宇宙人のスランプ
こんばんは。id_butterです。
ほんの1ヶ月前、宇宙人は不調だった。
小学校に入って二年間ほぼ欠席しなかった彼女が、週に二回腹痛を訴え保健室に行っていた。朝から腹痛でお休みした日もあった。
宇宙人は学校が好きだった。
けれど、最近どうも雲行きがあやしい。
保健室の先生から電話がかかってきて、お迎えに向かう。
ちょうどそのころ、学校公開があった。
三日間くらい公開期間があり、その間保護者は好きな時間帯に授業を観られる。
本人からの話と学校での様子を見て、事情がだいたいわかった。
おそらく理由はみっつあった。
ひとつめ。
二年生で仲のよかった子ほぼ全員と別のクラスになってしまったこと。
今のクラスにも仲のよい子はいないわけではない。
けれど、二人一組になっていて、入れてと言いづらいらしい。
候補のひとりの子は休み時間ずっと本を読んでいる。けれどなんとなく、いつもの調子でいけないみたいだった。
単にスランプだから、かもしれない。
ふたつめ。
珍しく、宇宙人にきらいな子がいて、同じクラスになってしまったこと。
教室の移動中に、「これもってって」と命令された。そして断ったら廊下で「死ね!」と叫ばれたらしい。
基本、宇宙人のメンタルは強い。
けれど、こういうのは一番彼女の苦手とするところだった。
いつも機嫌のよい宇宙人は基本的に人に好かれるのだけれど、このように常に機嫌の悪いひと、だけが唯一の鬼門だった。理由がよくわからないまま、一方的にあたられる。
そして、宇宙人は攻撃されると途端に弱る。
みっつめ。
休み時間のながなわタイムである。
ナントカ月間らしい。
休み時間が始まるとほぼ全員が校庭に出て、クラスごとにながなわが始まる。
「全然、休み時間じゃない。」
わたしは、そう思った。
社畜ならぬ学畜、じゃん。
これがわたしの率直な感想で、わたしだけかと思ったけど違った。
宇宙人は苦手なので、自分がつっかえるとクラスの記録更新が止まってしまうことが気になるらしい。
大変だなぁ、小学生も。同情した。
三回目の保健室の先生からの呼び出しで、さすがに担任の先生に相談することにした。
成績も急に下がってきていて、基礎部分が揺らいでいた。
ふたつめについては、先生もすでにご存知だった。
宇宙人だけじゃなく、ほぼ全員から嫌われていて、問題児なのだ。
授業中、歩き回り、急に怒り出す。
学校公開中、他のお母さんも気にしているのは見てとれた。
先生はどのような指導をしているのか、わたしに説明しようとした。
ので、わたしは遮った。
彼女の問題は、彼女のご家族と先生の間で解決してほしい。
それについて、わたしは何も介入する気がない。
彼女のプライベートという繊細な情報をそんなに簡単に漏らさないで欲しかった。
ただ、宇宙人の平和な学校生活にご協力をいただきたい。
方法は問わない、そう先生に述べた。
みっつめについては、簡単にお願いした。
ながなわを任意参加にしてほしい、それを先生から彼女にも説明してあげてほしい、ということ。
これについては、先生のOKをもらえた。
よっつめが、あった。
先生である。
二年生の担任の先生は、彼女の特性を尊重してくれた。
彼女のよいところを認め、悪いところに寄り添い、話を聞いてくれていた。わたしたちはその居心地のよい空間に慣れてしまっていた。
あたりまえでなかったことは知っていたけど、あらためて実感したのはこの時だった。
先生に、彼女の取扱説明書を口頭にて説明させていただくことにする。
やはり母親には、営業力もしくは政治力が必要だと再認識する。
二年生まではほぼ無欠席で、学校が好きな子であること。
保健室に行くのも、今回が初めてであること。
成績が二年生より急に落ちていること。
おおらかで、ほぼ嫌いな子というのが存在せず、「苦手」と漏らすときは限界であること。
ながなわでお友達の足を引っ張っていることについて、見た目明るいのであまり気にしていないように見えるが、今回は気にしているようであること。
全然何も知らなかった、と担任の先生は言う。
この瞬間、わたしはこのひとを諦めた。
二年間無欠席であることくらい、引き継ぎなりデータなりで確認できることだ。週に2回保健室に行った生徒について、気にしなさすぎる。
成績もだ。二年生までほぼ満点をとってきた生徒が、急に点数を落として毎日のように居残りになっていること、把握すらしていないのは無責任すぎる。
その子が、もし問題児であったとしても、未来ある子どもなのだ、ちゃんとプライベートを守ってあげてほしい。彼女はこの狭い人間関係の中で、これからも生きていく。勝手に評判を落としていいわけがない。その厄介さを初めてあった別の子どもの保護者にペラペラ喋るのはやめてほしい。
それは、立場が変われば自分たちにもかかってくる。人ごとじゃない。
手のかかる子ほど手をかけてもらえる、のはなんか不公平な気がする。
そう思ってきた。
けれど、厄介な保護者かもしれないわたしは、この先生に納得ができなかった。
求めすぎているのだろうか。
宇宙人の憂鬱は、母にも伝染した。
まだ子どもだからのんびりさせてあげたい、そう思ってきた。
でも学校という場所ではそれが叶わない。
幸福にうつつを抜かして忘れていた悩みが、再浮上した。
結局のところ、対症療法はもう限界なんじゃない。
トラブルはその後も絶えなかった。
宇宙人の嫌いな子は3人に増え、なくし物が続き、いつにも増してぼーっとしている。いつもできないことがさらにできない。
直接宇宙人にアプローチすることにした。
苦手なことも、ひとつひとつ丁寧にやってみてほしいこと。
学校で誰に何を言われようと、母も妹も宇宙人の味方であること。だからいやなことはいやだと言ってみて。
嫌いな子のことを「いじめ」ないように気をつけてほしいこと。そういうことをしないと信じてるけれど、そんな状況にいつの間にかなってしまったり誤解されたりすることはあるから、と説明する。
あなたはひとを幸せにする力があり価値があるということ。だから、嫌いな子のことを考えるよりそっちを大事にしたほうがいい。
二年生は楽しかった、でも三年生も絶対に楽しくなる。必ずそうなるということ。これからも同じように変わっていくけど、それでもちゃんと楽しくできる力をあなたは持っている。
宇宙人は、わたしより素直で筋がよかった。
最近は、ほぼトラブルはなくなった。
嫌いな子は変わらないけれど、そんなに気にならなくなったようだ。
一緒に行動するお友達もいつの間にかちゃんとGETしていた。
宇宙人に平穏な日常が帰ってきた。
それでも、嫌いな子の愚痴をたまに聞く。
だからこう話した。
神様は前半しか話を聞いていないらしいよ。
だから「〇〇ちゃんが嫌い」と言っても「〇〇ちゃんが」までしか神様には聞こえない。
そうするとね、「〇〇ちゃんが好き」なんだと神様は誤解して、あなたの前に〇〇ちゃんばかり出てくるらしいよ。
珍しく、宇宙人はこの話を最後まで聞けていた。
その一週間後くらいだったと思う。
「〇〇ちゃんがさ、もうすぐ誕生日なんだよね。今でも嫌いなんだよ、嫌いなんだけどお誕生日は祝ってあげたい気がしてきた。」
宇宙人の宇宙人らしさに絶句するわたし。
いや、いいところなんだよ。
でも、そういうところがつけ込まれるところなんだよなぁ。懲りないやつ。
そうは言えないけれど。
結論、宇宙人はいつもわたしを悩ませる。
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