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僕がペーパーバックを読み始めたわけ⑩

 2月もあいかわらず私はウルトラスローモーにジェイムズ・ティプトリー・JRの“HER SMOKE ROSE UP FOREVER”(ARKHAM HOUSE, 1990年)を読んでいる。そして “AND I AWOKE  AND FOUND ME HERE ON THE COLD HILL’S SIDE” (「そして目覚めると、わたしはこの肌寒い丘にいた」)にさしかかり頭をかかえる事態が起きていた。

 まず、中学生の初読の時点で私がタイトルのニュアンスを全く感じとれていなかったことに気づく。すごい格好いいタイトルだと原題の英語すら暗記していたのにだいぶ節穴である( ざっくり言うと、“I”は私たち全て、 “the cold hill”は地球を指すでしょう)。

 それより衝撃的なのは、いまだにバックグラウンドの読み取れない細部がこの作品に多いということ。大まかに言うと5個、細かく言うと10個くらいナゾがある。いちばん気になるのがこれ。

 One of the early GR casualties, I thought.
 “Is that all you know?” His voice rose stridently. “Fools. Dressing in their styles. Gnivo suits, Aoleelee music. Oh, I see your newscasts,” he sneered.  “Nixi parties. A year’s salary for a floater. Gamma radiation? Go home, read history. (…)(p36)


 初期のガンマ線被曝者か、と思った。
「知っているのはそれだけかい?」声が耳ざわりに高くなった。「ばかやろうどもめ。やつらと同じ格好をしやがって。グニーヴォの服。アオリーリーの音楽。ああ、おたくのニュースは見てるよ」男はせせら笑いした。「ニクシのパーティ。フローター一個に一年分の給料とな。ガンマ線だって? 帰って歴史の勉強をしろ。(略)」(『故郷から10000光年』(伊藤典夫訳、ハヤカワ文庫p15)

 腕章をつけた記者が宇宙人の寄港する中継局の職員にインタビューする場面。作品世界の意匠が沢山登場しここだけみると分かりづらいのですが、「ガンマ線」に注目です。
 原文がよりはっきりしていて、“GR”の被害を受けた人か、と記者が思ったところ、男が“Gamma Radiation”だって、なに言ってやがると応じている。つまり、男はテレパシーを使っているんです。
 男がテレパスなのは確定的で、ナゾなのはそれをなぜ発現したのかと、記者がどう受けとめているのかテキストを読むかぎり不明。こんな細部が他4個もあるんです!
 わーい楽しいと読んでてもよくわからないこと判断しきれぬことばかり。恥ずかしくなって懸命に読み返したり、ネットの記事を探すものの不発で、検索能力ふくめ自分の能力についてなんか反省させられました。
 ところで、本作は「超正常刺激」という概念がキーで、普通に生きる以上の存在にどうしても惹かれてしまう生の定めが描かれる。私にとって、いまもティプトリーが超常刺激の作家だと再認識させられた次第です!
(蛇足で、下の方に本作のナゾを列挙します。篤志の方はお読みくださいm(_ _)m)









①男のテレパシーについて。a.何故それが発現したか。b.それは宇宙人との交渉の結果なのか。c.それについて何故記者の反応が未記入なのか。d.記者が飲ませようとした薬と男が飲んだ「薬」はそれに作用するか。
②プロサイア星人について。a.何故彼は地球人にも親切なのか。b.地球人にとって他の異星人より魅力が下なのはどうしてか。
③カートリッジの薬について。テレパシーを抜きに考えた場合それはどんな薬で携行する必要があるか。
④男の腕時計について。何故それはいま外されているのか。
⑤男の最後の一言について。a.シルティス部局は何をする場所なのか。b.それは男の秘密を暴くものなのか、それとも記者に大影響を与えるものなのか。
 以上です。②は簡単に解釈できそうですが、他は私には難物です。今作でワインの「星ぼしの涙」が出たように、他の作品の記述がヒントになるかもとほのかな期待を抱いています。このハードカバーを読んだら探します! 



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