【音楽雑記】#47 渡辺美里「My Revolution」とアルバム「Lovin' you」(1986年②)
渡辺美里の4枚目のシングル「My Revolution」がリリースされたのが1986年1月だった。ドラマ主題歌でもあったこの曲はオリコン1位になるなど大ヒットする。7月には、この曲を含む2枚組のアルバム「Lovin' you」がリリースされた。
「My Revolution」は色々と斬新な曲だった。
「My Revolution」はとにかく、まず印象的なイントロに耳が持っていかれた。メジャー9thコード、分数コードの響きも新鮮だったが、リズムが新鮮過ぎた。
四つ打ちバスドラムに、”チャーン、チャカ、チャンチャン”というコードバッキングのパターンは、少し間違えればダサくなってしまいそうなリズム。それまでの日本のポップスでは聴いたことがなかった。
メロディも新しかった。8ビートなのに、部分部分で16分音符が多用されているし、メロディの動きも激しく上下する。(同じくEPICの大江千里や佐野元春も同じようなテイストはあったが)
そしてサビで3度低くなる唐突な転調。これも、それまでのポップスではあまり聴いたことがなかった。
サビの譜割りもマーイレボリューション(チャーン、チャカ、チャンチャン)というのもダサかっこよかった。
それまでの聴き馴染んでいたシティポップにはない譜割り、リズム、転調にちょっとした衝撃を受けた。ジャンルとしてはロックに近いが、コードは洗練されてる。
もちろん作曲者は小室哲哉だが、当時はそんなによくは知らなかった。TMネットワークはデビューしていたが、まだ「Self Control」や「Get Wild」は出ておらずブレイク前だったと思う。
このアルバムでは小室哲哉は作詞も編曲も担当していないが、しっかり後の小室サウンド、小室の歌詞の世界観の方向性は示されていた。
2枚組のアルバム「Lovin' you」も意欲作だった。
そして7月に発売された2枚組のアルバム「Lovin' you」も意欲的な作品だった。全20曲収録で8曲を小室哲哉が作曲。8曲を岡村靖幸が作曲。特にこの2人のつくったそれぞれの個性溢れる曲が良すぎてボツにするのがもったいなくて2枚組にしたような気がする。そして全編曲は大村雅朗だった。
当時、渡辺美里が20歳、小室哲哉がブレイク前の27歳、岡村靖幸はデビュー前の21歳。みんな若く、才能と意欲があふれていたのではないかと思われる。
そしてアレンジャーの大村雅朗は、若くから、すでに山口百恵、松田聖子、中山美穂から八神純子、吉川晃司、大沢誉志幸の作品まで幅広く手掛けていて、名曲「SWEET MEMORIES」の作曲者でもあり、すでにキャリアを積み上げたベテランだった。(当時まだ35歳だったが)
EPICのプロデューサーの元、まだロック志向だった小室節と、熱量ある、とんがった岡村靖幸の作品を、才能あるアレンジャーの大村雅朗が、両者の作品を理解してアレンジしたことによってアルバムに統一感をもたらしたのではないかと思う。
一つ上の世代の作曲家がビートルズやA&Mレーベル、AORに影響されていたのに対し、ニューウェーブ、ソウル、ブラコンといった要素を吸収した次の世代が出てきた感じがした。「Lovin' you」は自分にとって時代の流れの変化を予感させるアルバムだった。