
口ずさむ、その歌を続けて。 2024.02.24 湘南ベルマーレvs川崎フロンターレ マッチレビュー
開始時の立ち位置と嚙み合わせはこちら。


■試合の振り返り
まだまだ真冬の寒さが残る平塚でシーズン開幕の笛。アウェイの川崎はすでに今シーズンの公式戦はACL決勝トーナメントの2試合とスーパーカップ1試合の計3試合を戦い、前の試合(ACL第二戦目)から中3日で迎えたゲーム。スターターは丸山から大南への変更のみで、その他10人は連戦となる。
一方の湘南、話題をさらったのは4-4-2へのシステム変更。山口体制のリーグ戦でキックオフから4バックだった試合は記憶になく、長く連れ添った5-3-2システムとは異なった初期位置で試合に臨む。GKはアジアカップの代表活動でキャンプに遅れて参加したソンボムグンではなく富居、右SBには新加入の鈴木雄斗、大橋が抜けたFWは鈴木章斗とルキアンが2トップを組んだ。
先に試合展開について振り返ろう。開始早々の7分、左サイドで得たフリーキックの跳ね返りを、池田がペナルティアーク付近から右足一閃。幸先よく湘南が先制点を挙げる。20分過ぎまで川崎にほとんど自由を与えないまま戦えていたが24分、自陣ゴールキックに競り負けて左サイドのボックス角付近で家長にフリーで持たれると、後ろから走り込んだ脇坂が今節のベストゴールクラスのミドルシュートをゴール左上隅に叩き込んだ。タイスコアに戻った試合はボールを握る川崎と構える湘南という見慣れた構図で時間が進み、前半はそのまま終了。
後半に入ってもその構図は大きく変わらず、湘南はよい形で奪っても決定的なシュートシーンにまでは持ち込めない。川崎もボックス内まで自由に侵入出来ていたかといえばそうでもなく、均衡した試合展開を壊す決定打を互いに探す時間が続くかと思われた56分、川崎のフィードを抑えたキムミンテのバックパスを富居がコントロールミス。闘牛のごとくプレッシャーをかけたエリソンがボールを奪い、無人のゴールへ流し込んで川崎が逆転に成功した。
1点を追いかける湘南は65分に選手交代、茨田に代えて鈴木淳之介、鈴木章斗に代えて阿部を投入。その5分後の70分には淳之介のミドルシュートが阿部に当たってコースが変わりネットを揺らした。願ってもない同点ゴールかに思われたが、VARで阿部のオフサイドによりノーゴールの判定。DAZNに映っていなかっただけかもしれないが、一連のシーンで淳之介が笑顔も落胆も見せずに淡々とプレーに戻っていたのが印象的であった。
その後、鈴木雄斗のハンドによるあわやPKの判定(主審の元判定はノーハンド、その後VARレコメンドによるオンフィールドレビューによりPKなしで確定)を経て、相手陣内へ侵入するがゴールならず。開幕戦は1-2の逆転負け、2024シーズンは黒星スタートとなった。
■どうして4-4-2?
この試合における戦い方のベースは、好調を見せた昨シーズンの後半戦(ただし、最終節のFC東京戦は除く)と同じ。ハイライン&前からガンガン行こうぜプレッシングではなく、ハーフライン〜センターサークルあたりのミドルゾーンを基準にブロックを形成し、じわじわとサイドに追い込みながらボール奪取を画策する。選手間の距離を一定に保ちつつ、網を張る形の守備から入った。
唐突とも取れるシステム変更だが、筆者としては昨シーズンからの文脈とアップデートが見てとれた。強引な解釈と受け取られるかもしれないが、これから5~10試合をかけて検証していくとしてご勘弁願いたい。
まずはこの試合におけるプレス方法を見てみよう。4-4-2になっても2トップの役割は変わらず、一人は必ずアンカー番としてマークを担い、もう一方がボールが進む方向を決める。二人のSHは自らのサイドにボールが出るタイミングで列を上げ、パスを受けたボールホルダーにプレッシャーをかけていた。そして二人のDHのうち田中が相手のマーク役、茨田は後ろでスペース管理するバランサー役を務めることが多かった。最終ラインではボールサイドのSBが最終的なボール奪取役を務め、他3枚がスライドして同数でポジションを取る。
前半5分、池田の先制ゴールが生まれたセットプレーに繋がるファールを得たシーン。川崎がGKから繋いでいく格好。右CB高井から右SB佐々木へパスが出ると平岡が即座にプレッシャー。脇坂がサポートに近寄るところを田中がしっかりと後ろからマークしてタッチライン際へ追いやる。脇坂がパスを引き出したスペースでは杉岡が待ち構えて前向きにボール奪取。ルキアンにパスを通して高井のファールを誘った。

