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#17. 特許4315607号「冷菓及びその製造方法」〜雪見だいふく〜

 本日は街中で見つけた特許シリーズの第二弾です。この特許はロッテ株式会社の登録特許で、雪見だいふくのパッケージにこの登録番号が記載されています。

 特許公報はこちらから見ることができます↓



1. 発明の概要

 まずは、発明の概要を理解しましょう。私達特許技術者は、発明の概要を理解するために、課題・解決手段・効果をまとめて発明の大枠を掴みます。その流れでまとめると、

課題は「保存時における、でん粉の劣化に起因する品質、食感の劣化」

解決手段は「もち米:うるち米が略100〜85:0〜15で構成されるでん粉と糖類と水との混合加熱により得られる粘弾性物で冷菓類を被覆する被覆冷菓において、粘弾性物のでん粉と糖類と水の割合を所定の割合にする」

効果は「流通時の取り扱いの不手際、保存条件の不備等により雰囲気の温度が著しく変動し品温が過度に上昇したような場合でも、長期にわたって食感の劣化が無く、良好な組織、食感を有する冷菓類に使用し得る粘弾性物を調製し、風味、食感のより一層改善された、優れた被覆冷菓を提供する」

 明細書の【0002】から【0018】あたりをまとめたものです。雪見だいふくのお餅部分は、でん粉と糖と水が主成分で、でん粉はもち米が100%~85%で副成分のうるち米がその残部なんですね。このお餅部分が劣化して触感が変化してしまうという課題があったようですね。

2. 審査の過程

 続いて、この特許の出願から登録までの流れを見てみましょう。これは経過情報というところをクリックするとみることができます。

2001/3/19 出願
2008/2/25 審査請求
2008/9/29 拒絶理由通知
2009/3/2 意見書・手続補正書提出
2009/5/8 特許査定

 ということで1回拒絶理由通知を受けた後、出願時から請求項を補正して特許査定を得ていることが分かります。

 拒絶理由の内容は以下のようなものでした。

 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
                 記
【請求項5-8、12】
 請求項5には、「請求項3および4記載の被覆冷菓の製造方法。」と記載されており、他の二以上の請求項の引用が択一的でないため、請求項5に係る発明が不明確である。
 請求項6の「請求項3乃至5記載の被覆冷菓の製造方法。」も同趣旨の拒絶理由が存在する。「請求項3乃至5のいずれか一項に記載の被覆冷菓の製造方法」などと記載すれば、この限りではない。
 請求項7、8、12も同様である。

 という審査官から補正の示唆も出ているで明確性違反の拒絶理由のみでした。つまりは近しい先行技術はなかったということです。

 ちなみにこの拒絶理由ですが、はっきり言って代理人のケアレスミスです。私がこんな拒絶理由をもらったら上司にチクリといわれそうです。なお代理人は有名な弁護士さんのようです。

3. 私ならクレームはこうする

 さて、そんな代理人さんが作った請求項1の内容を見ていきましょう。

【請求項1】もち米:うるち米が略100~85:0~15で構成されるでん粉と糖類と水との混合加熱により得られる粘弾性物にて冷菓類を被覆する被覆冷菓からなり、前記粘弾性物が、でん粉を3~55重量%、砂糖と麦芽糖が1:0.5~2の比率で全糖類量の50重量%以上を占める糖類を20~70重量%、水を25~40重量%含有することを特徴とする被覆冷菓。

 出願時と現在とでは特許のルールも変わっていますが、まずこのクレームは被覆冷菓というモノの発明なのに「混合加熱により得られる」という経時的な要素が入っています。いわゆるプロダクトバイプロセスクレームになっています。また、「もち米:うるち米が略100」の”略”は私なら絶対に使いません。略100は100を含まない、と解釈されるおそれがあります。また、おいて書き部分の「粘弾性物にて冷菓類を被覆する被覆冷菓からなり」もクローズドクレームと解釈されるおそれがあるから避けたい表現です。また、粘弾性物の割合の数値規定ですが、でん粉と水は量が明確ですが、砂糖と麦芽糖の量は分かりにくいですよね。この特許を権利行使しようとしたら、分析するときに完成物から全糖類の量を算出したうえで砂糖と麦芽糖の量を算出し、その比を求めないといけません。あと、完成物にも水は残るんでしょうかね?混合加熱してるけど。疑問です。

 なお明細書を読むと、この数値は作る前の重量をクレームアップしているようで、完成物の数値ではないようです。また、完成物からこれらの数値をどうやって分析・算出する方法が記載されていません。材料系の明細書を書いたことがある人なら、必ず発明者にこの辺の情報を求めますよね。

 ということで、私なら請求項1はこうしようかなと思います。いかがなもんでしょうか?

【請求項1】冷菓と、前記冷菓を被覆する粘弾性物と、を有する被覆冷菓であって、(改行)前記粘弾性物は、でん粉と糖類と水と、を含み、(改行)前記でん粉の含有量が3質量%以上55質量%以下であり、前記糖類の含有量が20質量%以上70質量%以下であり、前記水の含有量が25質量%以上40質量%以下であり、(改行)前記でん粉はもち米またはもち米とうるち米からなり、前記もち米の含有量が85質量%以上100質量%以下であり、(改行)前記糖類は少なくとも砂糖と麦芽糖を含み、前記砂糖と前記麦芽糖の含有量が前記糖類の50質量%以上であり、かつ、前記砂糖の含有量が前記麦芽糖の0.5倍以上2.0倍以下であることを特徴とする被覆冷菓。

 頑張って作ってみましたが、モノの特許としては難しいですね。やはり雪見だいふくのおいしさの秘訣は、この混合比のものを加熱するというプロセスが肝なんですね。


4. 期間満了が迫る

 この特許ですが、2001年3月19日ということで、あと1か月くらいで権利期間満了となります。外国出願はCN(CN1375213)とKR(KR1020020074413)があります。中国と韓国は日本の出願に優先権をかけて出願していますので、あと1年弱は権利を維持できそうです(年金関係は未確認です。。)。

 ただこの特許が切れるとはいえ、雪見だいふくは私が子供の時からあったはずで、発売され人気製品になった後に、さらに美味しくするために得られた処方を特許出願して権利化したものだと思われます。なので、この先も雪見だいふくの成分、製法に関する特許が出てくることもあるかもしれませんね。期待したいと思います。

 本日はここまでです。ありがとうございました。


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