「●●ちゃんには、お母さん居ないよね」と言ったあと...
最悪な一言
私が子どもの頃、ある日、学校からの帰り道に、友達の妙子ちゃんを含む女の子4人で「みんなと違うことを言い当てるゲーム」を始めました。このゲームは、周りのものや状況を観察し、人と違う点を指摘するというものでした。
ルールはシンプルで、「他の子は靴が赤系なのに、あなたは黄色」など、特異な点を挙げるものです。私たちは夢中になって次々と違いを探し、楽しんでいました。
しかし、私は妙子ちゃんに対して「他の子はお母さんがいるけど、妙子ちゃんにはいないよね」と言ってしまいました。その瞬間、妙子ちゃんの顔色が変わり、目に涙を浮かべて泣き出しました。私はその言葉が彼女を深く傷つけたことに気づき、すぐに謝りましたが、妙子ちゃんはただ涙を流すばかりでした。その時、私の胸は締め付けられるような後悔でいっぱいでした。
天使に助けられる
そんな風に酷く傷つけたのに、その後、私は彼女に救われることになります。
少し後、私の父が大工の仕事中に足場から落ち、脳にダメージを負って左半身不随となり、身体障碍者になりました。杖をついて歩く父の姿は、子供の私にとってとても恥ずかしく、隠したいものでした。
ある日、妙子ちゃんと二人で家の前で遊んでいた時、父が杖をついて帰ってきました。「しまった!」と思った私は、妙子ちゃんに「うちのお父さん変でしょ?」と聞きました。すると妙子ちゃんは、「てん子ちゃんのお父さんは普通だよ」と躊躇なく答えてくれたのです。
その「普通だよ」という一言が、私を深く救ってくれました。身体障碍者の父を持つことで、私は自分が社会から急に弾かれたように感じていましたが、その一言で、社会に受け入れられたような気持ちになり、まるで生きていても良いんだと感じたのです。
私には、その時の妙子ちゃんが天使に見えました。
本人に伝えられない感謝
そのすぐ後、妙子ちゃんは転校し、私も転校してしまったので、今では彼女がどこにいるのかは分かりません。
あんなに酷いことを言って傷つけたのに私を救ってくれた天使に、本当は心の底から感謝を伝えたい。
しかし、もう直接彼女に感謝を伝えることはできません。その代わりに、私は他の人に「他人と違っていても良い」と受け入れる姿勢を示し続けたいと思います。
それが、私が“未来のためにできること”です。そうすることで、少しでも私のように救われる人がいてくれたら嬉しいです。