宇宙人の姉と地球人の妹
こんばんは。id_butterです。
我が家には、宇宙人の長女がいると何度か書いた。
姉を宇宙人とするならば、妹は地球人だ。
地に足がついた保育園児、それが彼女だ。
いつも彼女たちは対極にある、ように母には見える。
姉は妹を操縦し、ときに家来のように扱う。妹は薄々その事実に気づいているものの、普段はそれに従うことで、ここぞというときに妹の特権を発動する。
そして、彼女たちはふたりで凸凹を補い合いながら上手くやっている。
●公園にて
長女は行くたびに必ず女の子をナンパし「ともだち」といってわたしの元に連れてくる。(連れてきて、なぜかその子を母に紹介したままどこかに遊びに行ってしまうのはやめてほしい。)
最近は、美人ママ付き男の子をセットでナンパするパターンも多い。
チャラ男(この表現は令和でも通じるのだろうか)のような女なのだ。
まず、鼻がきく。そして人との距離を詰めるのが天才的にうまい。
ペットをダシにナンパしている男性のようで、勝手に気まずい気持ちになるわたしではあるが、若くて美人のお母さんとお話しするのは楽しいので、ご相伴に預かっている。(この表現もどうなのかとは思うがしっくりくる。)
宇宙人とわたしの女性の好みは合うのだった。
次女はというと、モジモジしている。
恥ずかしがり屋なのだ。
公園に行きはじめた当初は、手当たり次第にナンパしまくる姉を「このひとなんなんだ?理解できない。」という顔で眉をひそめていた。
それでも最近は姉の宇宙流処世術を身につけ、公園でおともだちを作ることもできるようになり、なんだか誇らしげに母に報告してくる。
よかったね。
●所作
長女は生活は雑なのだが、几帳面なところがある。
折り紙は折り始めた当初からぴったりと角が合わさっており、保育園の先生を驚かせた。
1歳くらいだっただろうか、段差で転ぶのが怖くてわずか3mmの段差を越えるために一度座りこんでから慎重に片足ずつ段差を越え、再度立ち上がり歩き出すという謎の行動に笑わせていただいた。
小学生までブランコに乗れなかったほど怖がりで、痛みに弱いヘタレ。
怪我が嫌すぎて、小学生までずっとひざ下までのズボンを履いていたため、足に傷跡が全くない。
次女は逆に、とんでもなく雑な行動をとる。
折り紙の角は、5歳の今でも合わないし、彼女がたたんだ洗濯物は丸めてあるようにしか見えない。
歩いているときは、足元にあるすべてのものをなぎ倒して通る、さながらゴジラのようである。
なにも気にしないで歩くので、畳んだ洗濯物を放置するのは自殺行為。
毎日転んでいるので、膝には絆創膏が貼ってあるのがデフォルトである。
自転車もなぜか蛇行しながら飛ばすので、派手に転ぶしいつもぶつかる。
顔から転び、前歯が3回欠けた。恐ろしい。
当然?痛みに強い、というか鈍い。
生まれて数ヶ月に、高熱で点滴をしたことがある。
点滴の針を刺すときに、まったく泣かないどころか、反応すらない。
少し怖くなり、無痛症を疑った。それまでも注射で同じ反応だったからだ。
先生も怪訝な顔をされていた。
けれど点滴が終わり、針を固定したテープをビリビリと剥がすときに、「えーん」泣き出した。安心して先生と顔を見合わせて笑ったことは忘れない。
●責任感
彼女たちを見ていると、責任感とプレッシャーはセットだと実感する。
長女には、責任とか約束とかそういう概念があまりない。
宇宙人である彼女には常に「今」しかないのだ。
だから、明日のために準備することやさっき食べ終わったお菓子のゴミを捨てる、楽しいことのためにこれだけちょっと我慢とかがとても苦手である。
「あとで」といつも言うけれど、彼女には「あとで」という概念がない。
習いごとも「やる!」とはりきって楽しく毎週通っているが、練習中に話を聞いていなくて先生を困らせ、全然上手くならない。
たのしくないと、すぐに心がどこかにいってしまう。
けれど、学校も習いごともほとんど休まず、機嫌よく通ってくれるのは助かる。たのしいらしい、本当だろうか。
損得という概念も薄い。
だからどこまでも優しかったりして、時々切なくなる。
友達にしっかり者で厳しめの優等生が多いのは、だからかなと思う。
きっと純粋でばかみたいなやさしさに癒されるんだろう。
あんなにいいかげんなのに最終的になんとかなるのが彼女だ。
次女はというと、決めたことをきっちりと終わらせる。
最初は嫌がっている塾の宿題は、毎回きっちり10枚、時間通り仕上がる。(宇宙人は倍の時間で半分強しか仕上がらない)
明日までに持ってはいけないものを母に指示を出した上、当日もカバンの中のチェックを怠らない。怠ろうものであれば、「あーん」と途端に反省してべそをかき始める。
自分にも他人にも厳しく、もちろん母にも姉にも厳しい。
毎日姉が怒られるたびに、学んでいるのは妹の方なのだ。母は胸が痛い。
先生方の信頼も厚く、お稽古事をやめようとすれば「もったいないですね」とコメントをいただくほどで驚く。話を聞き、理解し、次は修正するというサイクルがきちんとできているのだそうだ。
けれど、練習に行くのを渋る妹を「行ったら楽しいから」と元気づけ、機嫌よく毎週通わせているのは、姉である。
妹はきっちりするからこそ、プレッシャーで腰が重くなる。
そして、堅実に練習を重ねるものの本番に弱い妹と、全然練習しないが本番前だけやる気を出し本番だけは仕上げてくる姉、という構図。
