#09.知財部員から視たユニクロ・セルフレジ特許訴訟

 今週月曜日にYahoo!ニュースで話題になった「ユニクロ・セルフレジ特許訴訟」について、他社の知財部員から視た意見・感想を述べていきたいと思います。

1.下町ロケットが影響??

 記事を読んで多くの方が気付いていると思いますが、記事はアスタリスク社の主張を基に構成されています。記事最後の裁判費用の話からも、下町ロケットで世間に印象付けられた、大企業=特許に汚い、というイメージに合った世間受けする記事になっています。別に私はアスタリスク社の話が嘘だとは思っていませんし、ファーストリテイリング社の肩を持つわけではないですが、なーんとなく公平な記事に読めないというのが第一印象です。(マスコミの記事全般に言えることですが)

 確かに、ファーストリテイリング社はアスタリスク社から特許侵害訴訟を起こされていますが、アスタリスク社もファーストリテイリング社から特許無効審判を起こされているのが現実です。また訴訟や無効審判の前には、ライセンス交渉が行われていたようですし、規模の大なり小なりはあれど、決して珍しい話ではありません。

 アスタリスク社は0円でライセンスしろ!と言われたことに怒り、今回の『泥沼』になったという記事の流れですが、ファーストリテイリング社がこの特許を端から無効性が高いと考えていれば、0円ライセンスの話も納得できるものです。

2.請求項3以外は無効と判断された特許6469758号

 ダイヤモンドの記事にもありますが、請求項3以外が無効だという結果を知ることができても、この結果からどちらに軍配が上がったかは、まだ判断できません。

 ファーストリテイリング社としては、すべての請求項を無効にできなくても、自分たちのセルフレジが請求項3の構成要件をすべて充足しなければ勝ちです。逆にアスタリスク社としては、生き残った請求項3のすべての構成要件がユニクロのセルフレジに当てはまれば勝ちです。

 これは知財高裁で争われている特許侵害訴訟で明らかになるのを待つしかないです。

3.アスタリスク社の特許6469758号のクレームについて

 特許の内容は、実は誰でも見ることができます。

 このページの特許6469758号というところをクリックし、請求の範囲というところを開くと、中身が見えます。

 請求項3のみが無効ではない、となると、①請求項1に請求項3の要件を加え、請求項3を削除、②請求項2を新しい請求項1の従属請求項に補正もしくは削除、③請求項4の請求項1~3を請求項1、もしくは請求項1または2にする、という補正をするのが定石でしょう。

 となると、請求項1は以下のような内容になると予想されます。

【予想請求項1】  物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって、
前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと、
前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と、
を備え、
前記シールド部が上向きに開口した状態で、前記RFタグから情報を読み取り、 前記シールド部は、
前記電波を吸収する電波吸収層と、
前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、
を備えることを特徴とする読取装置。


 特許が多数溢れた現代の中で、あのセルフレジがこれだけ短い文言で特許になるというのが驚きです。

 まず、私は、3行目の「前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」が特許回避ポイントかと思いました。シールド部において、上向きに形成された開口以外の箇所が、完全に物品を囲む必要があるように読めるからです。しかし、明細書の【0039】に「シールド部は横向きに開口が形成されていても構わない」とあります。この記載により、シールド部が側面において一部途切れている形態もサポートできているように見えます。よい明細書の記載です。

 ただ、「物品を囲み」とあるから、物品がシールド部から一部でもはみ出ていたら権利が及ばないようにも思えます。そこで、

「前記アンテナを収容し、前記物品を囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」

ではなく、

「前記アンテナを収容し、前記RFタグを囲み、該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部」

の方が特許としては強い気がします。


 とはいえ、この特許は短い明細書ながら、かなり質が良いです。「前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と、前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、を備える」という箇所も、何も考えずに作ると、「電波吸収層の上に形成された電波反射層」と書いてしまいがちです。しかし、私が考えたこの表現だと、電波吸収層と電波反射層との間に中間層を入れられると特許を回避されてしまいます。

 とはいえ、外側というのは、視点の位置によっては内側にもなってしまいます。

「前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と、前記電波吸収層の外側に形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、を備える」

ではなく

「前記シールド部は、前記電波を吸収する電波吸収層と、前記電波吸収層より前記RFタグが配される位置の近くに形成され、前記電波を反射させる電波反射層と、を備える」

の方が良さそうです。となると、請求項1の「RFタグを囲み」も、「RFタグが配される位置を囲み」の方がよいかもしれません。読み取り装置の構成要件に物品やRFタグそのものが入ってしまうのは良くありませんからね。

 まだ分割して継続しているようなので、ここに書いてある通りの内容に補正されたらどうしよう?なんて思いながら今日の記事はここまでにします。

 今日も読んでいただきありがとうございました。

記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。