サイドに追い込んで杉岡でパスカットした。
この手法のベースとなったのは昨シーズンのプレス方法。5-3-2システムで臨んだアウェイ京都戦を例に見てみよう。

京都のボール回しをプレスで封殺した試合。
この試合ではパスの受け手をマークして抑え、サイドに誘導して左WB杉岡でボール奪取を繰り返し成功させていた。ただしボールホルダーへのプレッシングは放置気味で、イヨハのボールスキルが乏しかったこと(加えて利き足と逆のサイドに配置されたこと)が起因していた面も大きい。とはいえこの試合は内容でも良い出来であり、守備においては一定以上の手ごたえがあったはず。つまり昨シーズンのプレスがハマっていた試合(守備が機能していた試合)を基準にして、どの相手でもそれが出せるような配置を目指そう、というのがシステム変更の出発点なのではないかと推測する。
5-3-2システムではボールホルダーへのプレス役が足りず、最終ラインが1枚余っていた。守備のセオリーでは相手よりも1枚多く配置するのが鉄板であるが、ボールホルダーに規制がかけられない配置では本末転倒。そこで最終ラインを1枚削り、プレス役に割り当てたのが以下の図である(赤丸内、大岩と岡本が移動)。

ボールを奪う位置は変えずに圧力のみ高める。
この配置であればボールホルダーへのプレッシャーをかけつつ、サイドへ誘導して杉岡でボール奪取も図れるはずである。では最終ラインを1枚削り、プレス役を1枚増員した5-3-2システムはどのように変化するだろうか?

ボールに近い選手のマーカーとして田中を配置できるのもメリット。
上図のとおり、4-4-2になる。この並びを見て人によっては4-3-3や4-2-3-1と捉えるかもしれないが、数字の並びは実は何でもよい。重要なのはプレス方法のアップデートの結果としてシステム変更が行われたという点である。この試合結果をシステム変更(=枠組みの変更)ありきで批判すると、本来の意図を汲まない的外れなものになるだろう。

なんでもよいといった数字の並びだが、4-4-2の2DHを採用することで明確なメリットが1つある。ボールハンター田中聡の解放だ。アンカー起用されていた昨シーズンは自身が出ていくと、そのスペースを誰が埋めるのか?という問題に悩まされ中々相手陣でボールを追いかけるシーンは作れなかった。しかし相棒のDHにスペース管理を任せれば、田中自身が相手のキーマンに食らい付いてボール奪取を狙える。たとえサイドに逃げられたとしてもそこにはフィジカルに優れた両サイドバックが待ち構え、そこでも奪えなければ4-4ブロックで撤退守備に移行。個人と組織、二段構えの奪いどころを設定できるのも昨シーズンからのアップデートと捉えられるだろう。そして実際にこの試合でも田中と杉岡によるボール奪取から得点につながるセットプレーを生み出した。
また4バックであればシーズン開幕前から枚数不足が指摘されていたCBも2枚で足り、ミドルゾーンで構えるためスピード不足を突かれるリスクも減少。人数過多とも思われた中盤も1枠増えた上に様々なキャラクターが求められるため、編成上でも都合が良いようにも見える。
とはいえ良いことづくめなわけがなく課題も明確で、相手ゴールに迫るパターンのほとんどがカウンターであること、また自陣からボールを繋いで運べない点にある。
■課題も引き続き
非保持=プレスの部分では昨シーズンからのベースを引き継いである程度の成果が見られたが、保持の面で課題があるのも昨年から引き続き。どんなシステムにしても大してビルドアップ出来ないならば、一定のクオリティが出せる非保持に比重を割くのも理解できるなと思ったりもする。とはいえ4-4-2そのままの配置だと相手に捕まりやすい状態なので(2DHが縦関係になるのは意識的にやっている様子は見られたが)、SHの2選手やFW2枚の役割分担は試合を通して深めていく必要があるように思われる。
ここからは筆者の想像だが、山口監督をはじめとするスタッフ陣は今シーズンのチーム構築を非保持=ボール奪取をスタート地点して始めたのではないだろうか。昨シーズン形が出来た”我慢強く守備をしながら”のサッカーをベースにしながら他局面(保持、ポジティブトランジション、ネガティブトランジション)についてシーズンを通して構築を進めていく予定で、現時点では非保持が7~8割、非保持の成功パターンであるポジティブトランジションが半分程度、保持とネガティブトランジションはほぼ未実装、といったところだろうか。ちなみに昨シーズンはゴールから逆算して実装を進めたが、道半ばで破綻した印象である。
その意味でいうと、攻撃の面で変化を期待を持っていた方にとっては退屈で残念な試合に映ったはずだ。スターターの人選も4-4ブロックを機能させるのを優先していたように見え(だとすればルキアンは本当によくやっていた)、阿部や淳之介が入ってからの方が攻撃は活性化していた印象である。だが指揮官が優先しているのは守備構築であるため、ご期待に沿えるのはまだまだ先のことになりそうだ。おそらく次の取り組みはネガティブトランジション、ボールをどう失うか?のはずである。攻撃の構築はその次段階だろう。
試合結果や選手の振る舞い、チームの文脈をどのように捉えて反応するかは人それぞれであるが、応援するチームが何をしようとしているのかくらいは見てあげてほしい、と思う次第である。
試合結果
J1リーグ第1節
湘南ベルマーレ 1-2 川崎フロンターレ
湘南:池田(7')
川崎:脇坂(24')、エリソン(56')
主審 小屋 幸栄
タイトル引用:kz (livetune)/Hand in hand (リゼ・ヘルエスタ Cover)
kz (livetune) の楽曲より引用。新シーズンの開幕を告げる一戦、久しぶりに歌われたチャントがより大きく響いていくことを願って。
いいなと思ったら応援しよう!
