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#06. 開発を悩ませる知財部の負のパワーワード

 本日は、やや自虐的な記事になります。私のような知財部の人間が、発明の種を提供してくれる開発に対し、言ってはいけない言葉をまとめます。何かの機会に自分の行いを振り返った時に、未来の自分に役立つことを期待して、まとめておきます。

1.そんなの特許とってどうすんの?

 自分と一緒に打ち合わせに出ていた定年間際のおじさんが実際に言ったセリフです。自分は言っていません。

 発掘活動をしていると、どうしても筋がよくないアイデアは出てきます。また、実際の開発業務に対し、特許を取っておくべき技術分野とそうでない技術分野があります。だから、知財部は出されたアイデアを否定する場面があります。そんな時に、出てしまうのがこのセリフになります。

 このセリフを言った方の肩を持つと、この技術は特許として価値がない、ということを言いたかったのだと思います。

 別に、この開発の方が行っている開発行為自体に価値がない、と言いたかったわけではありません。

 しかし、こんなセリフを聞いた開発の方は「開発行為に価値がない」と受け止める方がほとんどで、自己否定された気分になります(私も開発出身ですので経験があります)。

 特許の価値=技術の価値ではないことを開発の人にも繰り返し伝えていかないと、このようなミスコミュニケーションが続いてしまいます。知財部の方は、開発の人が行っている業務そのものに価値がないような印象を与えて、アイデアを否定することを絶対にしてはいけません。


2.そんなの当り前でしょ!

 これは、進歩性の議論でよく聞かれるものですが、知財部のみならず開発同士で行うアイデア出し会でも言ってはいけないセリフです。

 以前の投稿で、開発の方は、まず進歩性を考えなくてよいという話をしたかと思います。が、知財部は進歩性を考えることが大事な仕事の一つですので、こういうセリフを吐きたくなる気持ちもわかります。

 ただ、知財部の人間は、様々な分野の特許を日々目にすることがあるがゆえに、感じてしまうことがある、と肝に銘じた方がよいです。他分野では当たり前だから、この分野に適用されたらどうするの?なんて意地悪く言う方もいらっしゃいます。

 ただ、他分野ではよく知られた考え方でも、その分野では知られていない考え方であれば、審査においても組み合わせ容易と認定されない可能性があることを忘れてはいけません。

 実際に私も権利化業務を担当していて、発明のカテゴリが限定されていたり、装置の構成に限定があることによって新規性を出し、こんな程度の進歩性でいいのかな?と思うような特許を何件も登録させています。

 これから私も経験が長くなると、このセリフを言いたくなる時が増えると思うのですが、広く権利が取れちゃうときがあることを忘れずに我慢したいと思います。

3.それって検証性あるの?

 出願された特許は拒絶理由が見つからなければ登録査定を得ることができます。発明としては、新規性と進歩性があれば特許になるということは皆さんもご存じかと思います。

 「検証性」は当然、特許成立に必要な要件ではないですが、権利行使を念頭に入れると、「検証性」はあった方がよいです。人によっては「検証性」がなければ駄目だという人もいるかと思いますが、私はその考えに反対の立場です。検証性がない、もしくは極めて困難な発明でも、クロスライセンスの交渉で、弾の1つになる可能性があるからです。

 実は私もこのセリフを良く使います。そもそも、このセリフに悪意はないからです。検証性がないから発明として認めない、というのではなく、検証性のレベルを知るのが発言の意図です。検証性のレベルを例示すると、

 ①見ただけで分かる

 ②分析をすれば、直接的に分かる

 ③分析をしたあとに演算や数値解析をして分かる

 ④特別な手段を用いればわかる(アルゴリズムや出発原料etc)

 ⑤特別な手段を用いても推定できる(アルゴリズムや出発原料etc)

といった具合で、発明に検証性がある!といってもさまざまなレベルがあるのです。数多くの発明を扱う私は、検証性の程度等も考慮して発明の価値をランク付けして各件を管理しています。だから、発明の価値を決める観点の1つを正確に知りたいのです。


 私は開発出身の知財部員ですが、知財部の経験が長くなりつつあり、段々と開発の人達のマインドを忘れつつあります。また、多くの企業で、知財部と開発のセクショナリズムによる心のすれ違いが数多くあると思います。基本的には、相手の立場になって物事を考える、という初心をお互いに忘れなければギスギスした関係にならないのですが、今日書いたようなセリフを言わないように気を付けて仕事していきたいと思います。

 本日はここまで。ありがとうございました。

記事を読んでいただきありがとうございました。 支援をいただければ、また新しい記事を書くモチベーションに繋がります。よろしくお願いします。