経営管理における『KPIに対する誤解』2選
経営管理領域に携わる方は経営参謀だ!というような内容をこちらの記事で書きました。
また、この記事の最後で、経営参謀のミッションとしては「企業価値を高めること」があり、そのためには「予実管理の達成度とその再現性を高める」必要がある!というようなことを書き、その方法としてこちらの記事をご紹介しました。
いずれにしても「経営管理領域におけるKPIとの関わり方」について書いているわけですが、今回の記事では、そのKPIに対する誤解について私見を書いてみたいと思います。
KGIを視点や粒度を変えて見る!という誤解
「結局それってKGIじゃない?」というお話しです。
たとえば、Webからリードを獲得して、そこから商談をして、契約に至るというプロセスがあるとして、それをKPIのフローにすると下図のとおりです。
Webリード数があって、そこから商談化すれば商談数になって、そこから成約すれば契約数になって、それに契約単価をかければKGIの売上になるというプロセスです。
この中で、緑色の売上がプロセスのゴールであるKGIで、それ以外の青色のものがすべてそのゴールに至る途中地点にあるチェックポイントとしてのKPIです。
ちなみに、右に行けば行くほど結果指標、または遅行指標と呼ばれるもので、左に行けば行くほどプロセス指標、または先行指標といわれるものです。
ここでは売上がKGIですが、これを解像度を上げて分析するために、「拠点別の売上」や「商品別の売上」の分析をしている会社は多くあります。
しかし、これらは結果指標であるKGIに対する視点を変えたり粒度を細かくしたものであり、「あくまでKGIであってKPIではない」と思います。
このKPIの定義に照らして考えれば、KPIは KGIの達成までの「中間目標」なので、プロセスの途中にあるものであって、KGIに対する視点を変えたり粒度を細かくしたものではないはずです。
これが『KPIに対する誤解』の1つ目です。
つまり、KGIに対する視点を変えたり粒度を細かくしてみた指標(上記の例で言えば「拠点別の売上」や「商品別の売上」)をKPIだと誤解しているということです。
KPIの数は少ない方がいい!という誤解
2つ目の誤解は、「KPIは2つか3つ、できたら1つに絞った方がいい」(または、できるだけ少ない数に絞った方がいい)という誤解です。
確かに、KPIは「Key Performance Indicator」であり、「重要な業績評価指標」と訳されるので、「重要な」とついていることからも、「(KPIは)たくさんあるのはおかしい(=少ない方がいい)」という理屈はあると思います。
また、「人は同時にたくさんのKPIを追いかけられない」ので「KPIの数は少ない方がいい」という理屈もあると思います。
世の中の書籍やWeb情報でもそのように書いてあることがほとんどだと思うので、それを信じている方も多いかと思います。
この考え方を否定はしませんが、「絞るのは難しくないですか?」と思うのです。
たとえば、先ほどのこのプロセスで考えます。
KPI候補としては「Webリード数」「商談化率」「商談数」「成約率」「契約数」「契約単価」の6つです。
「ではこの中で重要なものを2つ決めてください」と言われたらどれにしますか?
世の中の書籍やWeb情報では「絞った方がいい」と書いてはいますし、その絞り方も書いてはいますが、その内容が抽象的すぎて「実際にやろうとするとできない」(=理論はわかるが実践ができない)という方がほとんどではないでしょうか?
ですので、「ではこの中で重要なものを2つ決めてください」と言われてもなかなか絞れないと思います。
仮に2つに絞ったとしても、それを組織として運用する際には、社内のメンバーから「なぜこの2つなの?」という疑問が出てきたり、納得しづらいというケースも多く出てくると思います。
または、絞った結果、その2つのKPIは、KGIに近いKPI、上図の例で言えば「契約数」や「契約単価」になるケースが多くなります。
つまり、KPIの中でも結果指標に近いKPI(上図で言えば右寄りのKPI)が選ばれて、プロセス指標のKPI(上図で言えば左寄りのKPI)が選ばれないことがほとんどです。
こうなると、KPI活用の利点を活かしきれません。
KP活用の利点の1つとして「プロセスに沿ったフォーキャストができる」という点が挙げられます。
上図の例で、たとえば、Webリード数が計画対比で未達成が続いているとします。
そうすると、その後のプロセスである商談数が(商談化率が計画通りであったとすると)計画対比で未達成になることが予想できます。
そうすると、さらにその後のプロセスである契約数が(成約率が計画通りであったとすると)計画対比で未達成になることが予想できます。
そうすると、最終的にKGIである売上が(契約単価が計画通りであったとすると)計画対比で未達成になる可能性が高いと予想できます。
このように、先行指標のKPIの状況を把握して、その後のプロセスにおけるKPI、ひいてはKGIをフォーキャスト(予測)することができれば、「過去に失注した案件を掘り起こして商談数を増やしていこう」「交流会に参加してWeb以外でのチャネルからのリード数を増やしていこう」というように、フォーキャストからの逆算で先手先手で行動しやすくなります。
