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縁は異なもの乙なもの♪


「腹減ったよ」
 SNSの画面に浮かび上がった文字
アキと表示されサムネイルはピエロの格好の少女
「あいよ」と猫のスタンプ
 それだけ打ってアンドロイドをポケットに入れた。
 
 自転車に乗りスーパーで食材を見繕い、そのままターン。
 
 山手通りの内側、比較的新しいマンション入り口でIDカードをかざす、ロックが開いてエントランスへ
 
 エレベーターで5階、奥から2番目の右側の扉にIDを差し込み暗証番号をプッシュ、2LDKの部屋、ローソファに胡坐をかいた女が真剣なまなざしでコントローラーを操りゲームをしている、コードレスのイヤホンにどんな大音量が流れている事やら、アバターが拳を振るいモンスターと闘っている。
 
 20Lのショッピングバッグから食材を出し、シンク前に並べてから冷蔵庫に収納、冷蔵庫の食材のチェックも済ませた。
 
 冷凍してある飯をレンチン、続いて玉ねぎもレンチン、鶏肉を一口大、、マッシュルーム。
 
 にんにくを微塵切り、バターで炒めて鶏肉を投入、白ワインでフランベ、
玉ねぎを入れて掻き混ぜる
 
 ヒガシマルのうどんだしを振りかけ、フライパンを煽る。
 
 火に戻し、へらでフライパンの真ん中を開けケチャップ投入、ケチャップが沸き立ちぐずぐずと泡が立ったら飯を投入、へらで馴染ませている間に左のレンジでオムレツを作り出す、卵は強火。

「プロだね、おいしい」
 スコップを模したスプーンをせっせと使うアキ 20代前半、茶に染めた髪をゴムで縛り、オムレツとチキンライスをせっせと口に運ぶ。

 美味いものを喰って、暖かい部屋で楽し気にしているのを見ていると、こちらが幸せになる。

 上方の訳アリ女だ、SNSで知り合った、どこにでもいるフーテン女なんだけど、言語IQが高く面白くて、俺も丁度あぶく銭が有ったから拾ってみた。

 当初は野良猫より用心深く、声を聴くまで3ヶ月、知り合って1年は顔も知らず、住んでいるところを知ったとき、職を辞したというので、東京へ来ないかと誘った。

「もう、売りはしないよ」
アキはSNSで雄琴の姫と言う設定だった。

 俺から身体を求める事はしなかった。 親子ほど年が違うのも有ったが、俺に抱かれたいと思っていない女を抱く趣味は無い。

 キャンセルになり出物だった2LDKのマンションを買い、俺の仕事場兼アキの住まいにした。

 俺は書き物をして糧を得ている、老眼になったので仕事場にはDELLのデスクトップと27インチのディスプレイ。 高性能なCPUと多すぎるメモリはWordに贅沢だとアキにからかわれる。

 リビングにはBTOのゲームPCとプレイステーションが置いてある、美術館や博物館を巡っていない時、アキはゲームやサブスクリプションで映画を見て過ごしているらしい。

「喰った喰った」
 アキは二人分の食器をシンクへもって行き洗い始めた、予め俺が洗っておいたフライパン、レーデル、フライ返しもシンク下の引き出しにしまう。   風俗や水商売を経験していると言っていたが、立ち居振る舞いは育ちの良い家庭の娘と言うところ、それでいて野良猫の様に警戒心の強いところが有る、知り合って7ヶ月、猫で言うと臍天をする様になってきた。

 2時間、キーボードを叩いた、集中していると文字で作り上げる世界に入り込み、感覚が言の葉で創ったものに影響される。 風を感じ、匂いを嗅ぎ、誰かの肌に触れ、銃の反動が肩を蹴る。

