輸送状況の狂乱と将来のボードゲームのコスト(Shipping madness and future cost of board games)
前回の記事はこちら。
今回も、元NSKN Games、現Board&Diceの中の人であるAndrei Novac氏の投稿を翻訳した。元の投稿は、2021年8月15日にされており、やや古い。また、世界的に輸送状況が混乱していることは、ボードゲーマーにとっては公知の事実である。したがって、翻訳する意義は比較的小さいといえる。もっとも、前回(上記リンク)、前々回(本記事末尾にリンクある。)と翻訳した関係で、この投稿だけ翻訳しないのはやや中途半端に感じたこと、後で振り返ってみてこんなことがあったという記録を残しておくことにはなお意義があると考えて翻訳している。
今回の翻訳・公開についても、Andrei Novac氏の許諾を得ている。元記事は以下のとおりである。
話は2019年11月から始めないといけません。今となっては……日常と心から呼べた時でした。その時は、たくさんの業務と冬休みに備える十分な時間がないことで、そんなふうには思えませんでした。Board&Diceの製造と物流(ほかにもたくさんありますが。)の責任者として、50000個の様々なゲーム中から、確実に中国にある私たちの工場から受け取り、アメリカ、ヨーロッパ、東アジアにある様々な工場に輸送していました。今となっては、その作業は時間がかかりますが、お決まりの仕事でした。それ(その作業)は、物流パートナーの1人(FedEx)に見積りを依頼し、それを確認し、FedExに私たちの工場とやりとりさせるのと同じくらい単純なものです(加えて、膨大な書類もありましたが、重要な話ではありません。)。もう飽きましたかね。えぇ、そうだろうと思います。この話は、全く楽しいものではないのですから。
2020年に起きた特別な出来事は、残念ながら、感染症の拡大でした。私にとって予想外のことでしたし、家族や親しい友達が生きていて元気なほど十分に運が良かったといえるので、コロナが与えた社会的、個人的な影響について議論する気はありません。しかし、感染症の拡大は、私たちの生活のほとんど全ての面に影響を与え、いまだ大幅な影響を経済に与えています。ボードゲームはそのような経済の不可欠な要素であり、そのことを私が今回書いてみようと思います。
2019年11月から2021年8月に至るまでの状況を比較し、いくつかのデータを見てみましょう。
2019年11月において、中国の上海からアメリカのカリフォルニア州オークランド(西海岸)までの40フレートトン(※運賃トン。運賃算定に用いられる重量の単位で、重量トンと容積トンがある。)コンテナの海上輸送コストは2900ドルでした。この金額に加えて、ほかの料金(港湾使用料、荷積み料、荷下し料、税関、保険等)がありました。ただ、この部分はあまり大きく変わらなかったので、これ以上話をするつもりはありません。
私は、この文章を書きつつ、freightos.comというbooking.comによく似た海上輸送用の情報収集サイト(aggregator)を使って、今現在の同じルートでの輸送料を確認することができます。物流サービスの最大手ですら、直ちに顧客に値段を示すことができるように見積りシステムをそのサイトに組み入れています。なぜ、freightos.comについての不満をぶちまけるか。そのサイトで見つかる料金がまさに現実なんだってことを強調しやすくするためです、本題に戻りましょう、今日、同じルートで同じサービスの場合のコストは18000ドルにもなります!
中国の上海からドイツのハンブルグまでという違ったルートを使って同じような比較をしてみましょう。ハンブルグは、ヨーロッパで最大規模の港の1つで、この大陸に到着するボードゲームの少なくとも3分の1の入口となっています。
2019年は、その(輸送)コストは1600ドルでした……。
他方、2021年の夏である本日では、16500ドルになっています!
しかし、なぜ、誰かが海上輸送の費用の急騰について気にしなければならないのでしょうか。答えは明白で、物流のコストは商品全体の価格構成に含まれています。そして、ボードゲームは……商品ですね。そこで、もう少しより詳細な部分に踏み込んでみましょう。そのためには、例としていくつかの作品が必要となります。どのようにしてコンテナ輸送のコストがボードゲームの価格に影響を与えるのかをみるために、その大きさ(つまり、コンテナに何個のゲームが収まるかという問題)と希望小売価格(MSRP)を見る必要があります。
まず、箱のサイズが大きいゲームを見てみましょう(「チケット・トゥ・ライド」の大きさ)。「テオティワカン :シティオブゴッズ」は、希望小売価格が50ドルで、良い例となるでしょう。40フレートトン(ft)のコンテナ1つに、この種のゲームをおおよそ6000個入れることができるので、ゲーム1個当たりの輸送コストは、コンテナ代を6000で割ったものになります。数字の話をする前に、いくつかの業界の実情を知らないといけません。それは、出版社は60%から65%の間の割引をしてディストリビューター(※ここでは卸売業者と解して差し支えない。)に提供します。私たち(出版社)は、希望小売価格の35%から40%の間の利益を持つことになります。また、私たちは、ディストリビューターに輸送するためのコストの一部又は全部を負担します。そこで、65%割引して、ディストリビューターが送料を負担するという平均的なシナリオを用いたいと思います。
