私にとっての本。

 昔から本が好きだった。お正月にお年玉と図書カードをくれる親せきがいて、新年から本屋に行って好きな本を選べるのが楽しかった。夏休みに課題図書を選んで、読書感想文を書くのも好きだった。始業式でそれを読む人に抜擢されたこともある。町立の図書館にもよく連れて行ってもらえた。これを書いていて、その図書館の匂いまで思い出した。古い紙の匂い。タイミングがいいと、受付には誰かが善意で作った裏が白いチラシを束ねて作ったお絵描き帳が「ご自由にお持ちください」と置かれていて、妹と一冊ずつ持って帰った。既製品のおえかき帳とは違う味わいがあって、ひそかな楽しみにしていた。借りる本は、まじめなのと歴史マンガ、それから動物もの(犬とかオオカミの本が多かった。)など、バランスを考えて選んでいたのも覚えている。

 ずっと今まで、本を読んできている。

 大学生の頃は、小説を読んでいた。今もそうだけれど、好きな書き手に出会うと、その人の著作を端から端まで読みたくなる。当時読んでいたのは、辻仁成や村上春樹、重松清など。大学の陽気な雰囲気(今考えると思い込みの部分が多い)に押されて即帰りたかった私は、地元の友人とよく主要駅で待ち合わせをした。その待ち合わせの時によく本を読んだ。
 社会人になってからも、本屋に行く習慣は続いていた。心の中でモヤモヤしていることがあると、誰かに相談をすることはなく、本屋に足を運んだ。活字の中に何かモヤモヤを解消する糸口があると、ずっと思っている。

 5年前、環境問題を学ぶようになってから本をどんどん買い込むようになった。何度か書いている気がするけど、環境問題からはじまり社会学、フェミニズム、政治学、独立系書店にしか置いていないようなZINEなどを今に至るまで買い込んでいる。欲しい本は芋づる式に出てくるので、いつも欲しい本が数冊ある状態だ。何から買うか、いつ買うかなど、欲しい本に優先順位をつけるのも好きだ。

 今の家に引っ越したのも、前の家で本が置けなくなってきたからだ。本が理由の引っ越し。それまでは、一人暮らしを始めた時に買った本棚一つに収まる本しか持たないと決めていて、あふれそうになると売ったりあげたりして手放していた。けどこの5年で買った本は、手放すことができないものばかりで、2年前に引越しをするまでの3年間で本はあふれて机の上にどんどん平積みされていく状態だった。

 他の理由も重なって、引っ越してからもうすぐ2年、相変わらず本は増えるばかりだ。何となくのジャンル分けをして並べてある本を見るだけでニヤニヤしてしまう。次引っ越す時が大変だろうなとは思うけど、まだまだ本は増えるだろうな。
 今日も、スズキナオさんの新刊、「家から5分の旅館に泊まる」を買った。ナオさんの本は必ず買う。初めて読んだナオさんの本は『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』。これを読んだ時、暮らし方を変えたいとうっすら思っていた大きなことをしなくても、幸せにくらしていけるかもしれないという仮説が合っているような気がしてここまで来た感もある。

 こうして本を読んでばかりいると、「おすすめの本ありますか?」と聞かれることがあるけれど、これには注意が必要だと、何回か繰り返し教えたり貸したりしてみて気づいた。   
 人に本を貸して、返ってこなかったことが何回かある。おすすめの本を聞かれて貸した顛末だ。
 それから貸した本が返ってきたとしても、それが本棚にない間は心もとない気分になる。淋しいというのにも近い。ふとあの本のあのページのあの部分が読みたい…となることがよくある。その時に手元にないとそわそわしてしまう。そわそわすることには最近気づいた。安易に貸した本たちに申し訳なく思う。ちなみに相手を責めるつもりはなく、貸した自分の判断を悔いている。
 返ってこなかった本は買いなおした。お金のことだけで言えば損しているけれど、私からするとその本がないことの方が損。あと、さらに一冊買うことで出版業界にも還元できているので、長い目でみれば自分のためにもなっている。(という理由をつけて自分を納得させている。) 
 
 日常的に顔を合わせる相手や、お互いに読書家と認め合っているような相手とは、本の貸し借りをすることもある。マレーシアに住む友人とは、次いつ会えるかもよくわからない状態でも、本を貸す。それは日常での貸し借りと違った意味合いを持っていて、”次も会える”という約束のようなものに近い。
 
 こういう感じなので、読みたいと思った本は借りることはせず、買うようにしている。お金もかかるけど、本と、それから得られるものはそれ以上の価値があると思っているので、買う。著者への敬意がある。たまに、ラジオなどで心が掬われたと思うことがある。そういう時はその人の著作を調べてすぐに買いに行く。感謝の気持ちを込めての課金だ。

 では本の扱い方はどうかというと、結構雑。わざわざ汚すような扱いはしないけれど、どこにでも持ち歩いてしまうからそこそこ汚れたり擦れたり破れたりするし、風呂場にも持ち込むから水没した本も何冊かある。読めればいいのだ。

 本との付き合い方は人それぞれだと思うけれど、私は本のことを財産だと思っている。自分がどんな事を考えているしのかを本棚で確認できるし、心が落ちた時に本が助けてくれた経験は少なくない。日々、本棚を見てエンパワメントされている。

 これだけの本に守られていれば、何かあっても大丈夫と思える。しかもこれからも本は確実に増える。なんと頼もしいことだろう。

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