アフターデジタル時代の教育×UX(後編)~「両立するUX」への探究と挑戦~
2023年11月28日に事業のDXを強力に推進中のベネッセと、 UX起点のビジネス成果創出を支援するビービット社協業のキャリアイベントを開催しました。
書籍『アフターデジタル』シリーズ(日経BP)の著者であり、長らく日本のUXデザインをリードしてきた藤井保文氏(ビービット執行役員CCO(Chief Communication Officer))をモデレーターに迎え、ベネッセで活躍するUXデザイナーたちが本音を語り、大きな反響をいただいたセッション。
前半は、どんなことに教育×UXならではの「やりがい」や「難しさ」を感じているか、を率直な言葉で交換しあいました。
後半は、「保護者と子ども」といった複数の立場に立って、どの立場からでも意味のあるUX設計とは?を追いかけるUI/UXデザイナーたちの想いを追いかけます。
【3】保護者が払い、子どもが使う。
「両立させるUX」とは?
-どんなステークホルダーにも真摯に向かい、探求する姿勢で
藤井氏「契約するのは親、取り組むのは子どもという話がありましたが、教育だからこそ制約があって難しいということはありますか?」
田中「やはり、契約者(保護者・教育委員会・学校など)、と使っていただく方(子ども、担任の先生など)の、両方にとって良い体験を作っていくところです。
保護者の方が期待するのは、成績。だからこそ、成績があがらないと、使えないという気持ちになります。ただ、実際は成績が伸びる手前には壁があって、壁を乗り越えるために、一人ひとりにあった勉強法を提供する必要があります。
さらに継続サービスなので、初回と、半年後に活用するのではモチベーションが違いますし、モチベーションは当然成績と相関する。ここまで考慮する必要があります。 」
藤井氏「複数のステークホルダーがいながら解決策を作るのってかなり高度ですよね。」
田中「UXに携わって12年目なのですが、全員のペインを解消できるのか?長期的にデータを使えるためには?など、考えることが多く改めて難易度高いな 、と(笑)。
だからこそ、機能やUI上での優先順位をどうつけるかを目線合わせします。」
藤井氏「でも、ある意味、これを超えると…」
田中「売れるサービスがなんでも作れるようになる、と(笑)。
こういう解がないものを探すのは好きなんです。」
川上「勉強をやらされているのか、自ら楽しんでやっているのか、ログだけだとわからない。気持ちが乗らないまま継続しているかもという可能性もあるわけです。
できるだけ、想像力を働かせながら、そうならないようにするには?をUX観点で解きたいですね」。
-点数が取れて、ゲームのように楽しければいい、ではない解を
藤井氏「今は、ナッジのような行動経済学的なアプローチも選択肢としてある中で、ゲーム的に楽しければいいのか、というとそれは違う。成長した時に、ゲームの方が楽しいから勉強しない、とは言わせたくないですよね。こんな設計をしたら進んで勉強してくれる、というアイディアはあるんでしょうか?」
川上「まだまだそこまでの実感には至っていないです。
ベネッセのサービスに限らず、小学生の息子を見ていても、どんな気持ちで宿題に取り組んでいるの?と思いますし。これが解けたらノーベル賞ですね(笑)。」
福谷「やりたくない子どもにも勉強をやらないといけない時があります。かといって、手段選ばず点数をとろう、とはやはり教えたくない。
進研ゼミだけではなく、どんな手段であっても、自分で学ぶ力がつけばこの先どんなことだって学んでいくことができると思うのです。だから、そのモチベーション、学ぶ力、両方をつけてほしい。
それを、結果として点数がつくという設計の中で、どういう形で実現できるんだろう?このことに解を出したいです。」
-最後は「ユーザーは?」。立ち戻る場所を作るのが、UXデザイナー
藤井氏「それはUXデザイナー単独の判断では決めづらいですよね。特に横断的な立場だと、関わる皆さんもスタンスも様々でしょうし、大変じゃないですか。チームで議論して決めるのですか?」
田中「ある方向で行きたいけどそれが確からしいのか。これは誰でも迷います。だからこそ、横断組織として、エビデンスをとるために環境整備してから議論しましょう、と働きかけていますね。ここの側面では定量・定性データどちらもとても大切です。」
藤井氏「UXという概念自体はここ数年大きくフォーカスされてますが、UXってバズワードだよね、と言われたことがあります。実際には、30年近くの歴史があるのですが(笑)。
ただ、ユーザーを知るための場は設定されているのに、そこで得られたことが意思決定には使われないことがよくあるのは確かです。
お話を聞くと、ベネッセでは上位からの意思決定でUXを尊重しているように思えるのですがいかがですか?」