そうなれば、結果としてKGIの計画達成度は高まっていくはずです。
KPIを絞った結果、結果指標に近いKPIばかりが選ばれると、先行指標のKPIが把握できなくなるので、このような「プロセスに沿ったフォーキャストができる」というKPI活用の利点が活かせません。
KPIは最初から絞らない
私のオススメの方法は次のような段階を踏むことです。
Step.1 KPIツリーをつくってKPIをMECEに洗い出す。
Step.2 KPIツリーで登場するKPIをすべてモニタリングしていく。
Step.3 その運用をしていく中で特にフォーカスすべきKPIを絞っていく。
Step.1 KPIツリーをつくってKPIをMECEに洗い出す。
まずStep.1については以下の記事で書いているのでここでは割愛します。
さて、何度も登場中の上図をKPIツリーに変換すると下図になります。
以降、このKPIツリーを例に話を進めます。
Step.1では、まずはこのようなKPIツリーをつくって、MECE(漏れなくダブりなく)にKPIを洗い出します。
Step.2 KPIツリーで登場するKPIをすべてモニタリングしていく。
次にStep.2ですが、KPIツリーで出てきたすべてのKPIの実績数値を毎月(または毎週)把握してチェックしていきます。
この時、把握した各KPIの実績数値が「良い」か「悪い」かの判断をする上でのポイントは、基準となる数値を持っておくことです。
そうすれば、その基準値に比べて「良い」「悪い」の判断をしやすくなりますし、人によって「良い」「悪い」の判断がバラバラなってしまうのを防げます。
その基準となる数値の決め方はこちらの記事を参考にしてください。
なお、上図のKPIツリーで言えばKPIの数は6つですが、実際に皆様の事業でKPIツリーを作ればこんなに少なくはないはずです。
50個かもしれませんし、100個かもしれません。
当社の経営管理システム「Scale Cloud」のユーザー様では1,000個を超えるKPIを洗い出して常時モニタリングされている企業様もいらっしゃいます。
KPIの数が多いほどいいとはいいませんが、多ければ多いほど「中間地点」(上記KPIの定義参照)が増えることになるので、より詳細に事業の状況を把握でき、具体的に対策を打てる可能性が高まります。
一方で、そうすると「管理するKPIの数が増えて手間(データの収集/加工/分析など)がかかりすぎる」という懸念が出てきます。
確かに表計算ソフトでこういった運用をしようとすれば、とても煩雑になるしミスも起こりがちなので、個人的にはシステム運用がオススメです。
どういったシステム(または状態)がオススメかについてはこちらの記事をご覧ください。
Step.3 その運用をしていく中で特にフォーカスすべきKPIを絞っていく。
さて次にStep.3です。
Step.2の運用をしていると「Webリード数が計画に対して達成率が低すぎる」「商談数が3ヶ月前と比べて大幅に減っている」「成約率がずっと下落傾向にある」というような異常値を発見できるようになると思います。
このように「異常値になっているKPI」が「いまフォーカスすべきKPI(=重点的に改善すべきKPI)」である可能性が高いです。
そうすれば、上図の例で言えば、6つのKPIを常にモニタリングする中で、直近では「Webリード数が計画に対して達成率が低すぎる」「成約率がずっと下落傾向にある」ので、「Webリード数」と「成約率」の2つを重点KPIとして、優先的に改善に取り組んでいこうというようにKPIの絞り込みがしやすくなります。
また、この方法であれば、「なぜそのKPIに絞り込んだのか?」がわかりやすいので、関係者の納得性も高く理解も得やすくなるはずです。
なお、このような「異常値」という視点での絞り方ではなく、別視点での絞り方もあるのでこちらの記事を参考にしてください。
このような運用をすれば、その時その時の状況に応じて柔軟かつタイムリーに重点KPIを変更しやすくもなるのでオススメです。
さいごに
いかがでしたでしょうか?
この記事で書いた内容はあくまで私見なので、いろいろな考え方があると思います。
いろいろある考え方の中の1つとして、ぜひお役立ていただければ嬉しいです。
さいごに、実は書籍を出版させていただいています。
起業してからの約17年間で多くの企業とお付き合いさせていただきましたが、成長する企業や組織には、「数値の大切さを知っている」という共通点があるように思います。
単に知っているだけではなく、数値を使って事業の状況を客観的に見て、考え、意思決定して行動することが習慣化(仕組み化)されていました。
本書では、KPIという数値を活用して、ロジカルに、スピーディーに、組織的に、PDCAをまわす仕組みを書いています。
事業目標を達成するための仕組み、さらに、その目標達成を一時的なもので終わらせるのではなく、継続的に達成し続けることができる仕組みづくりを、具体的に実践することにこだわって書いていますので、少しでもみなさまのご事業のお役に立てれば幸いです。