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2016年9月の記事一覧

オニキス

オニキス

白いマグカップに淹れたコーヒーに口をつけて、彼女はうん、と頷く。この前より美味しい。私はほっとして、よかった、と微笑む。仕事明けの彼女は少し疲れた顔をしている。肩まで下ろした髪の隙間から見える真っ白な耳たぶには、華奢なオニキスのピアスが揺れている。忙しかった?私が聞くと、閉店間際にちょっとね、でもケーキは全部はけた。彼女はそう答えながら、マグカップを両手で包むようにする。試食会に来た友人たちが賑や

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涙骨

涙骨

ビアサーバーの洗浄の練習を終えて、余ったビールをグラスに注ぎ、一口飲む。まろやかな味わいだ。きりっと辛いビールは苦手で、自分の好きな銘柄を選んだ。冷やしたトマトに乾燥バジルを振って、バルサミコ酢を垂らしたものを口に運ぶ。オリーブオイルのほうがいいだろうか、と思う。ひとによるかもしれない。オーブンからはキッシュの焼ける匂いが漂ってくる。具材はシンプルに、ほうれん草とベーコン、それからエリンギ。冷蔵庫

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石

花を買って、店に行く。扉の前でキーケースを開き、ひとつだけ見慣れない鍵をじっと見下ろす。ぴかぴかと真新しく、まだ見知らぬ顔をしている。鍵を挿し込んでかちゃりと回し、中に入る。塗りたての壁の匂い。荷物をカウンターに置き、窓を大きく開ける。昨日拭いたはずの窓には、かすかに雨粒の跡がついている。確か夜中すぎに、雨が降っていたから。ベレー帽とストールを外してカウンターに置く。キッチンスペースに入り、冷蔵庫

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クラッカー

クラッカー

シンクを磨く手を止めて、いつのまにか出来上がった内装を見回す。できるだけシンプルにしたいんです。デザイナーとの打ち合わせで、私が出した要望はそれだけだった。壁の色はやわらかな白、カウンターと十脚だけの椅子はウォールナットで揃えた。天井から吊るしたいくつかの照明はぼんやりとしたオレンジ色だ。スピーカーからブッゲ・ヴェッセルトフトの前衛的なピアノが流れてくる。静かで、疑問符をかすかに含んだような旋律。

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