 ゲームチェアの上で伸びをした、肩甲骨がぽきっと鳴る。
「ハルぅ」
 猫がみゃあっと鳴いたような声だ、アキが白いスエット上下で部屋に入って来た。
 俺のデスク横のクイーンサイズのベッド、モヘアの毛布をまくり上げ、するりと潜り込む。
「寝よう、眠いでしょ」
 綺麗な左手でひらひらと誘ってくる。 俺は苦笑して立ち上がり、洗面所、電動の歯ブラシで歯を磨き戻る。 アキの横に滑り込むと俯せに成るように言われた、素直に俯せになると、アキが腰の上に乗って来た。 柔らかな臀が腰骨の上に乗っている、両の掌で肩甲骨を下から押し上げる様にされる、盆の窪から背骨をすぅっと押しながら降りて来る。
「んぅうっ」
「気持ちええの?」
 上方のイントネーションが心地よくて俺は黙って頷いた。 最後に腰骨のちょっと上に膝が当たる、膝立ち、凄いバランス感覚だといつも思う、身体IQも高いだろう。
ばきっと音がした。
「はいっおしまいっ」
 俺は寝返りを打ち、仰向けに。 アキが隣に来て俺の首に腕をかける、右の太ももが俺の太腿を挟み、一部熱さを感じるけれど、そのまま眠りに落ちた。 軽くて暖かいモヘアのなかで二人の香りと温もりが混ざる。 唇が首筋に当たった、髪の香りがする。

 眠りに落ち乍らアキの出自を夢にみた。

 アキは高校時代、友人に父親に対して体を売ってくれ頼んだ事が有ると言った。 東京へ来てから3ヶ月が過ぎ、初めてアキを抱いた時の事だ。

「授業参観でおとんが来たときクラスがざわついた、何しろおとんというよりおじいちゃんじゃない!?という位の年齢やから」
 だけどめちゃくちゃダンディーで髭をたっぷり蓄えてシネマスターみたいな顔だった。 アキのスマホに在ったポートレート、格好も衝撃的だったそうな、犬の彫刻の杖を持ち、大島に雪駄。

「授業が終わると、〇〇様〜!来てくださってありがとうと、おとんに駆け寄って腕を絡めた、それがうちの処世術やった、娘がお父さんに抱きつくというよりは男女の様に見えたとおもうねん」

「〇〇様、こちらが私の友達のA子ちゃん、Bちゃん、Cちゃん、Dちゃんです
と可愛い友達を紹介した」

 すると、おとんは「ふうん」と見まわして、「お前の母親は?」友達全員に質問した。お父さんが来ている子もいれば、お母さんは働いてて来れなかったという子もいた。

聞いた後
「おい、そこのお前、来い」と一番可愛いA子に10万を握らせた。
「あの、こんな大金は」とおろおろするA子に口パクで(受け取って)(早く)(お願い)と必死に訴えた。

「ありがとうございます」
A子は空気を読んで受け取ってくれた。

「お前はそこそこ見た目と愛想は良いから、まずお前にやろう。好きな事に使え。他の娘達も、金が欲しくなればそこの娘(私)に言え」
とうちを指して言った。

 アキは愛人の子、同じような立場の子が他にも男女10人くらい居るらしいと聞いた、その中で唯一認知されたのがアキ。アキの母が本家に乗り込み、正妻に殴りかかってようやく認知された。

「実の父にホステスを務めて機嫌を伺い、可愛がってもらっていた、おかんが今も住んでいるマンションも、うちを気に入ったから、おとんが買ってくれた」

 男に媚びる事で金になる、生活が安定する、それが普通になっていたと、アキの父がアキの友人の高校生に愛人関係を持ちかけ、紛糾した。
「それが当たり前だと思っていた、感覚がおかしかった、うちは友達を売って、自分の安穏を得ようとした」