「テオティワカン :シティオブゴッズ」の場合を考えると、2019年、出版社は50ドルからその35%の利益、つまり17.5ドルを得ます。この17.5ドルで、製造費用、マーケティング費用、デザイナーへのロイヤリティ等を賄います。ディストリビューターは、自分たちの価格構成に輸送コストを含めますが、この1個当たりの輸送コストは2019年の(中国からアメリカへの)輸送料に基づくので、2900ドル/6000個 = 0.48ドル/個となります。2021年の輸送料を見ると、この(1個当たりの輸送)コストは、18000ドル/6000個 = 3ドルに跳ね上がり、2.52ドルも増加しています。2021年においては、ディストリビューターはもはや輸送料を負担する余裕がなくなり、出版社に1個当たり2.52ドルの差額分を負担するように要求してきます(計算しやすいように2.5ドルとしておきましょう。)。出版社は、これを受け入れるか、ディストリビューターとの取引を失うかを迫られます。ディストリビューターは、かなり多くのリスクを背負ってわずかな利鞘を得ていることもあり、最終的には、これ(ディストリビューターの要求)は公平な要求であると思います。しかしながら、出版社は利益が低下することを受け入れる余裕がないかもしれません。その理由を見るために、ボードゲームの出版にかかる通常のコストを見ていきましょう。
製造(希望小売価格の1/6から1/5が私たちの平均値です。):9ドル
マーケティング:1ドル
デザイナーに対するロイヤリティ(通常は7%から9%):1.4ドル
運営費用(給料、オフィスの家賃、デベロップ費用等):2ドル
これらの費用を17.5ドル(先ほど、出版社が50ドルのゲームから得る利益)から差し引くと、4.1ドルが残りますが、これは税金について考慮してない利益になります。輸送料の値上げにより、新たに2.5ドルを負担しなければならないということは、かなり苦しいこと(a pill rather hard to swallow)だとわかると思います。製造業者も、原材料の輸送コストの増加の影響を受けるので、製造コストを下げることはほとんどなく、むしろ製造コストを上げることになります。
別のゲームとして「世界の七不思議:デュエル」を見てみましょう。箱のサイズはより小さく、1つのコンテナに18000個を収めることができます。2019年の輸送料に基づくと、1個当たりの海上輸送の費用は2900ドル/18000個 = 0.16ドルでした。2021年では、(1個当たりの海上輸送の費用は)1ドルとなり、0.84ドルの増加です。
前記と同じ論理に従えば、希望小売価格30ドル(の製品)から、出版社は10.5ドルの利益を得ます。ここから、製造費用、マーケティング費用、ロイヤリティ、運営費用を賄うことになります。私は、追加の輸送料である0.84ドルを賄うことは現実とはかけ離れていると思います(しかし、Board&Diceがそのゲーム(※「世界の七不思議:デュエル」)を出版してないので、あくまで経験に基づく推測です。)。しかし、他の出版社と輸送料の増加の問題について話し合ったところ、何事もなかったように、このコストを負担し、事業を継続することができる出版社は、このボードゲーム業界にはほとんどいないと考えてよいとわかりました。もし、この時点で、私があなたの立場にいるのならば、"なぜ、輸送業者が輸送料を値上げしたのか"とか、"いつ、値上げが起こったのか"とか、"いつ、平常に戻るのか"とかのような質問(と心配)がいくつかあったでしょう。
"なぜ"から始めましょう。感染症が拡大し、中国がほとんど閉鎖状態となった最初の数か月が経つと、世界中の需要の高まりのおかげで、(中国の)製造業は持ち直しました(ロックダウン下の人たちは、旅行するよりも買い物をするものです。)。需要が供給を上回ると、価格は均衡するまで上がり続けます。中国では著しいコンテナ不足に陥り、特に中国から北アメリカやヨーロッパに輸送される、20フィートコンテナ換算(TEU)で数十万コンテナ分の未処理の製品が滞留し、輸送料は大幅に上昇しました。
"いつ"という話です。2020年11月に、最初の輸送料の高騰を感じ取りました。2021年1月までに、中国からアメリカ(西海岸)までの輸送料は11000ドルとなった。そして、2021年5月までには平常に戻ることだろうという良いニュースを聞いていました。しかし、そうはなりませんでした。それでは、次の"いつ"を見ましょう。
業界の専門家(ボードゲームではなく輸送のです。)によると、輸送料は2022年の第2クォーターまでには平常に戻るということでした。しかし、平常に戻るといっても、2021年1月の価格に戻るという話で、既に感染症の拡大前に支払っていた値段よりも3倍高いのです。その上、もう1つ、触れておくべきことがあります。現在、輸送業者がふっかけた値段を要求していたとしても、(輸送する)スペースは極めて限られているのです。私たちが一番最近したアメリカへのコンテナ輸送では(「テオティワカン:シティオブゴッズ」、「テケン:太陽のオベリスク」、「Tawantinsuyu: The Inca Empire」が含まれています。)、繁忙期のため輸送料の50%を上乗せした金額を支払った後、大型船の空いた場所を見つけるために85日間も待たされました。
世界中のインフレの高まり(the evolution of inflation)を予測する資格があるとは思いませんが、間違いないと思えることが1つあります。出版社は中国からボードゲームを持ち出す余裕がないことから、ボードゲームの価格は上がるでしょう。私たち(Board & Dice)は、輸送の状況が再び平常に戻るだろうと期待して、希望小売価格を上げずに(事態が終息するまで)待とうとし、この夏までは実際にすることができました。近い将来には、私たちに選択の余地がないと見込まれます。
ここで、検討すべき真っ当な疑問がもう1つあります。"なぜ、ヨーロッパや北アメリカといった地元で製造しないのか"というものです。あまり(議論を)展開させないでいうと、単にそういった国々には十分なボードゲーム工場がありませんし、現代のボードゲームを製造することもできないからです(しかし、別の機会(*)にこのことを話しましょう。)。
以上
(*)別の機会は以下の記事を参照してほしい。