリを被りまくった、昔買った本を物色し、この本を見つけた。
平成四年の皐月賞、ダービーを制した名馬・ミホノブルボンを育てた名調教師、戸山為夫師が自らの人生を振り返りつつ、厩舎の運営ノウハウ、人との接し方、そして馬の育て方について惜しみなく綴った本。
発売当時、ベストセラーだった記憶があり、巻末を見ると、1993年(平成五年)9月に初版が発行され、自分が持っているのは1994年(平成六年)5月の第16刷だった。
競馬関連本でこれだけ売れる本は、近年なかなかないのではないだろうか。
これまでこのnoteで取り上げた本もそうだし、まだ取り上げていないけど手元にある本は、90年代のものが非常に多い。
この時期は、競馬(に限らないのかもしれないが)関連本の出版数自体すごく多かったのかもしれない。
本の中身。ミホノブルボンについては約一割。
本の内容の方に話を移すと、副題が「ミホノブルボンはなぜ名馬になれたのか」であり、また、戸山調教師と言えばミホノブルボン、という印象が強いので、内容も終始ミホノブルボンについての話が多いのかと思いきや、ミホノブルボンに関する内容は全体の約一割ほどだろうか。
(ちなみに、この記事のトップ写真はハードトレーニングで筋肉モリモリのミホノブルボンの「お尻」。Number PLUS「名馬堂々。」より拝借しました。)
本では、ミホノブルボンの二冠達成はあくまで戸山調教師の哲学の集大成であり、戸山調教師が人生の中で誰から何を学び、独自の信念・哲学を築き上げていったかが記されている。
そして、戸山師の信念に基づいたトレーニングに関するノウハウがあったからこそ、ミホノブルボンという名馬が生まれ得たということも、この本を読むとよくわかる。
感銘を受けた内容について。
まず自分が感銘を受けたのは、日本が貧しかった頃、戸山師の子ども時代のエピソード。
このエピソードだけではそれほど印象に残らなかったかもしれないが、戸山師はのちに、馬を育てる立場になり、馬の栄養を重要課題として捉える。
その時になり、子ども時代の実体験を活かし、馬に必要な栄養が何で、どのように与えれば最も効果的なのかを考え、実践する。
例えば、草の質が悪いために補う必要があるミネラルやカルシウムを抽出して単品で与えるのではなく、海草の粉末を与える方がよい。海草も草であり、鉄分、マンガン、銅、マグネシウム、カリウムなどを含んでいる、という考え方を記している。(ただし、本来は馬が食べ慣れた陸上の草がこれらの栄養を十分に含んでいるのが理想的、とも記している。)
戸山師は決して物事を漠然と考えない。
強い馬を育てるために何が必要か、物事の根本から考えて策を練る。
もうひとつ例を挙げると、馬の個性や性格について、「馬添い」の善し悪しについて言及している部分がある。
仲間の馬に対して厳しい性格のことを、「馬添いが悪い」というらしく、もしも仔馬がまだ母馬と暮らしている時に、母馬以外の母馬がもし「馬添いが悪い」性格だと、自分の子には優しいが、他の子には厳しい。そばに他人の子が寄って来ると、ギュッと歯をむき出して威嚇するのだという。
そして、そのような扱いを受けた仔馬は、馬添いが悪くなる。他馬を怖がったり、逆に意地が悪くなったり、防衛本能が必要以上の警戒心をつくり、長じて競走馬となっても走る能力はあるのに他の馬と走るのを嫌がってしまい、競走馬として大成できない。
そもそも、なぜ「馬添いが悪くなってしまう」のかについて、戸山師が挙げている大きな問題が「牧場の狭さ」である。
戸山師はあくまで調教師なので、牧場作りや牧場での馬の生産と育て方について、いくら自分の考えがあっても、自分で投資して牧場運営をするわけではない。
ただし、付き合いのある生産者に対して、膝を付き合わせ、酒を飲み交わし、自らの信念・考えを伝える。そして、「ああして欲しい、こうして欲しいという馬を作ってくれた以上、自分のところで預かる」という。
そうして、生産者と信頼関係を築いていく。運命共同体、と言えると思う。
ここでは紹介しきれないが、他にも戸山師の騎手時代の下積みエピソード、そしてその時期があったからこその騎手への依頼についての信念(所属騎手を優先して乗せる)や、競馬・馬に対して持つ愛情についてなど、読み直しにも関わらずどのページも面白かった。(昔読んだ時より、さらに面白く感じられた。)
[おまけ]歴代名馬総選挙
自分も愛読している東スポとnoteの共同企画のようです。
自分が思う「強い馬」、「好きな馬」を投票し、ランキングで発表。また、トークイベントもあるようで、面白そう。
自分もこの記事に #歴代名馬総選挙 とつけて投稿してみます。
ただ、「好きな馬」はともかく、「強い馬」を一頭選ぶのは、なかなか悩む・・。