《大学入学共通テスト倫理》のためのジャン=ジャック・ルソー
大学入学共通テストの倫理科目のために哲学者を一人ずつ簡単にまとめています。ジャン=ジャック・ルソー(1712~1778)。キーワード:「社会契約説」「自然に帰れ」「一般意志」「特殊意志」「全体意志」「直接民主主義」主著『人間不平等起源論』『社会契約論』『エミール』『告白』
これがルソー
目がすごく澄んでてまっすぐ見つめてきます。
📝ルソーはフランス革命と人権宣言の思想的なバックボーンです!
Law is the expression of the general will. Every citizen has a right to participate personally, or through his representative, in its foundation.(フリー百科事典「Wikipedia」、Declaration of the Right of Man and of the Citizenから引用)
「法律は、一般意志の表明である。すべての市民はみずから、またはその代表者によって、その形成に参与する権利をもつ。」がその訳。フランス人権宣言1789年の第六条の文言の英訳です。フランス革命の人権宣言は「人間であることが権利をもつ」宣言をはじめて行ったという意味で最重要。その最重要な宣言にルソーの最重要ワード「一般意志」の語が盛り込まれていることをご確認ください。
📝ルソーの最重要ワード「一般意志」ってどんなもの?
主権は分割できない。意志は一般意志であるか、そうでないかのどちらかである。すなわち人民全体の意志であるか、人民の一部の意志にすぎないかのどちらかである。(ルソー『社会契約論』(中山元訳、光文社古典新訳文庫)から引用)
つまり、「一般意志」は人民全体の意志の本質的な統合を指します。この「一般意志」の概念はかなり難解で、個人の意志の足し算ではない、普遍性を備えているそうです。
📝「一般意志」以外の意志もチェックしましょう!
『社会契約論』においてルソーは、「一般意志」は、単純な「特殊意志(個人の意志)」の和(全体意志)ではないが、そのそれぞれの「特殊意志」から、相殺しあう過不足を除けば、「相違の総和」としての「一般意志」が残るのだと説明している。(フリー百科事典「ウィキペディア」、ジャン=ジャック・ルソーのページから引用)
「一般意志」はダイレクトに意志する感じがイメージされています。個人の意志を超えた大きさを持つが、同時に集団で相殺されるようなものではない。つまり、個人は一般意志の中で自由である。こんな「一般意志」の理想がフランス革命を鼓舞したのだと思います。
📝「一般意志」を論じた『社会契約論』の題も覚えましょう!
ルソーは、諸個人が自由と平等を享受していたが、より自由で平等な状態、共通善を最大化するため、自然発生的ではなく、積極的に社会契約を締結したことによって国家が成立したとみる。(フリー百科事典「ウィキペディア」、社会契約のページから引用)
これがルソーの「社会契約説」。ルソーは社会(国家)の成立を個人の「契約」とみるが、どの思想家よりも「自由のため」が重んじられていることがポイントです。
📝そんなルソーは自然状態に一つの理想をみました!
不平等は自然状態ではほとんど無であり、その力と増大は、われわれの能力の発達および人間の知能の進歩からひきだされるものであり、私有権と法律が確立することによってついには安定し合法的なものとなる。(ルソー『ルソー・コレクション 起源』(川出良枝選、原好男訳、白水iクラシックス)から引用)
これがルソーの「自然に帰れ」。自然状態が善で、文明が悪という図式を最初に明確に打ち出したのはルソーだと思います。この観念は現代まで強力に生きているでしょう。ルソーは「自然に帰れ」という言葉自体は言っていないですが、自然状態の中にあるすぐれたもの(「一般意志」)を現在の文明の過ちを正すものとして論じています。
📝ルソーの理想は普通の民主主義を超えるものを目指します!
民主政という概念を正確に定義するならば、真の民主政はこれまで存在したことはなく、これからも存在することはないだろうと言わざるをえない。(ルソー『社会契約論』(中山元、光文社古典新訳文庫)から引用)
これがルソーの「直接民主主義」。「民主」というからには全ての人民が関わるべきだが難しいと言っている箇所です。ところで、フランス革命は「一般意志」を代表すると称した独裁者たちの暴力をも生み出しました。私はルソーの「直接民主主義」が強調されるのは、そうした歴史の展開からルソーを区別しようとする意図を感じます。
📝最後に、18世紀を代表する文章家のルソーを読んでいきましょう!
おお人間よ、いかなる地域の人であれ、意見がどうあれ、聞いてくれ。これから述べることが、嘘つきであるお前の同胞の書いた書物のなかではなく、けっして嘘をつくことのない自然のなかに、私が読みとったと思われるお前の歴史なのだ。(ルソー『ルソー・コレクション 起源』(川出良枝選、原好男訳、白水iクラシックス)から引用)
『人間不平等起源論』から。「おお人間よ~聞いてくれ」って呼びかけはすごくつかまれます。
人々を説得しなければならなくなるまえに、人間が必要とした唯一の言語活動は、自然の叫び声である。(ルソー『ルソー・コレクション 起源』(川出良枝選、原好男訳、白水iクラシックス)から引用)
同じく『人間不平等起源論』。ルソーは別の書『言語起源論』でも、理性より「情念」が言語活動の根幹だと論じました。
子どもの心には活動力があふれ、外へひろがっていく。子どもはいわば、まわりにあるすべてのものに生命をあたえることができるくらいに自分が生命にみちていることを感じる。(ルソー『エミール(上)』(今野一雄訳、岩波文庫)から引用)
これは子どもの自然状態。『エミール』という教育論は自然のままに育てるをプッシュして、現在の教育論のベースの一つとなっています。ところで、この本でルソーは「自然のままの宗教」を書いて、意図せずキリスト教文化自体と深刻な摩擦を生み出します。
これは自然のままに、そしてまったく真実のままに、正確に描かれた唯一の人間像であり、このようなものはまたとなく、おそらく今後もないであろう。(ルソー『ルソー全集』(小林善彦訳、白水社)から引用)
これは自伝の『告白』。ルソーは自然がすごく好きな人だと感じます。ところで、ルソーは18世紀最大のベストセラーである『新エロイーズ』という恋愛小説を書いています。印税はなし。
最後は小ネタを!
自由すぎる性格の持ち主であり、公権力と対立した言論人として身辺に事件が続いたジャン=ジャック・ルソー。そんなルソーが50歳のときに凝っていたのは、手芸の飾りひも作りである。知り合いの若い女性の子育ての応援にプレゼントを約束した、というエピソードがあります。赤ちゃんのおくるみにでも使うんでしょうか? あと、略しましたがルソーは倫理観が問われる行動でも有名で、その贖罪のように子育てを応援したのかもしれません。
音楽家であり、植物研究家であったルソー。そんなルソーは『孤独な散歩者の夢想』で、植物を「大地を覆う飾り」と形容した。手芸の飾りひもと同じく、細部の精密さが広がり展開するさまに面白みを感じていたようである。自然の力が広がり強い美を築くこと。ルソーの思想のイメージはこんな感じでしょうか。
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