見出し画像

♯10. 開発が知っておきたい他社特許の読み方

これまでも特許を思いつくための記事は何本か書いてきましたが、今日は視点を変えて他社特許の読み方に関する記事になります。

開発の方の中でも業務内容によっては特許のネタを思いつく必要のない方もいると思いますが、他社特許を正確に読む知識は万人に求められる能力です。長年開発に携わっている人から、これから開発に携わる人まで幅広い人に向けて書いていきたいと思います。

1.請求項は1つでも侵害したらダメ

そんな事知ってるよ!と思う方がほとんどだと思いますが、いざ他社の特許を読んで自分達が他社の特許を実施して侵害していないか調査を始めるといるんです。請求項1は実施してるけど、請求項2は実施してないからセーフです、と。

登録特許1つの請求項の全ての要件を実施してしまうのが侵害行為となりますが、この『全て』を全ての請求項と勘違いしているのだと思います。

例えば、製造方法と物の両方のカテゴリーが登録された特許があるときに、製造方法の発明は実施していないけど、物の発明を実施していれば、原則、特許権の侵害となります。うちと製法が違うから、では回避できていません。

2.独立請求項は全て読む

特許を読んだ経験がある人の中には、請求項1に書かれた発明が最も広い権利になっている、と思っている方も多いのではないでしょうか?だから請求項1の発明を読めば、そのカテゴリーの発明に関しては他のクレームを読む必要がない、と認識されてはいないでしょうか?これも間違いです。

日本の特許法では、同じカテゴリーの発明に関して複数の独立請求項を立てることが認められています。出願人によっては最後の請求項にコッソリと請求項1より広い独立請求項を書く人もいます。だから全ての独立請求項を読む必要があります。

そして、原則は、独立請求項さえ読めば従属請求項については読む必要がありません。ここで『原則は』と書いたのは、

請求項1「AとBを有するX」
請求項2「Bに代えてB’を有する請求項1に記載のX」

みたいな例が現実にはあるからです。そこだけはご注意を。

3.実施例に限定して解釈しない

これは自分もやってしまっていたことです。材料屋さんにありがちだと思います。例えば、請求項1が「AとBを有するX」だったとします。実施例にはBの含有割合がAの含有割合よりも少ない実施例しかないから、Bの含有割合が多いものを実施してもよい、と解釈してしまうことです。

材料屋さんは実施例の範囲しか特許を取れないと教育されることがあると思います。しかし実際には実施例までなくても、実施の形態の記載をサポートに権利が取れることはよくあります。これが無効性がないか?というのは別議論であって、他社特許を読む際は、まず広く解釈しないといけまん。

材料以外の分野でも「Aとセンサーを有するX」という発明で、センサーの実施例がエンコーダしかないからといって、他の方式のセンサーを含む形態を実施してよいことにはなりません。

4.侵害してない理由を残す

他社の特許の内容を実施していると分かった場合は、その状況を資料に残すには細心の注意を払う必要があります。これは侵害が故意か否かによって損害賠償額が変わるためであり、自分達が侵害のリスクを認識していた証拠を残すことは大きなリスクを伴います。

一方、侵害してない時はその証拠、理由を関係者の誰もが分かる形で残す必要があります。だいたい他社の特許は複数人で読むことになると思いますが、複数人の読むレベルを合わせる必要があります。例えば、上記の例だと、『弊社はXを実施しているが、Aは使用していないし、今後もAを使用する予定がないので、問題なし』と残しておけば良いと思います。


他社特許を読むことは、開発者にとって自分達の事業を進める上で重要です。他社の特許を読むことによって自分達の特許の新しい種になるケースもあります。自分達が開発している技術に最も近い文献を見つけ、その文献にある課題を解決すれば一つの発明が完成するからです。他社特許を読むのに、こんなモチベーションを抱けるようになれば特許読みも面白くなるはずです。

記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。