水上「私たちも半世紀以上教育に携わってきましたが、その大半は紙でのサービス提供でした。
2014年から小学生向けにタブレットでのサービス提供が始まり、デジタル(タブレット)と、紙教材のどちらかを選べるようにしました。当初は8割が紙教材でしたが、今は逆転してデジタルが8割になりました。
この10年で、教育はもちろん介護など様々な領域で、オフラインからデジタルに急激に置き換わってきていますよね。
現在は、活用度、継続率を高めるためにはUXの視点が不可欠であることに、事業現場も、経営も理解しています。
去年、ビービットさんにご協力いただき経営会議でUXを学ぶ機会がありましたが、UX領域への投資に流れが作れてきている気がします。」
藤井氏「先日ベネッセのトップの方に、どんなことに着眼しているのかと尋ねたら、”最終的にはビジネスとしての成果だが、例えば、ユーザー満足度の数値についても、実際に自分でアプリを触ってみて『こんなに使いづらいのに、こんなに高い結果が出るはずがない』と指摘する”、と。これには驚きました。
UXの考え方が浸透していると感じましたし、人をコントロールすることもできなくはないネガティブな側面がある中で、人々の何かに影響することの重みに真正面と向き合う印象がありました。」
水上「UXという概念が浸透する前から、社内では『自分や家族にしてほしいサービスを』、という言葉が長らく大切にされてきました。つい昨日経営会議でも、サービスリリースの報告の時に、社長が実際触ってみて、具体物を確認していました。
会社のDNAとしても、ユーザーがどんな反応をしたの?ということを常に重視していますね。」
【4】あらゆる領域の「よく生きる」支援
のための、組織力強化へ
水上「ベネッセは、『よく生きる』ことを実現する支援として、幅広いサービス領域で事業を展開しています。
メディア業(たまひよ)、サブスク(進研ゼミ)、単品販売(進研模試)、不動産に近い業態(介護)など、その集合体がベネッセとも言えます。
DXを推進する際には、ビジネスモデルが異なり課題もそれぞれなので、全社統一ではなく、事業部門の課題に寄り添いながら解決しないと進みません。
下図のように3つのフェイズに区切って、DIPに専門人財が集結し、UI/UX、データ利活用、ビジネスモデル転換(DX)を売上などにもコミットしながら、一緒に推進していく活動をしています。最近は特にUI/UXやPdMスキルへのニーズが高いフェイズにあります。何をするにもUI/UXは非常に重要で、田中や川上のような専門人財にさらに参画していただき、組織を来年にむけて強化したいと思っています。」
【5】ご参加者からの質問
Q:活躍している社員の特徴は?
水上「UXデザイナーとしてのスキルは大切だが、ユーザーと会う機会が多いので、その中で課題化し、サービス改善につなげていける力は重要です。
また、定量も定性もバランスをみながら、優先順位をつけて、自走していける方は活躍してくれていると感じます」。
Q:同じくクライアントとユーザーのニーズの違いに悩む。何かよいヒントは?
田中「難しいですよね…。やはり、ユーザー(利用者)のUXにフォーカスしがちですが、クライアント(契約者)がどうつながるのか?というカスタマージャーニーを丁寧に可視化し、実際クライアントさんとお話しプロセスを踏むということでしょうか。」
福谷「保護者は勉強してほしい、とおっしゃいます。では、それはなぜか?というと、成績を上げてほしいから。つまり、猛烈に勉強させる、ということでなくてもいいのです。その点は子どもも一緒。真因を深ぼると、しんどいことはしたくないが、効率よく点数はあげたいという両者の願いが重なる。ニーズが一致しているところを見つけていきたいですよね。」
Q:他の担当者とは、どんな役割分担で進めているか?
福谷「こういう体験を届けたいということを起点にして、その手段は各エキスパートたちに力を借ります。皆で協力することで形ができる。そのためにチームづくりはとても大切にしています。」
水上「UXデザイナー側と、教科側が両方リスキリングして、組織として力を身に着けることも1つです。
教科の責任者は、教科の専門家であると同時に、デジタルプロダクトを深く理解する必要があります。UXデザイナーもまた、教科についての知見を持つ必要がありますね。一人ひとりが複数の側面から推進できる力を身につけていけるようになりたいですね。」
藤井「今日はいろいろなお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました!」
全員「ありがとうございました!」
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