 俺と初めての睦事の後、アキは俺に抱き着いて泣いた。

「ある日、本家に呼ばれた、本妻さんは居なくて、おとんに絵画が何点か飾ってある寝室へ呼ばれ、新しく買ったという名画を観た、ベッドに押し倒されて、YouTubeで観ていた護心術の掌底を霞に決めて逃げた」
 実の娘に欲情する父、世間的にはあるあるだが、おぞましい。

「気づいたの、友達を売るくらいなら自分を売った方がましだって、身体に群がる男を笑ってやるって」

風俗のアルバイトをしながら、関西の国大を出た。 就活がうまく行き、決まった商社でセクハラに遭った、ほとほと嫌気がさし、また風俗へ、客あしらいをしながら女と男はおぞましいと思ったけれど、諦めきれずにSNSをしていた。

「ハルって変な奴だと思った、おとんと同じくらい助平だけど、あさましくないの、話していて楽しかった」
 アキと16ヶ月SNSでやりとりをしていた、ネットラバーになったのは2ヶ月目、写真も本名も東京へ迎えるまで知らなかった。

「ハルぅ」
 きゅっと握られて、うとうとから覚めた。
「出会ったころの事、夢見てた」
「俺もさ」
 アキがトランクスの上から揉みたてる

「可愛い、大きくなってきた」
「そりゃな、好きな女にされたら大きくもなるさ」
「うちの事好き?」
上方のイントネーションで好きが上がる

「男のこれなんて大きくなれ、吐き出せ、金払えって思ってた」
「そか」
「初めて、おちんちんを可愛い、愛しいって思った」
「光栄だな」
 頬に唇が当たる。

「ちくちくする」
「剃ってなかった、すまん」
「ええよ、あとでお風呂で剃ってあげる」

「ハルぅ」
「ん?」
「どうしてガツガツしてない?」
「歳だからじゃね?」
「お風呂には、ハルより年上でガツガツしてるだけじゃなくて偉そうなオジン、ぎょうさん来たよ」
「そか」
「ねぇ、ハルぅ」
「猫みたいだなって思った、野良、生きるのに必死、飼い主に見捨てられて途方に暮れてるんだろうって」
「うちは猫?」
「そう見えた、でさ」
「うん」
「臍天できるようにしてやりたいと思った、顔も知る前から慈しもうと決めてた」
「なんで?顔も知らない相手に、そう思うん? とびっきりの不細工かもしれんやん」
「ブサかわいいかも知れないじゃん」
「ひどーい、うちぶさかわ?」
「世界一可愛い、俺にとってで良ければ」
「それで良し!」
「縁なんだよ」
「縁」

そう、縁は異なもの
縁は互いの魂の匂いに釣られて結ぶんだ

生命同士、もともと一つだったものが
神様と言う気まぐれ者が適当にこさえた、いろいろな造形に
唯一無二で有り全てな自分をガスみたいに封入して
身体が生きている間は別のものなふりをしている。

でも元が一つだから一つになりたくて寄り添っていく

空気が台所と玄関でも同じように、身体の中に入っている魂と言うガスも同じなんだけど場所によって空気の匂いが違うように魂の匂いも違うのさ

それが猫と人 犬と人 女と男、一見違うようで、違っていても惹かれ合う匂いが在る、それが縁って奴なんだ。

どんなに距離が離れていても、顔を知らなくても惹かれ合うのが縁、俺はアキに顔も知らないのに一目惚れしたんだ。

「縁は異なものやね」
「乙なもんだぜ」

俺の股間の触覚はアキの手でMaxに育っていた。

「初めてここに来た時、オムライスを創ってくれた」
「おまぃさまの顔を見たとき、オムライスを慶ぶかと思った」
「猫にちゅーるみたいに?」
「美味かったべさ」
「ハルのちゅーるはオムライス、ハンバーグ、餃子、シュウマイ、本家ちゅーると同じくらいバラエティあるね」
「文を書くのと料理は似てるのさ」
「デザート、どう?」
アキは毛布に潜り込んだ、トランクスを引っ張られるので腰を浮かした。

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