引きで見ていると、神様の仕事ぶりに惚れ惚れしてしまう。
いいバランス。よくできている。
●性格・その他
性格というと、長女は男の子のようだ。ノリで生きている。
頭が悪いわけではないのだが、ちょっとおばかでかわいい。憎めない。
大らかで軽くていいかげんで、よくわからないがいつもたのしそう。
顔は美人なのだが、中身のロールモデルはおそらく「クレヨンしんちゃん」なのだから、まぁそういうことだ。
あまりこだわりがなく、まぁいっかといつも言っている。
わりとシンプルなものが好きで、いつもモノトーンの服を着て、髪をひとつに結んでいる。
感性は鋭い、かもしれない。
ブルーハーツが好きで理由を聞いたら、「言葉は乱暴だけれど本当はものすごく優しいところ」と言っていた。
なぜか「18歳までは男女交際をしない」と固く心に決めているけれど、恋愛マンガが大好きでいつも読んでいる。
そういう謎のマイルールがいくつかある。
次女は「THE 女の子」だ。生真面目で責任感が強い。
ぬいぐるみが大好きで、お気に入りのクマを毎日抱いて寝ている。
将来の夢は「お姫様」だったのだけれど、最近「アイドル」に変わった。
フリフリレースのワンピースが大好きで、好きな色はピンクと水色だ。
堅実でわたしよりしっかりしているくらいだが、繊細で打たれ弱い。
自分のランドセル選びにかかった時間と手間が姉より短かったことが不満だったらしく、こっそり父親に愚痴るものの、それを母には言わない。
保育園ではしっかりして穏やかな女の子で通っているが、家ではジャイアンでしかなく、宇宙人に怖がられている。
どしっとしているというか肝が座っているようなところがあるのだ。
頑固でひかないときがあり、宇宙人は「絶対に敵わない」と思うらしい。
けれど、大きな欠陥を抱えている。
(親から見るとチャームポイントだが、本人は明らかに損をしている。)
彼女は感情が表情に出ない。
だから、いつも仏頂面で遊んでいる。
楽しければ楽しいほど、真剣になり怖い顔になっていく。
親にはわかる。
今ものすごく怖い顔をしているけれど、全身全霊で彼女がダンスを楽しんでいて、最高にしあわせな気分であることがわかる。
けれど、先生たちには全然伝わっていない。
個人的にはそれを引きで見ているのが、おもしろいと思っていた。
けれど、前の保育園の先生方はかわいらしい子どもが好きだったので、受けがよくなかった。手がかからない子なので、あまりかまってもらえない。
それは保育園児としては、マイナスかもしれないと思ったのだ。
だから、転園を機に、彼女のイメージチェンジを図りたいと思った。
本当は味のあるオンナなのである。
上手くいけば、じわじわくる。ハマるはずだ。
だから、先生たちに、彼女の特性を伝えてみることにした。
幸いにも新しい保育園はとてもよい先生が溢れており、イケると思った。
お迎えに行った際、仏頂面でわたしのもとにスキップしてくる次女。
先生が今日のイベントの時の様子を伝えてくれる。
「とても楽しかったみたいですね。」と返す。
怪訝そうに「なんでですか?」と聞かれたので、「さっきわたしのもとに来るときにスキップしていたから。」と答える。
機嫌がよいときの次女のサインであることを伝えると、先生は「さすがお母さんですね〜」とわらっていた。
やはり、彼女はわかりにくいらしいのだ。
「今日はみんなでダンスをしたんですよ。」と先生が言うので、「このひと仏頂面でたのしくなさそうに見えますよね?」と聞いてみた。
あいまいに頷く先生に「仏頂面のときはすごく楽しいんですよ、真剣に遊んでたり楽しいときほど怖い顔なんです。」と説明する。
支度を終えて走ってきた次女にその場で確認する。
「今日ダンスしたんでしょ?楽しかった?」
すると、彼女は恥ずかしそうに小さな声で答える。
「…楽しかった。」
こういうときも真顔なのだけれど、よーくみると口の端が少しだけ上がっている。その時は、先生も気づいて、わらっていた。
こういうことを何人かの先生にやってみた。
母親にも政治力?営業力?が必要なのである。
PR活動は功を奏して、先生たちもけっこうハマってくれたように思う。
先生が本人に「たのしかった?」と聞いてくれるようになった。
そこまでいけば、彼女のおもしろさが伝わるはずだというのは思った通りで、お迎えのときに先生と彼女との会話を教えてもらえるようになった。
母は一安心だ。
保育園では、朝教室に入るときは先生に体温計を見せながら体温を伝えるというルーチンがある。
普段は大人しく穏やかと評される彼女が、その瞬間だけ教室中に響き渡るくらいの大声になる。
「おはようございます。36.7℃です。」
先生は、笑いながらやってくる。
その先生はもう知っている。
彼女が大声をあげる理由が先生への気遣いであること。
「先生に体温を伝えなくてはいけない」という責任感が彼女の大声の理由であり、生真面目さゆえにそういうときだけ恥ずかしい気持ちが消える。
彼女はいつも一生懸命で、真剣に物事に取り組んでおり、だから顔が怖く、それがとてもおかしくてかわいい。
そのかわいさを何人かの先生がわかってくれる。
母は嬉しい。
今夜も地球人はクマのぬいぐるみを胸にだき、眠る。
宇宙人は大の字で、地球人のお腹の上に足をのせて寝ている。
我が家の宇宙は今日も平和である。
地球人が生まれる前とは信じられない。時間が経つのが早すぎる。