見出し画像

#16.明細書作成時のこだわり

 企業知財としてこだわっていることを記事にします。類似記事を以前ポストしていますので、こちらの興味がある方はご覧ください。

  私は知財部の一部員でありますが、自社が出願人の特許の明細書を作成するときがあります。年間にして10~20件程度(ほぼほぼ前半の方ですけど)です。特許事務所にも年間30~40件程度作成を依頼していますが、超特急の出願だったり、事務所より自分が得意な分野を"内製"しています。企業によって"内製"の使い方は異なると思いますが、私の場合は、開発ノルマ目的の発明等価値の低い発明を審査請求もせずに成仏させるために出願しているものではありません。(そんなものは、書式だけ整えて出願するか、そもそも出願しません)

1.外国出願を前提とする

 まず、私がこだわっていることは外国出願を念頭に入れて明細書を作ることです。特にアメリカを意識しています。近年は中国が出願数も増え、外国出願といえば中国を中心に行っている技術分野・企業も多いと思いますが、訴訟になった時の額の大きさを考えると、アメリカで特許をどうとるかということを一番に考えるべきかと思います(もちろん業界によってはそうでないところもありますが、私の業界の場合はまだまだアメリカが中心です)。

2.翻訳者を考えて文書を書く

 外国出願するということは、日本出願の明細書をベースに翻訳が発生します。そのため、翻訳者を考えて文章を書くことが大事です。文書を書くときに読み手を考えることは当然だとは思いますが、私は審査官より翻訳者を意識しています。翻訳してもらいやすい文書を書くことです。

 翻訳者の方には技術分野に詳しい方も紛れているとは思いますが、基本は"当業者"でありません。だから技術のことが分からなくても、正確に訳してもらえるように様々なことに気を払わなくてはいけません。同じ符号でも用語がぶれてたりすると、違うものを意味しているんじゃないか?とか余計な気を使わせてしまったりします。私も心当たりはたくさんあります。今、私が最も気を付けていることは

「文章はできるだけ短く書く。」

です。これは主語と述語をはっきりさせるためです。長い文章だと、どこが主語でどこが述語がどうしても曖昧になりがちです。日本語だと曖昧なままでも文脈から何となく意味が通じたり、多義的に解釈できることをいいことに中間処理の時に「実は○○で」と後出し的に特定することもできてしまいます。しかし、英語はそこを誤魔化すことができません。多義的に解釈される文章ではだめです。また、接続詞は一方と「また」くらいしか使いません。バリエーション増やしても英訳時には、さほどバリエーションがないためです。あと日本語なら主語は不要だろうというところにも、あえて主語を登場させます。方法のクレームのフローチャートにも主語を登場させるようにしています。

3.アメリカのプラクティスに対応しておく

 明細書の中身はできるだけ外国出願時に再考しなくてよいように、日本出願の段階でできるだけアメリカのプラクティスを念頭に入れて作成しています。クレーム数やクレームの従属関係までアメリカのプラクティスに合わせる人もいるかもしれませんが、クレーム(数、カテゴリ)は各国毎に異なっていても良いというのが私のスタンスなので、私はそこまではしていません。アメリカのプラクティスに合わせるために私が気を付けてやっていることは、以下になります。

①"発明"という言葉を極力用いない。"invention"でなく"embodiement"や"disclosure"くらいに訳してもらうため。
②実施例の評価で〇△×を用いずに、ABCにする。〇×は日本人の発想だから。
③クレームに登場させる用語は図面に図番を付して登場させる。
④先行技術文献に書いていないことは、発明の実施の形態に書いておく。

 ④は、課題(発明の効果)を書くべきか論争にも繋がってきます。それだけでも1本の記事が書けてしまうので詳細はほどほどにしますが、日本なら先行技術文献の開示とともに、「その開示では○○の状況では××という課題があった」なんてことを課題に書く人もいますが、「」内のことは発明者が発見したことだと思うので、そういうものは実施形態の中に書きますよ、ということです。課題は原因に言及せずに短く簡潔に、事実と推測をごっちゃにしない、ってことを徹底しています。


 私はいろいろと考えてるんだぜぇ(スギちゃん風)、という文書ですが、実務ではいろいろミスってますのでご安心を。。

 なんかもう少し書きたいことも頭に浮かんでいましたが、メモに残していたことはここまでなので、とりあえず今回はここまで。折を見て補充していきたいと思います。

 なお、翻訳者のみならず外国出願を行う人は以下の本を一読することをお勧めします。私が知財になってすぐに読んで勉強になった本です。



本日も読んでいただきありがとうございました。

記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。